303:ヒートビートウッド-3
「さて、素体は出来たわね」
私は腕ゴーレムから、丁度いい太さと長さに削られた熱拍の幼樹呪の心材を手に取ると、その場で軽く振ってみる。
うん、分かってはいたが、空中浮遊の呪いのせいでマトモに振れない。
やはり近接武器としてはフレイルの形にするのがよさそうだ。
『此処からどうするでチュか?』
「まずは果実を填めるわ」
私は熱拍の樹呪の果実を手に取ると、フレイルの持ち手部分の先端に作られた輪っか状の部分に果実を填め込む。
心材の太さが直径10センチ程、果実が握り拳大と言う事で割とギリギリのサイズではあったが、無事に填まった。
その上から、果実の保護の為に作った炎視の目玉呪の水晶体を削り出したものを乗せておく。
「で、填めたら、強く振っても落ちないように固定、と」
私は炎視の目玉呪の蛇牙、毒頭尾の蜻蛉呪の毒歯、喉枯れの縛蔓呪の棘で飾り兼固定用の留め具を作る。
そして、留め具、果実、水晶体を『ダマーヴァンド』の毒液、飢渇の泥呪の砂、熱拍の幼樹呪の赤樹脂を混ぜた塗料によって、完全に固定してしまう。
「紐は……切って、少し短くしておきましょうか」
『長すぎても邪魔でチュからねぇ。あ、こっちは縄を結び付けるためのリングは、そういう形に削り出す事で作ったでチュよ』
輪っか部分の下には、継ぎ目のない形で熱拍の幼樹呪の心材から作られたリングが複数個付いている。
こういう細かい作業が出来るのは、腕ゴーレムだからこそだろう。
で、私はそのリングへと先ほど作った縄を結び付け、結んだのと反対の端に毒頭尾の蜻蛉呪の毒尾を結び付ける。
これで打撃部は完成である。
「柄に炎視の目玉呪の蛇皮を巻いてっと……」
『はいはいでっチュよー』
続けて持ち手部分に炎視の目玉呪の蛇皮を巻いていく。
この作業は腕ゴーレムの方が奇麗に出来るので、ザリチュに頼んで奇麗に巻いてもらった。
「柄頭へこれを填めてっと」
最後に毒頭尾の蜻蛉呪の甲殻から作った柄頭を打撃部とは反対側の端に填め込んで、先ほどの果実の固定に使った塗料の余りで固定する。
これで物理的な作業は完了である。
「ふう、ザリチュの腕ゴーレムがあるおかげでだいぶ簡単に出来たわね」
『でチュねぇ。心材の加工とか、手作業でやってたら、きっとそれだけで数日がかりの仕事でチュよ』
「まったくね」
では、呪怨台に乗せよう。
「……」
今回、私が込める思いは多岐にわたる。
上手くアイテム化出来るようにと言うのが第一。
壊れないように、丈夫であるようにと言うのが第二。
第三に私の呪術発動の助けになるように。
武器として使い、ダメージと状態異常を与える働きについては第四くらいだろうか。
それ以外にも私の見た目に合うようにとか、使いやすくなるようにとか、そういう雑念も混ざった気がする。
「出来たわね」
『でチュね』
なんにせよ作成は成功した。
呪怨台に集まっていた呪詛の霧は晴れ、その中から赤と黒を主体とした色合いのフレイルが現れる。
私はフレイルを手に取ると、『鑑定のルーペ』を向けた。
△△△△△
『太陽に捧げる蛇蝎杖』ネツミテ
レベル:25
耐久度:100/100
干渉力:130
浸食率:100/100
異形度:19
『熱樹渇泥の呪界』に存在するカースの素材を組み合わせて作られた、熱を発する杖。
呪いの塊と言ってもいい装備品であり、資格のない者が使えばただではすまない。
極めて丈夫であり、普通に扱っている分には傷がつく事も汚れる事もまずなく、仮に破損しても周囲の呪詛を吸収して復元する。
周囲の呪詛濃度と気温に応じて強度が上昇する。
装備者による火炎属性攻撃の威力が10%ほど上昇する。
装備者の周囲10メートル以内に存在する呪詛の支配を助ける。
与ダメージ時:毒(周囲の呪詛濃度×2+10)、干渉力低下(周囲の呪詛濃度-3)、灼熱(周囲の呪詛濃度×2)
注意:この装備を低異形度のものが見ると嫌悪感を抱く(極大)
注意:装備者は一定時間ごとに微量の火炎属性ダメージ、灼熱(5)の状態異常を受ける。
注意:装備者の異形度が15以下の場合、1時間ごとに10%の確率でランダムな呪いを恒常的に得て、異形度が1上昇します。
注意:装備者の異形度が5以下の場合、全身が発火して、火炎属性のダメージを受ける。この効果は一度発動すると、装備者が手放すまで解除されない。
▽▽▽▽▽
「重めだけど……それはレベル不足のせいね。うん、いい感じだわ」
『3レベル不足とか、普通は重くて持てなくなりそうなんでチュけどねぇ』
うん、問題はなさそうだ。
と言うわけで、装備した上で自分のステータスを表示する。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル22
HP:1,210/1,210
満腹度:132/150
干渉力:121
異形度:21
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・薬壊れ毒と化す、遍在する内臓
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血の達人』、『脚縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『暗闇使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を知る者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『???との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・2』、『灼熱の邪眼・2』、『気絶の邪眼・1』、『沈黙の邪眼・2』、『出血の邪眼・1』、『小人の邪眼・1』、『淀縛の邪眼・1』、『恐怖の邪眼・3』、『飢渇の邪眼・1』、『暗闇の邪眼・2』、『禁忌・虹色の狂眼』
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『取り込みの砂』、『眼球』、『腕』、『鼠』
呪法:
『呪法・増幅剣』、『呪法・感染蔓』、『呪法・貫通槍』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・破壊星』
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ、『太陽に捧げる蛇蝎杖』ネツミテ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、喉枯れの縛蔓呪のチョーカー、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
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「自分で言うのもなんだけど、だいぶ強くなったわね。私」
『でチュねぇ』
本当に強くなった。
装備、呪術、呪法、カース化、強くなった要因は色々とあるが、『熱樹渇泥の呪界』に挑む前とは比べ物にならないと言ってもいいだろう。
とは言え、アジ・ダハーカにはまだまだ敵わないだろうから、まだまだ鍛える必要はあるのだが。
「……。イベント前に『熱樹渇泥の呪界』のワーム討伐。行けるかしら?」
『何とも言えないでチュね。けれど、入念に準備を整えていけば、可能性はあるかもしれないでチュ』
では次に狙うべきは?
当然、まだ倒してない相手だ。
『熱樹渇泥の呪界』で考えるならば、あのワームだろう。
「よし、まずは相手の顔を見て、名前を知る事から始めましょうか」
『分かったでチュ』
私はそんなことを考えつつ、『熱樹渇泥の呪界』へ行くべく、呪限無の石門を開こうとした。
だがそこで少し考えた。
熱拍の樹呪の果実を取ったことで『熱樹渇泥の呪界』はかなり荒れている。
向こうに連れて行った眼球ゴーレムは落として、向こうに置きっぱなしになっている。
「ザリチュ。向こうにある眼球ゴーレムの見ているものを映す事って可能?」
『チュ? んー、試してみる……あ、いけるでチュね。壊れてなかったんでチュか』
どうやら行けるらしい。
と言うわけで映像を出してもらった。
「……。今日行くのは無しで」
『たるうぃに賛同でチュ』
そして行く事を諦めた。
うん、あれは無理だ。
だって、今の『熱樹渇泥の呪界』は飢渇の泥呪の海の波が、熱拍の樹呪の樹冠に届くほどの勢いで荒れ狂っていて、私の実力では生存できないのだから。
自然……と言っていいのか微妙だが、自然の驚異とは本当に恐るべきものである。
そんなことを思いつつ私はログアウトした。
10/28誤字訂正