302:ヒートビートウッド-2
「さて、回復は出来たわね」
『流石に時間がかかったでチュね』
『ダマーヴァンド』で待つこと暫く。
私のHPと灼熱の状態異常は無事に回復した。
「周囲に可燃物はなし」
『と言うか、また増築でチュよ』
で、待っている間に『ダマーヴァンド』第五階層の解体場奥に、特別解体場を設置。
万が一の際には部屋を完全封鎖、廃棄することで、『ダマーヴァンド』へのダメージを抑えられるようにする。
呪限無及び第二エリアと繋がったのと、私以外のプレイヤーが『ダマーヴァンド』に多く入ってくるおかげでDCが豊富だからこその手段である。
「じゃ……行くわよ」
『チュ!』
私は毛皮袋に手を突っ込み、中から熱拍の樹呪から奪い取った球体を取り出す。
「っう……」
『大丈夫でチュか?』
「熱い。けどダメージになるほどではないわね。幸いなことに」
球体は赤系の光と熱波を放っている。
しかし、球体一つ分の熱波ならば私の耐性でも防ぎきれるらしく、熱くはあってもダメージを受けるほどではない。
私は詳細を知るべく、『鑑定のルーペ』を球体に向けた。
△△△△△
熱拍の樹呪の果実
レベル:25
耐久度:100/100
干渉力:130
浸食率:100/100
異形度:18
熱拍の樹呪から採取できる赤い果実。
常に高温の熱波を発しており、呪いを抜きにしても取り扱いには注意が必要となる。
果実ではあるが、呪いを有する限りは腐る事はない。
果皮は硬く、光を発することから、宝石のように扱われることもある。
味は不味く、食べると体の内側から焼けただれる事になるだろう。
注意:異形度19以下のものが食べると100%の確率でランダムな呪いを恒常的に得て、異形度が1上昇します。
注意:近くにあると、一定時間ごとに距離に応じた火炎属性のダメージと灼熱の状態異常が付与されます。
▽▽▽▽▽
「一応、食べれるのね」
『食べれるだけであって、食用ではないのでチュけどね』
鑑定結果を見た私は使い道を考える。
一つは『灼熱の邪眼・2』の更なる強化に用いる形だろう。
果実を取ったことで熱拍の樹呪は最後の炎を放った。
ならばきっと、この果実はあの炎にも関わりがあるだろうし、関わりがあるのならば、あの最後の炎の力の一端ぐらいは、この果実から引き出せるのではないかとも思う。
「で、確かに宝石っぽい感じはあるわね」
『熱波のせいで、合わせられるものは限られそうでチュけどね』
もう一つは装備品に加工する形か。
まあ、どう使っても火炎属性と灼熱の状態異常に関わりのある装備品になるだろう。
それとザリチュの言う通り、合わせられる素材は限られるだろう。
ただの木材を合わせたりしたら、きっと普通に燃え尽きる。
「……」
『まあ、二個目の入手はしばらく遠慮したいところでチュから、悩みどころでチュよね』
うん、悩ましい。
もう一個手に入れてくれば解決する悩みだが、また熱拍の樹呪の葉蓑を作り、命がけの採取をしてくると考えると、無駄には出来ない。
「とりあえず装備品にしましょうか」
『理由は?』
「いい加減にフレイルを作り直すべきかな、と。で、折角だから一級品の杖にもなるようなフレイルを作ろうと思うのよね」
『なるほどでチュねぇ』
うん、決めた。
フレイルにしよう。
と言うわけで、私は熱拍の樹呪の果実を持って解体場に移動すると、そこで必要なアイテムを集めていく。
そして昨日召喚してそのままになっていた腕ゴーレムたちを操って、加工を始めていく。
「うーん、素晴らしい速さね」
つまり、垂れ肉華シダの蔓、熱拍の幼樹呪の樹皮、喉枯れの縛蔓呪の蔓から取り出した繊維を合わせて糸を紡ぎ、紡いだ糸と両端を尖らせた喉枯れの縛蔓呪の棘を絡めつつ束ね、長さ1メートルほどの縄にした。
そうして出来上がった数本の縄の中から出来のいいものを三本選び出し、これはフレイルに使う。
で、残りの縄は両端に毒頭尾の蜻蛉呪の毒尾を毒腺ごと結び付けて、呪怨台に乗せた。
出来上がったのがこれである。
△△△△△
毒縛のボーラ
レベル:22
耐久度:100/100
干渉力:115
浸食率:100/100
異形度:17
主に毒頭尾の蜻蛉呪と喉枯れの縛蔓呪の素材を利用して作られたボーラ。
縄から出る棘に触れたものに干渉力低下、両端の重りで打たれたものに毒を与える効果を有している上に極めて丈夫。
この縄で捕らわれれば、自力での脱出はまず不可能だろう。
与ダメージ時:毒(周囲の呪詛濃度×2+10)、干渉力低下(周囲の呪詛濃度-3)
▽▽▽▽▽
『これどうするでチュ?』
「適当に使うわ。イベントの時に味方に配るのもありね」
棘の生えた縄の両端に大きな蠍の尾が付いていると言う凶悪な見た目以上に厄介な代物が出来た。
上手く使えば、色々と面白いことが出来るだろう。
「んん?」
さて、毒縛のボーラを10本ほど作っている裏では、熱拍の幼樹呪の心材への加工が進んでいた。
『出血の邪眼・1』を使って、1.5メートルほどの長さで切り出した上で、目的の形に向かって腕ゴーレムが削っている。
フレーバー通り、金属並に堅いが、腕ゴーレムの性能と数があれば、時間はかかっても加工できない程ではない。
が、此処で私は思わぬ副産物が生じている事に気が付いた。
『どうしたでチュか?』
「心材の木屑が残っているわ」
それは削られて粉になった熱拍の幼樹呪の心材だった。
『それは……確かに珍しいでチュね』
「それだけ心材が内包している呪詛の量が多いと言うことかもしれないわね」
普通……と言うか、熱拍の幼樹呪の木材を削った時に出た木屑は、大気中に存在している風化の呪いによって出る度に消滅していた。
他のアイテムの端材にしても、もう何にも使えそうにないと言うサイズになると、勝手に消滅していた。
だが、熱拍の幼樹呪の心材は、どうやら粉になった程度ではまだ使い物になるらしい。
「よし、粉を集めて、ちょっとしたアイテムを作りましょう」
『分かったでチュ』
折角残っているなら利用しない手はない。
と言うわけで、私は熱拍の幼樹呪の心材の粉を集めると、熱拍の幼樹呪の木材で作った薄い板と板の間に挟み込んだ上で、だいぶ残りの量が少なくなってきた赤樹脂によるコーティングを行い、呪怨台に乗せた。
出来上がったアイテムがこれである。
△△△△△
熱拍の幼樹呪の懐炉札
レベル:20
耐久度:100/100
干渉力:110
浸食率:100/100
異形度:18
熱拍の幼樹呪の素材を利用して作られたカイロ。
表面を力強く叩くことで使用でき、一時的に所有者の脈拍に反応して、体温を上昇させる。
所有者に氷結属性攻撃無効化(小)、氷結属性攻撃に対する微弱な耐性を与える。
所有者に凍結、疲労に対する耐性を与える。
全ての効果は脈拍が速くなれば強化される。
注意:肌に直接触れる形で持っている必要があります。
注意:使用開始からゲーム内で12時間経過すると効果が失われます。
注意:脈拍と火炎属性への耐性によっては、使用中一定時間ごとにダメージを受けます。
▽▽▽▽▽
「お、これがあれば雪山にも行けそうね」
『でチュね。少なくとも今よりはだいぶマシになると思うでチュよ』
こちらは全部で36枚ほど出来た。
これだけあれば、当面困る事はないだろう。
「さて、フレイルの作成もいい感じね」
そして、毒縛のボーラ、熱拍の幼樹呪の懐炉札を作っている間に、フレイルの制作もだいぶ進んでいた。
10/27誤字訂正