312:タルウィチャム-1
『さて、どうするでチュか?』
「そうねぇ……」
昼休憩を挟んで午後。
私にかかっているレベル低下の状態異常はまだ解除されない。
そろそろ解除されるとは思うのだが……まあ、先にやれることをやってしまおうか。
「とりあえず魅了の邪眼を作りましょうか」
『垂れ肉華シダの花ででチュか。素材の質と言うかランクは足りるんでチュかね?』
「そこは私の工夫の見せどころね」
私は『ダマーヴァンド』の毒液を汲んでくると、そこに垂れ肉華シダの花を浮かべる。
そして十分な距離を取り……
「etoditna『毒の邪眼・2』」
『呪法・方違詠唱』、『呪法・貫通槍』を乗せて垂れ肉華シダの花へと毒を与える。
ただし、ただの毒ではなく、非生物向けの酸のようになった毒をだ。
これによって垂れ肉華シダの花は奇麗に溶け落ち、毒液の中へ消えていく。
「で、これの水分だけを飛ばすと」
私は毒液が入っている容器に蓋をした状態で『飢渇の邪眼・1』を撃ち込んで乾燥させる。
そしてある程度乾燥させて嵩が減ったところで、午前中に回収した王女琥珀大蜂の蜜珠の他、『ダマーヴァンド』に咲いている花々、喉枯れの縛蔓呪の茶葉と言った香りがいいものを投入して、時々混ぜつつも更に乾燥させていく。
「うーん、香りの中にはアルコールによく溶けるものもあるから、こうなってくるとお酒とかが欲しくなるわねぇ……」
『今こうしている状態で凄い匂いがすると言う事は、それだけ匂いの成分が逃げているってことでチュからねぇ……』
容器から湧き上がる匂いはとても濃い。
濃すぎて、ぶっちゃけ臭い。
量を間違えて使った香水が複数種類混ざったような臭いが可愛く思えるレベルで臭い。
まあ、それを狙ったのだから当然の結果とも言えるだろうが。
「さて、呪怨台に乗せましょうか」
『分かったでチュ』
そうこうしている内に容器の中身の嵩はかなり減っている。
そろそろ頃合いだろう。
「私は虹色の眼に新たなる邪な光を与える事を求めている」
いつものように呪怨台に乗せ、いつものように赤と黒と紫の霧が集まってくる。
が、今回は元となる素材のランクが少々気になるものなので、集まってくる呪詛の中で風化は邪魔なものを削ぎ落とすように、他の呪いは削ぎ落されたものを私の求めるものへ変換するように働きかける。
「睨みつけたものの心を惑わし、隷属させるような力を求めている」
霧が幾何学的な模様を描いていく。
それと同時に、桃色に染まっていく。
「望む力を得るために私は香りを纏う。我が身を以って与える力を知り、己を保つことによって己が力とする」
周囲に魅力的で蠱惑的な、けれど恐ろしくもある匂いが立ち込めていく。
「どうか私に機会を。覚悟を示し、魅了の邪眼を手にする機会を。我が身に新たなる光を宿す魅惑の呪いを」
霧が容器に吸い込まれていく。
周囲の臭いも一緒に飲み込まれていく。
そうして霧が晴れた後には、一つの容器だけが残されていた。
『完成でチュね』
「みたいね」
では鑑定。
△△△△△
呪術『魅了の邪眼・1』の香水
レベル:18
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:12
変質した毒の液体、各種草花、蜂蜜の一種を混ぜ合わせる事で作られた香水。
覚悟が出来たならば、その身に振りかけるといい。
匂いがなくなるまで他者を惑わし続ける事が出来れば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
▽▽▽▽▽
「ふむ……」
『どうするでチュか?』
匂いがなくなるまで他者を惑わし続ける……となると、モンスターの前で使う必要があるのか。
これ、魅了出来たモンスターの数によって、得られる『魅了の邪眼・1』の効果量が変わるとかありそうだなぁ。
となると……毒ネズミたちの集落辺りでやるのがよさそうか。
あいつ等なら変な暴走をしてもなんとかなるだろうし。
「とりあえず移動するわ」
『分かったでチュ』
と言うわけで、『ダマーヴァンド』第三階層に移動。
えーと、毒ネズミたちは集まっている場所があるな。
私以外のプレイヤーたちの存在も感じるが、こちらは別に気にしなくていいか。
「では早速」
毒ネズミたちが集まっている場所に近づいた私は、呪術『魅了の邪眼・1』の香水の中身……極僅かな量の液体を自分にかける。
「……」
『……』
効果は……
「「「チュウウウウゥゥゥ!!」」」
「!?」
『たるうぃ! 逃げるでチュよ!!』
劇的だった。
何十どころではない、何百と言う数の子毒ネズミたちと毒噛みネズミ、毒吐きネズミたちが私の方へとやってくる。
それを見たザリチュは私に逃げるように言ってくるが……私は直感した。
此処で逃げては駄目だと。
「ふっ……」
『たるうぃ!?』
故に私は腕を組み、仁王立ちをし、その上で……
「跪け!!」
「「「ーーー!?」」」
高濃度の呪詛をばらまきつつ、『呪法・感染蔓』を乗せた『恐怖の邪眼・3』を毒ネズミたちに放つ。
そうして恐怖と呪詛濃度過多によって、暴走状態にある毒ネズミたちの大半を強制的に行動不能に追い込む。
「さて、匂いが収まるまではモグラ叩きならぬ、ネズミ叩きね」
『何と言うか無茶苦茶でチュね……』
「「「チュウチュウチュウ……」」」
だが、どれだけ恐怖していようとも、魅了されていることに変わりはない。
毒ネズミたちはまるで畏怖する存在を目の前にしているかのように、大人しくしつつも、私の姿を視界に収め続けている。
勿論、中には私に近づき、魅了されたままに襲い掛かろうとする毒ネズミも居るが、そういう個体にはその都度『恐怖の邪眼・3』を撃って、動きを止める。
「無茶苦茶だろうが何だろうが、習得の条件を満たせるなら問題はないわ」
『でもこれ、魅了は魅了でも、畏怖に近い魅了な気がするんでチュよ?』
「問題はないわ。愛も、畏怖も、暴走も、心を惹き付けられ過ぎればおかしくなる事に変わりはないもの」
全体がだいぶ落ち着いて来たところで、毒ネズミたちの周囲の呪詛濃度を多少下げる。
今のままだと呪詛濃度過多によって死んでしまうからだ。
で、呪詛濃度を下げたが、最初のように暴走する様子は見られない。
うん、これはいい事だ。
魅了されたからとむやみやたらと暴れ回り、考えなしの行動を取るよりも、今の毒ネズミたちのように落ち着いて、けれど心酔はしてくれていると言う方が、私には扱い易い。
「しばらくその場に留まりなさい。数が必要なの」
「「「チュッ」」」
『完全に畏怖でチュね。これは……』
と言うわけでしばらく待機。
すると幾らか時間が経ったところでメッセージが流れた。
≪呪術『魅了の邪眼・1』を習得しました≫
「よし。もう解散していいわよ」
「「「チュアッ」」」
私は毒ネズミたちに命令をして解散させる。
それから安全な場所に移動すると、自分のステータスと呪術を確認した。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル22(-1)
HP:1,210/1,210
満腹度:52/150
干渉力:121
異形度:21
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・薬壊れ毒と化す、遍在する内臓
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血の達人』、『淀縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『暗闇使い』、『乾燥使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『超克の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を知る者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『???との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』、『雪山侵入許可証』、『海侵入許可証』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・2』、『灼熱の邪眼・2』、『気絶の邪眼・1』、『沈黙の邪眼・2』、『出血の邪眼・1』、『小人の邪眼・1』、『淀縛の邪眼・1』、『恐怖の邪眼・3』、『飢渇の邪眼・1』、『暗闇の邪眼・2』、『魅了の邪眼・1』、『禁忌・虹色の狂眼』
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『取り込みの砂』、『眼球』、『腕』、『鼠』
呪法:
『呪法・増幅剣』、『呪法・感染蔓』、『呪法・貫通槍』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・破壊星』
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ、『太陽に捧げる蛇蝎杖』ネツミテ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、喉枯れの縛蔓呪のチョーカー、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
▽▽▽▽▽
△△△△△
『魅了の邪眼・1』
レベル:18
干渉力:100
CT:30s-30s
トリガー:[発動キー]
効果:対象周囲の呪詛濃度-10の魅了(畏怖)を与える
対象が使用者に抱く好感度の絶対値が高い程、効果に上方修正がかかる。
貴方の目から放たれる呪いは、敵がどれほど堅い守りに身を包んでいても関係ない。
全ての守りは破れずとも、相手の心の内に直接畏怖の念を生じさせるのだから。
注意:使用する度に自身周囲の呪詛濃度×1のダメージを受ける。
注意:対象は使用者の姿を認識していなければいけない。
▽▽▽▽▽
「む、動作固定。おまけに遠隔発動は出来ない、と」
『流石に元の素材のランクに問題がある感じでチュかね』
「でしょうね。『七つの大呪』使って、無理やり効果を上げたわけだし……まあ、上手くいっただけマシね」
とりあえず習得は出来た。
何故かただの魅了ではなく、魅了(畏怖)となっているが、まあ、そこの違いについてはいずれ確認するとしよう。
後、動作部分が投げキッスなのは……まあ、魅了ならそんなものか。
「あ、レベル低下が治ったわね」
『ようやくでチュか』
そして、ズワムに付与されたレベル低下も治った、と。
では、次に移るとしよう。
「じゃ、石化の方も狙いましょうか」
『分かったでチュ』
私は琥珀蜜をどう加工するかを考え始めた。
11/06誤字訂正