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『Curse Nightmare Party』-邪眼妖精が征くVRMMO  作者: 栗木下
5章:『熱樹渇泥の呪界』
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301:ヒートビートウッド-1

『今日はどうするでチュか? いい加減に熱拍の幼樹呪の心材に手を出すでチュか?』

「その前に回収しておきたい……いえ、確認しておきたいアイテムがあるわね」

 さて水曜日である。

 確かにザリチュの言うように熱拍の幼樹呪の心材に手を出したい気持ちはある。

 が、手を出す前に確認しておきたいアイテムがある。


『確認しておきたいアイテムでチュか?』

「熱拍の樹呪の天辺にある球体よ」

『アレでチュか。熱拍の樹呪の葉蓑で何とかなるかどうかでチュね』

「そうね。まあ、どうにかならないんだったら後回しにするだけの話ね」

 『熱樹渇泥の呪界』であの巨大ワームに関わらずに回収出来そうな最後のアイテムである。

 回収できるか分からない。

 回収出来たとして、何に使えるかも分からない。

 だからこそ手にしたい。

 未知の塊と言う他ないアイテムがあると分かっているのだから。


「と言うわけで行きましょうか」

『分かったでチュ』

 私は熱拍の樹呪の葉蓑を毛皮袋に入れる。

 それと眼球ゴーレムも一つ毛皮袋に入れおこう。

 あの高温空間でザリチュのゴーレムが使い物になるかを確かめることが出来るし、使い物になるなら熱拍の樹呪の葉蓑の欠点を少しは抑えられるだろう。

 と言うわけで、今日の活動開始である。



----------



「相変わらずの灼熱具合ね」

『でっチュねぇ』

 さて、『熱樹渇泥の呪界』へ移動し、上昇、熱拍の樹呪の樹冠へとやってきた。

 そこは相変わらずの高温空間であり、足元の色こそ緑だが、死のクレーターとでも言った方が正しそうな領域である。


「では早速」

 私はまず熱拍の樹呪の葉蓑を毛皮袋から取り出して、ザリチュの上に被せるように着用。

 すると他の装備と比べて圧倒的と言う他ない火炎耐性のおかげか、着用と同時に暑さを感じなくなった。


「うーん、想像よりはるかにすごいわね」

『でチュねぇ。これならクレーターの中心まで行けそうでチュ』

 ただ、予め分かっていた事ではあるが、やはり葉蓑を着用中に戦闘をする事はほぼ不可能そうだ。

 葉蓑は露出している部分が顔だけで、雨合羽のような袖部分は存在しない。

 その上で、頭の上から(くるぶし)の下まで隠せる丈がある。

 よって、蓑の外が見える目は顔の二つだけであり、背中の翅を動かして動き回る事も出来ない。

 おまけに今試してみたのだが、葉蓑の裾をまくってしまうと、それだけで耐熱効果が大きく損なわれるようだ。

 で、葉蓑の耐久度はお察しのレベルである。

 つまり、葉蓑を身に着けるだけで機動力も攻撃力も防御力も皆無の状態になり、葉蓑を外したら熱に焼かれて死ぬ。

 やはり戦闘は不可能と判断する他ない。


「おっと、眼球ゴーレムを出しておきましょうか」

『んー……案外大丈夫そうでチュね』

 私は顔を出すための穴から眼球ゴーレムを外に出す。

 そしてザリチュが眼球ゴーレムを操って、蓑の上、私の頭上に移動。

 その場でゆっくりと水平方向に眼球を回転させて、周囲の警戒を始める。

 うん、送られてくる視覚情報からして、この環境でも活動に問題はないようだ。


「よし、行きましょう」

『分かったでチュ』

 これで準備完了。

 私は久しぶりに虫の翅に頼らず、自分の足だけを使った移動を始める。


「葉は大きく、分厚く、私が端の方に乗ってもびくともしない。ありがたいわね」

『クレーターを上るのは大変でチュが、下るのは楽でチュねぇ』

 注意深く進んでいる上に、慣れない移動方法なので、移動にはそれなりの時間がかかった。

 だが、私が思っている以上に葉がしっかりしている事と、炎視の目玉呪たちがこちらの事を気にする素振りすら見せなかったおかげで、時間はかかったものの苦労はなかった。


「さて、これが目的の球体なわけだけど……」

 そうして私は緑のクレーターの中心で輝く球体の前に立った。


「松ぼっくり?」

『確かに形状は近い感じでチュね』

 近づいたことで分かったことだが、輝く球体は数百数千と言う握り拳大の球体が集まる事によって作られていた。

 敢えてその姿に近いものを上げるなら、球体にした松ぼっくり、ぶどう、トウモロコシ、そんな所だろうか。


「何秒くらいなら裾を上げても大丈夫だと思う?」

『長くても10秒。出来るなら5秒ぐらいに抑えて欲しいでチュねぇ』

「分かったわ」

 周囲に熱波を放っているのだから当然だが、目の前の球体は恐ろしい程の高温を放っている。

 今は葉蓑のおかげで熱を感じていないが、葉蓑の効果が薄れれば、直ぐにでも熱によるダメージを受け始める事になるだろう。

 だが、ダメージを受ける事を覚悟すれば、この球体の回収も可能であるはずだ。

 私は葉蓑の下で短剣を構える。


「すぅ……せいっ!」

 裾を上げた瞬間に、莫大な量の熱を感じた。

 HPが目に見えるスピードで減っていき、灼熱の状態異常も目に見えて増えていく。

 その中で私は短剣を突き出し、複数の球体を叩き、叩かれた球体の内の一つが外れて転がった。

 私は外れた球体を素早く拾うと、直ぐに毛皮袋の中に収納。

 回収に成功した。

 成功したが……


「っ……想像以上にきついわね……」

『ギリギリだったでチュね……』

 受けたダメージは最大HPの80%近く、灼熱は1,125で完全に重症化。

 おまけに球体を拾った左手は黒く焼け焦げて、碌に動かない。


「とりあえずフェアリースケルズを使って重症化を……何っ!?」

『チュア!?』

 私は腰のフェアリースケルズに手を伸ばそうとした。

 しかし、それよりも早く地面が……いや、足元の熱拍の樹呪が大きく震えた。


「逃げるわよザリチュ!」

『分かったでチュ! 頑張るでチュよ! たるうぃ!!』

 私は熱拍の樹呪の樹冠の外へ向かうように全力で駆けた。

 そんな私の頭上にあって、周囲を映す眼球ゴーレムは、熱拍の樹呪の樹冠が端の方から反りあがって、クレーターの内側から外へと出られないように、クレーターを閉じようとしている姿を私に伝えてきていた。

 このままではまずい。

 行きで分かっているように、熱拍の樹呪の葉は大きく、分厚く、しっかりとしていて、ただのタックルで押し破れるようなものではない。


「ちぃ……citnagig(シトナギグ)小人の邪眼・1(タルウィミーニ)』」

 ならば小人化ですり抜けるしかない。

 幸いにして蓑の下にある目は戦闘に使えないからと、『小人の邪眼・1』はチャージはしていた。

 なので私は自分に小人を付与。

 16センチほどの身長になると、葉と葉の隙間に体をねじ込んで、その先にあった勢いよく跳ね上がってくる枝も避けて、熱拍の樹呪の樹冠の外を目指す。


「抜け……た……!」

『やったでチュ!』

 気が付けば熱拍の樹呪の葉蓑は破損し、消滅してしまっていた。

 眼球ゴーレムも何処かに落ちてしまった。

 残りHPも1割を切るかどうかになっている。


「ははっ、一時はどうなるかと……」

 それでも脱出に成功した。

 私は重力に体を任せ、自然落下によって、まるで緑色の火を灯す蝋燭のようになっている熱拍の樹呪から距離を取っていく。


「っ!?」

『チュア!?』

 そんな私の前で熱拍の樹呪が火を噴きあげた。

 緑色の葉の全てが炎に包まれ、『熱樹渇泥の呪界』の中心にある太陽に向かって、炎の柱が立ち上る。

 その火力は既にだいぶ離れているはずの私の身にも熱が伝わるほどであり、巻き込まれた炎視の目玉呪を塵一つ残さず焼却するようなものでもあった。

 巻き込まれたらどうなるかなど考えるまでもない。


「熱拍の樹呪が焼け落ちていく」

『一度限りの炎、と言う事でチュか……』

 やがて炎を放ち終わった熱拍の樹呪は幹の方にまで炎が伝わり、あっという間に焼け、崩れ落ちていく。

 その姿は何処か悲壮感が漂う物であった。

 だが同時に、今までに見たことがない光景が、現実では見たくても見れない光景が見れたことで、私は確かな喜びを感じていた。

 しかし、その喜びを何時までも感じているわけにはいかなかった。


「ヤバい。とっとと『ダマーヴァンド』に戻るわよ! ザリチュ!」

『ちゅ、ちゅあ!? どうしたでチュか!? たるうぃ!!』

 私は小人状態を解除すると、直ぐに近くの熱拍の幼樹呪に向かって飛び始めた。

 何故か?

 そんなの決まっている。


「熱拍の樹呪の巨体が崩れ落ちたことによる大波が起きるわ! 飢渇の泥呪の、黒い砂の海の、飲み込まれれば死亡確定の大波よ!」

『!?』

 単純に命の危機だからだ。


「間に合いなさい!」

 熱拍の樹呪の体は焼け落ち、風化現象が起きてもなお巨大で重かった。

 そんな大きな物体が砂の海に落ちれば、当然、その分だけ砂の海も動かなければいけない。

 おまけに熱拍の樹呪が放った炎の影響なのか、『熱樹渇泥の呪界』の太陽が激しく脈打ち始めており、それに合わせるように、他の熱拍の樹呪の拍動も、飢渇の泥呪の海の動きも激しくなっている。

 そう、『熱樹渇泥の呪界』全体が激しく蠢いて、環境に適応できない生物を皆殺しにしようとしていた。


「はぁはぁ……何とか生き残ったわね……とりあえず次に回収する時はもっと準備を整えてからにしましょう」

『でチュねぇ……』

 ここ最近は『熱樹渇泥の呪界』にも慣れて、気軽に行くようになっていた。

 だがやはり呪限無は呪限無。

 露わになった殺意の高さは普通のモンスターたちが示せるようなレベルではなく、決して油断してはいけないものだった。

 ギリギリのところで『ダマーヴァンド』へ帰還することに成功した私は、そんなことを思いつつも、灼熱の状態異常とHPの回復に努めるのだった。

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