299:カースドラッグ-1
「さて、どうなったかしらね?」
私はカース3種類の素材を入れ、垂れ肉華シダの蔓を巻きつけた二つの球根の内、片方を軽く振ってみた。
うーん、振った時の感覚からして、球根の中には液体しか入っていない状態になっているようだ。
毒液を利用したことと、事前によく煮たことで、全部上手く溶けたようだ。
「垂れ肉華シダは……外さない方がよさそうね」
『外そうとした瞬間に微かにでチュが、周囲の呪詛が動いたでチュね』
私は球根に巻き付けた葉付きの垂れ肉華シダを外そうとして、直ぐに止めた。
ザリチュの言う通り、外そうとした途端に周囲の呪詛が動いて、球根の中に吸い込まれて行きそうな気配があったからだ。
たぶん、ここで外すと、折角の加工が無駄になった上に、一気にカースが復活するのではないだろうか。
「このまま呪怨台に乗せて、活動を強制停止しちゃいましょうか」
『でチュねー』
私は球根を呪怨台に乗せる。
そして、カースとして復活する能力を削ぎつつ、私が求めているような薬品になる事を願う。
同時に、集まって来た『七つの大呪』に干渉して、私の願いが叶いやすくするようにする。
まあ、そこまで気合を入れたりはしない。
今後、何度も同じ物を作る事を考えたら、一々全力でアイテムを作る事など出来ないからだ。
「完成ね」
『みたいでチュね』
やがて呪詛の霧が晴れて、中から見た目は変わっていない蔓が巻き付いた球根が現れる。
では、鑑定っと。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』の呪詛薬・『死退灰帰』
レベル:20
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:19
『虹瞳の不老不死呪』が作り出した、死を退け灰より帰ってくる事を可能とする呪詛薬。
この世の物とは思えない気配を漂わせており、普通の人間ならば目にしただけでも気を失いかねない。
容器の中にはおおよそ12回分の液体が入っている。
飲むと、呪い『死退灰帰』を一時的に得て、異形度が3上昇する。この効果は一度発動するか、服用から24時間経過するまで続く。
呪い『死退灰帰』:HPが0になった時に発動。不老不死の呪いによる分解を一時阻害、周囲に存在する熱を吸収、体を再生することで、最大HPの20%分のHPを持って、その場で復活する。ただし、外気温が0℃以下の環境では発動しない。
注意:自分の『鑑定のルーペ』で鑑定してから服用しなければ、一切の効果が生じない。
注意:一度服用してからリアル時間で1日経過するまでの間に再度服用すると、呪い『死退灰帰』は得られず、100%の確率でランダムな呪いを恒常的に得て、異形度を1上昇させる。
注意:レベル19以下のプレイヤーが服用した場合、最大HPの(115-服用者のレベル)%分のHPダメージを受ける。
注意:容器の中身を小分けにする場合には、カースの素材を用いた容器に分けなければ、効果が失われる。
▽▽▽▽▽
「……」
『まーた、危険物でチュか』
「いや、予定通りだから。それにちゃんと使えば安全だから。安全よね?」
『いや、安全かは知らないでチュよ。予定通りなのは分かるでチュけど』
『虹瞳の不老不死呪』の呪詛薬・『死退灰帰』。
これは簡単に言ってしまえば自動復活薬だ。
寒冷地では使えないとか、レベルが20以上ないと実質使用不可とか、一度使ったらリアル一日明けないと駄目とか、注意事項は色々とある。
色々とあるが、それを補って余りあるほどに強力なアイテムである。
「とりあえずもう一つの球根も変えておきましょうか」
『まあ、球根そのままよりは、こっちの方が安全でチュからね』
一応掲示板で蘇生系アイテムの有無について確認しておく。
該当はなし。
自動復活は勿論のこと、他プレイヤーを生き返らせるアイテムもない。
それどころか、呪術でも該当するようなものはなし、噂レベルでも出てきていないようだ。
どうやら、デスペナルティがない事とPT機能がない事、この二つが組み合わさった結果として、『CNP』では蘇生系統は存在してもかなり高位だと思われているらしい。
「よし完成」
『で、どうするんでチュか? これ』
「そうねぇ……基本は秘匿。私個人が使う分には強敵と戦う前に事前服用。小分けしたものを外に出すなら、基本的にはザリアやスクナのように親しい上に口が堅い相手限定かしら。ライトリやストラスさんに渡すのは……『光華団』と検証班に渡すのと同義だから、微妙に悩みどころね……」
『あ、珍しく真面目に考えていッチュアアアァァァ!?』
とりあえずザリチュは抓る。
で、『死退灰帰』の扱いについては、幾ら私でも慎重にならざるを得ない。
注意事項に、自分の『鑑定のルーペ』で鑑定しないと効果が発揮されない=用法用量、作用副作用をしっかりと理解して使えと書いてはあるが、安易に表へ出したらトラブルになる事は想像に難くないからだ。
と言うか現状だと、トラブルにならない方がむしろ恐ろしいとまで言えるレベルである。
うん、交換会には出さないで、誰かに渡す場合も自分で使うように念押ししておこう。
量産も積極的にはしない方針で。
「とりあえず今日のところはこれで切り上げましょうか。明日はこっちの型を完成させて、それから『熱樹渇泥の呪界』に行きましょう」
『分かったでチュ』
そうして方針が定まったところで、私はログアウトした。
10/24誤字訂正