307:トライアルシー-1
「ログインっと。ザリチュ、『熱樹渇泥の呪界』は?」
『今映像を送るでチュ』
金曜日。
全ての期末テストを終えて、無事にログインした私はザリチュに頼んで、『熱樹渇泥の呪界』に居る眼球ゴーレムの視覚情報を送ってもらう。
さて、あちらの状況は……。
「まだ完全に収まってはいない感じね」
『でっチュねぇ。普段より飢渇の泥呪の海の波が高いでチュ』
熱拍の樹呪の果実を取った余波はまだ収まりきっていなかった。
取った直後が最大級の荒れ、昨日がその半分ほどとするなら、今日は普段より少し激しいくらいだろうか。
まあ、これぐらいの荒れならば『熱樹渇泥の呪界』に行って、探索をする事は可能だろう。
飢渇の泥呪の波や熱拍の樹呪の拍動に押されて、熱拍の幼樹呪が激しく動き回っているのが気になるくらいだ。
『さてどうするでチュか?』
「……」
うん、割と悩みどころではある。
探索は可能で、しかも荒れている事からこそ入手できる素材がある可能性もある。
それを入手したいと考えるならば、行くのはありだろう。
「そうねぇ……」
しかし、それと同じくらいにはやりたいことがある。
具体的には東の第二マップの解放だ。
こちらも進められるときに進めておいた方が便利だろう。
「決めたわ。東に行きましょう」
『理由は?』
「荒れている状態の『熱樹渇泥の呪界』に行くなら、もう一度果実を取って、もっと荒れている時に行った方が面白いものが見れると思うの。だから、今日は行ける範囲を増やす事を優先しましょう」
『分かったでチュ』
と言うわけで、私は多少迷った末に、東の第二マップを開放することに決めた。
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「タルだ……」
「なんて威圧感……」
「本当にカースなのか……」
昨日と同じように事前連絡を入れた上で、私は沼地のセーフティーエリアに転移した。
森のセーフティーエリアと違って、私を囲む人々の数は少ないが、転移した私を出迎えたプレイヤーの反応は動揺と恐怖、BGMはサイレンのような音だ。
中には反射的になのか、意図的なのかは分からないが、私に対して鑑定を行ったプレイヤーも居た。
まあ、鑑定してしまったプレイヤーは『生ける呪い』の称号効果によって得た反撃能力によって、頭がパーンとしてしまったが。
「さて、飛んでいきましょうか」
『でっチュね』
この場に留まっていても仕方がない。
と言うわけで、私はその場で地面を蹴り、跳び上がると、そのまま東に向かって飛んでいくことにした。
『この辺の罠は何なんでチュか?』
「海に近づくにつれて、水に触れると、そのまま水の中に引き寄せられるようになっていくらしいわ。当然正規ルートから外れると、その分だけ引き寄せの力は強くなっていくわね。勿論、沼地が毒性を有している場合には、そちらの脅威もあるわね」
『厄介でチュねぇ』
「まあ、空を飛んでいける私にはそこまで関係はないわね」
沼地には無数の河川と湖沼がある。
が、水面に触れなければ脅威はないと言う事で、私は空中浮遊と虫の翅を生かして、真っ直ぐに飛んでいく。
時折空中に居る私に向かって、水面から飛び出して襲い掛かろうとするモンスターも居るが、それらは『気絶の邪眼・1』であっさり撃墜されていく。
「おっと、一度着地ね」
『チュ?』
「お仕置きモンスターが来てたわ」
『ああなるほどでチュ』
と、水中に巨大な影が生じ始めていたので、私は適当な地面に足を下す。
すると影は消え去った。
どうやら水上を移動し過ぎていたようだ。
『今のたるうぃならお仕置きモンスターと戦えるんじゃないでチュか?』
「流石に無理でしょ。火力は足りるでしょうけど、相手の動きについていける気がしないわ」
『でチュかね?』
「でっチュよ」
ザリチュの提案は流石に無理。
ここ最近の戦闘から考えて、火力については十分だと言い切れるが、最初に遭遇した時の経験からして、こちらが邪眼を決めるよりも早く撃墜される可能性が高いと思う。
そして、邪眼を決められても、倒すまで相手の攻撃を凌ぐことが出来るとは思えない。
少なくともザリアたちの助力ぐらいは欲しいところである。
「さて、そろそろいいかしらね」
では、休憩も終わったところで再度飛翔。
私は更に東に向かっていく。
すると何隻もの船が、船体の半分ほどまで沈んでいる海が遠くに見えてくると共に、灯台のような建物がはっきりと見えてくるようになる。
あれが東の境界、『試練・海への門』と言う名前の灯台だろう。
『色々飛んで来るでチュねぇ』
「まあ、昨日も私への反応は苛烈だったし、正規ルートじゃないから」
『ちなみに正規ルートは?』
「水に触れないように、迷路のような陸路を地道に進む。なお、時間経過で道が現れたり消えたりなどの変化がある素敵仕様。それと電撃が流れている事もあるらしいわね」
灯台に近づくにつれて、近くの水場から直接手が伸びてきたり、水球が飛んできたりする。
触れればそのまま水中に引きずり込まれて死に戻り。
実に殺意が高い。
まあ、『灼熱の邪眼・2』と『気絶の邪眼・1』で対処するだけなのだが。
「到着っと」
「マジかよ……」
「突っ切ってきやがった……」
「タルだから仕方がない……」
と言うわけで無事に到着。
構造は特に変わり映えはしない。
と言うわけで、私はセーフティーエリアの登録を終えると、そのままダンジョンへと突入した。
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『試練・海への門』
沼地と海の境界にある灯台。
この地の呪いは水の外にあるものを見出すと、自らの仲間にするべく手を伸ばす。
例外は灯台の主が敵でないと認めたものだけである。
呪詛濃度:10
[座標コード]
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