295:ザリチュゴーレム-1
「ん?」
「お久しぶりでございます。タル様」
大学から帰ってきた私は『CNP』にログインしようとした。
が、ログイン画面には執事服姿の男性……C7-096が居た。
「イベントの登録は早くても来週よね? 何の用かしら」
「イベントに関係する事です。少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「分かったわ」
どうやら何か連絡事項があるらしい。
うんまあ、もしかしなくても私のカース化関係の話だろう。
「ではこちらを」
「あら?」
C7-096が私に一枚の紙を渡してきたので、私はそれを受け取って内容を見る。
そこにはイベントの際に交流エリア、待機場、観戦場と言った、非戦闘区域では私とザリチュの能力の一部を封じる旨が書かれていた。
なお、実際に居るのかは分からないが、私以外の一部プレイヤーにも同様の処置は施されると言う話、個人名は出さないがこういう事をしてあると言う通知、これらについては全体に出されるそうだ。
「タル様には申し訳ない事ですが、他プレイヤーの安全などを考えた場合に、この処置は欠かせないものとなります。ですのでどうか受け入れて欲しいのですが……」
「受け入れるのは問題ないわ。必要な事なのは分かるし」
交渉の余地がないのは別にいい。
むしろやってくれた方がいい。
でないと交流エリアで私はザリチュに操られっぱなしになってしまうし、私が推定している『呪圏・薬壊れ毒と化す』の効果を封じなかったら大惨事になるのが見えている。
「でも、非戦闘区域だけで、イベント本番では制限なしなのね」
私が気になったのは、イベント本番となる戦場では、私の能力は無制限に使っていいと実質的に明言されたことだ。
てっきりバランスを取るために何かしらの制限はかかると思っていたのだが……。
「それは勿論でございます。でなければ……」
「でなければ?」
「面白くないではありませんか」
「ああ、なるほどね……」
C7-096の笑みを見て、私は納得した。
うん、なるほど、面白さ、それは確かに重要だ。
私自身の面白さ、私と戦うプレイヤーの面白さ、私に援護されるプレイヤーの面白さ、私の戦いを見る人々の面白さ、そう言うのを考えた時に、私にだけ制限があったりしたら興ざめ以外の何物でもない。
それは同時に私の弱体化を願う面々の事など知ったことかと言う運営のお言葉でもあるし、文句を言うなら強くなれと言う事でもあるのだろう。
うん、うん、とてもいいことだ。
だって制限がない方が、より多くの未知を見れるに決まっているのだから。
そして運営が許してくれると言うのだ。
「じゃあ、予定通り、私一人でも全プレイヤーを相手にして勝つことが出来るように準備を進めないといけないわね」
「おおっ、それは実に心強い事です。タル様がそれほどのお力を獲得し、披露されることを、我々運営は是非とも期待させていただきます」
「ええ、何処までやれるかは分からないけど、やれるだけのことはやらせてもらうわ」
全力を尽くす他ないだろう。
「じゃ、ログインするわ」
「はい、どうぞお楽しみくださいませ。タル様」
そうして私は『CNP』にログインした。
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『ご機嫌でチュねぇ。たるうぃ』
「ええ、ちょっといいことがあったの」
『そうでチュか』
さて、無事にログインして『ダマーヴァンド』のセーフティエリアに現れた私がまずやったのは?
ザリチュの強化のために回収したが、使わなかったカース素材が現在どうなっているかの確認だ。
特にカース肉が不穏な動きを見せていないかはよく確認しておく。
うん、問題はない。
今日中に処分すれば大丈夫だろう。
『さて、ざりちゅの呪術について説明をしてもいいでチュかね』
「渇砂操作術、『取り込みの砂』だったわね」
『その通りでチュ。では、まずは基本的なデータについて、他の呪術のようにステータス画面から見るでチュよ』
「分かったわ」
私はザリチュの指示に従って、『取り込みの砂』のデータを表示した。
△△△△△
『取り込みの砂』
レベル:20
干渉力:100
CT:60s-3,600s(1h)
トリガー:[詠唱キー]
効果:指定範囲内(1m×1m×1mの立方体)を砂で埋め尽くし、その範囲内に存在している非生物かつ有機物の型を取る事で、新たな渇砂操作術を習得する。
渇砂操作術の基礎。
この呪術によって型を作り、型の形に合わせた砂のゴーレムを召喚、操作、運用するのが渇砂操作術である。
注意:CTはザリチュが処理するが、トリガーは着用者が引く必要がある。
注意:使用する度に着用者に最大HP低下(100)、最大満腹度低下(10)、干渉力低下(10)が付与される。
▽▽▽▽▽
「ふうん、ゴーレムね。使い道は多そう」
『取り込んだ型次第でチュが、水気にさえ気を付ければだいたいのことは出来ると言っておくでチュ』
「それはいい事ね。じゃあ、ちょっと確認」
私はザリチュに情報を確認していく。
まず第一に、渇砂操作術は渇いた砂を操る呪術であって、渇いた砂を生み出す呪術ではない。
と言うわけで、『取り込みの砂』も型を取って習得した渇砂操作術も、使用に当たっては必要量の砂を準備しておく必要がある。
この時点で飢渇の泥呪の虐殺がいずれ必要なのは確定した。
なお、砂の使い回しは可能であるとの事。
「ザリチュがCT管理と言う事は、『取り込みの砂』発動後にある1時間のクールタイム中でも、邪眼術は発動できるのね」
『その通りでチュ。あ、出現させたゴーレムはざりちゅかたるうぃが操作することになるでチュよ。そして操作が切れたら、待機状態になるでチュ』
「なるほどね」
ゴーレムの暴走のようなものは考えなくていいと。
これは素直に朗報。
勝手に暴れないのはいいことである。
「使用時のコストは一時的な物よね」
『当然でチュ。でないといくら何でも重すぎるでチュよ』
一時的であってもかなり重い気はするが……まあ、邪眼術以外の呪術、しかも汎用性がかなり高いものを使えるのだから、これくらいは許容圏内だろう。
そもそも『取り込みの砂』は新しい渇砂操作術習得用の呪術なのだし。
『そういう訳でたるうぃ。早速型を作るでチュよ!』
うん、渇砂操作術についてはこれで基本的な部分は分かった。
後は実際にやってみて確かめていくべきだろう。
「却下」
だからこそ後回しにする。
『チュアアアアァァァァア!? 何ででチュか!? とても役に立つこと間違いなしでチュよ!?』
「それは分かっているわ。でもねザリチュ。今の私には優先するべきことがあるの」
『優先するべき事でチュか?』
私はカース肉……毒頭尾の蜻蛉呪の肉を指さす。
それを見てザリチュも察したらしい。
「まずはこっちよ。時間がないわ」
『でっチュねー』
毒頭尾の蜻蛉呪の肉はだいぶ周囲の呪詛を吸っていて、今にも動きそうになっていた。
10/20誤字訂正