313:タルウィペトロ-1
「決めたわ。シンプルに行きましょう」
『その心は何でチュ?』
「格上素材、それもムミネウシンムの素材相手に凝った加工をするのはリスクしかない。以上!」
と言うわけで、『蜂蜜滴る琥珀の森』の琥珀蜜をどう加工するか決定した私は、熱拍の幼樹呪の木材製の鍋の中程まで『ダマーヴァンド』の毒液を注ぐ。
そして、そこへ『蜂蜜滴る琥珀の森』の琥珀蜜を投入してよくかき混ぜる。
『で、具体的には何を作るんでチュ?』
「べっこう飴。まあ、本来のべっこう飴は蜂蜜じゃなくて砂糖を使うらしいんだけどね」
加熱を開始。
鍋は熱拍の幼樹呪の木材製なので、木製の見た目だが、問題なく加熱できる。
だが、琥珀蜜のスペックに対して、毒の量が足りなさそうだ。
なので、毒液を少しずつ注いで、琥珀蜜の濃さに釣り合うだけの量の毒を混ぜていく。
『これは地道に進める系でチュかねぇ』
「まあ、そうなるわね」
毒液が沸騰し、水分が飛んでいく。
それに合わせて、鍋の中の液体は粘性を増していく。
「そろそろいいかしらね。ザリチュ」
『はいはい、準備済みでチュよ』
十分に粘性が増したところで、ザリチュに用意してもらった熱拍の幼樹呪の木材で作った型へと鍋の中身を注いでいく。
なお、鍋の中身の色は、毒液の深緑色と琥珀蜜の琥珀色が混ざった結果なのか、鮮やかな黄緑色になっている。
妙な臭いもしないので、見た目だけなら美味しそうに見える。
「よっと」
と、そんなことを考えている間に飴が冷えて固まったようなので、型から外して、別に用意した皿に乗せていく。
出来上がったべっこう飴の数は全部で12個。
これだけあれば十分だろう。
「じゃ、呪怨台へ行きましょうか」
『分かったでチュ』
私は呪怨台にべっこう飴の乗った皿を置く。
するといつも通りに赤と黒と紫の霧が集まってくる。
「私は虹色の眼に新たなる邪な光を与える事を求めている」
さっきの『魅了の邪眼・1』と違って、今度は『七つの大呪』による調整と増幅は不要。
むしろしたら、今の私では御しきれないだろう。
「睨みつけたものの身を石に変え、精巧なる彫像へと変えるような力を求めている」
幾何学模様を描く霧の色は黄緑色……いや、ライムグリーンに近いか?
果物のライムと鉱物のライム……石灰でライム繋がりだろうか?
「望む力を得るために私は石の灰を食らう。我が身を以って与える力を知り、飲み干し、己が力とする」
いいだろう。
それならば、それに合わせて、即興でのアレンジを加えよう。
するとライムグリーンの霧が描く幾何学模様が少しだけ変化した気がした。
「どうか私に機会を。覚悟を示し、石化の邪眼を手にする機会を。我が身に新たなる光を宿す石の呪いを」
皿に乗っているべっこう飴が一つを残して砕け散っていく。
そして、砕けたべっこう飴と呪詛の霧が、残った一つに取り込まれていく。
そうして霧が晴れた後には、鮮やかなライムグリーン色の飴が一つだけ皿に乗っていた。
「さて鑑定ね」
『でチュね』
私はいつも通りに『鑑定のルーペ』を向ける。
△△△△△
呪術『石化の邪眼・1』の鼈甲飴
レベル:25
耐久度:100/100
干渉力:125
浸食率:100/100
異形度:19
毒液と蜂蜜を混ぜ合わせて作られた黄緑色の鼈甲飴。
覚悟が出来たならば、口にするといい。
石と化してもなお命脈を保つことが出来るのであれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
▽▽▽▽▽
「……。『死退灰帰』を使うわ」
『まあ、命の危険があると言っているような内容でチュからねぇ』
私は一度皿を置くと、『虹瞳の不老不死呪』の呪詛薬・『死退灰帰』を熱拍の幼樹呪製のコップに一回分注いで飲む。
味は……微妙に酒っぽい感じがあるが、それ以上に薬っぽい感じだ。
「む……なんか妙に体が疼くと言うか、ポカポカするわね」
『周囲の呪詛濃度が24にまで上がっているでチュね。一時的にとは言え、異形度が上がったなら当然の話でチュけど』
『死退灰帰』の効果で異形度が3上がって、今の私の異形度は24。
私の周囲の呪詛濃度もそれに応じて上昇しているが、視界の制限は生じていないので、これならば『死退灰帰』は視界制限の一時解除に用いる使い方も出来るか。
ただ、この落ち着かない感じは……慣れないとミスをする切っ掛けになりそうだ。
まあ、『死退灰帰』についてはどうせズワムとの戦いでも使う予定だし、今はべっこう飴を優先しよう。
「じゃあ、行くわ」
『分かったでチュ』
私はべっこう飴を口の中に入れる。
そして感じたのは、甘みに加えて、柑橘類系の酸っぱさと、あまり感じた事のない苦み。
「す……っ!?」
だがその感想を言う暇もなく、私の体は石に変わってしまった。
表示された状態異常は石化(180)。
全身隈なく石に変化してしまい、光も、音も、匂いも、触覚も、味覚すらも感じ取られなくなって、認識できるのはHPバーや満腹度と言ったゲーム的な情報だけになってしまった。
そして、HPバーが一気に減って、そのまま尽きてしまった。
恐らくだが、石化によって体の制御が失われ、床にぶつかった部分から私の体が砕け散ったのだろう。
普通の人間ならば、確実に即死するレベルで粉々になっているに違いない。
が、私には『死退灰帰』だけでなく『遍在する内臓』もある。
この二つの呪いによって、尽きたはずのHPバーが少しずつ回復すると共に、石化のスタック値も削られていく。
しかし……ただ、システム任せで待つと言うのも芸がないか。
私は今の状態でも何か感じ取れるものはないかと、知覚できるものを探し、弄ろうとしてみる。
すると私の体にかかっている呪いを操作するような感覚が、僅かながらに生きているようだった。
どうやら、外界の知覚が出来ないからこそ感じ取れる状態になったらしい。
うん、弄ってみよう。
『不老不死』の呪いを強める、『死退灰帰』と『遍在する内臓』の働きを調べる、べっこう飴による石化の呪いがどう働いているかを感じ取る。
やれることは多そうだ。
「っう!? ゲホゲホッ!」
そうやって弄っている間に、石化スタック値が100を割り、少しずつ外界の様子が見えるようになっていく。
うん、このタイミングになって気づいたが、『死退灰帰』だけだとここを乗り切れるか怪しい。
『遍在する内臓』がないと、内臓の大部分が石化している状態なのに一部だけ石化解除されたせいで、石化解除された部分が酸素不足などで死んでしまいそうだ。
「あー……だいぶ戻って来たわね」
『そう……みたいでチュねぇ……』
やがて私の体の大部分の石化が治り、ザリチュも戻ってくる。
で、最終的には石化は完全に解除された。
時間は……一時間もかかっていない。
案外早く治ったようだ。
≪呪術『石化の邪眼・1』を習得しました≫
「よし」
『無事取得でチュね』
で、無事に取得したので、確認である。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル22
HP:242/1,210
満腹度:130/150
干渉力:121
異形度:21
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・薬壊れ毒と化す、遍在する内臓
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血の達人』、『淀縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『暗闇使い』、『乾燥使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『超克の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を知る者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『???との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』、『雪山侵入許可証』、『海侵入許可証』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・2』、『灼熱の邪眼・2』、『気絶の邪眼・1』、『沈黙の邪眼・2』、『出血の邪眼・1』、『小人の邪眼・1』、『淀縛の邪眼・1』、『恐怖の邪眼・3』、『飢渇の邪眼・1』、『暗闇の邪眼・2』、『魅了の邪眼・1』、『石化の邪眼・1』、『禁忌・虹色の狂眼』
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『取り込みの砂』、『眼球』、『腕』、『鼠』
呪法:
『呪法・増幅剣』、『呪法・感染蔓』、『呪法・貫通槍』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・破壊星』
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ、『太陽に捧げる蛇蝎杖』ネツミテ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、喉枯れの縛蔓呪のチョーカー、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
▽▽▽▽▽
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『石化の邪眼・1』
レベル:25
干渉力:100
CT:60s-240s
トリガー:[発動キー]
効果:対象に低確率で対象周囲の呪詛濃度-10の石化を与える
貴方の目から放たれる呪いは、敵がどれほど堅い守りに身を包んでいても関係ない。
全ての守りは破れずとも、相手の守りの内から直接石へと変えるのだから。
注意:使用する度に自身周囲の呪詛濃度×1のダメージを受け、満腹度が1減少する。
注意:レベル不足のため、使用する度に石化(1)を受ける。
▽▽▽▽▽
「まあ、格上素材だった上に、石化と言う強力な状態異常なら、妥当な出来かしらね」
『低確率であっても即死系は脅威でチュからねぇ……』
ぶっちゃけ使い勝手はあまりよくないだろう。
CTは長いし、発動しても相手の耐性とは関係なく失敗する可能性があるわけだから。
まあ、即死系がガンガン決まる方がゲームとしては問題だろうし、13の目で斉射すればそれなりに決まるだろうから、受け入れよう。
「さて、『魅了の邪眼・1』の方はともかく、『石化の邪眼・1』を獲得したことで生じた植物は完全なる危険物よ。新しい邪眼の使い勝手を確かめつつ、速いところ探し出して、隔離しておきましょうか」
『分かったでチュ』
それよりも今は『ダマーヴァンド』の変化を確かめる事が必要である。
と言うわけで、私は『ダマーヴァンド』の中を探索し始めた。
さて、何が出来ているだろうか?