293:現実世界にて-11
「樽笊さん。『熱樹渇泥の呪界』探索の方はどう?」
「順調ですね。だいぶ装備も揃ってきて、回収できる素材の幅も広がってきました。そう言う財満さんはどうですか?」
「怪しい場所はだいぶ見つかってきているわね。ただ周辺情報の収集に全体の底上げもあるから、大きな動きがあるのはイベント後になるんじゃないかしら。負けたら碌でもないことになる。って言うのが、前線組での共通見解だし」
「なるほど。その見解は間違っていないと思います。でもまあ、『試練・砂漠への門』の砦はそうならないための場所ですからね。一度の壊滅くらいなら大丈夫かもしれませんよ」
月曜日。
私は大学で期末テストを受けつつ、その休憩時間で財満さんと『CNP』の話をしていた。
なお、私も財満さんも勉学を疎かにしたりはしないので、リラックスして受けられている。
「あ、イベントの説明が出たわね」
「本当ですね」
さて、正午になって『CNP』の次回のイベント、『呪われた戦場の悪夢』のイベント詳細が発表された。
日時は再来週の日曜日の12時から20時までと、これまでのイベントとは異なっている。
「今回は……基本は簡単ですが、詳細まで見ると少し複雑そうですね」
「そうね。頭空っぽにして楽しんでも問題はないけど、稼ぐなら考えないといけなさそう」
開催時間が違うように、イベントの内容もかなり毛色が異なっている。
簡単に言ってしまえば……戦争だ。
と言うわけで箇条書きにして、順次感想を語っていこう。
・24倍速世界で7日間ぶっ通しの戦いになる
・プレイヤーは白と黒の二陣営に分かれて戦い、ポイントを稼ぐ
・プレイヤーは運営判断でバランスが良くなるように白と黒の陣営に分けられる
・プレイヤーは自分の希望に合わせた役割を持っていて、役割に沿った動きをすればより多くのポイントが得られる
・ポイントはイベント後にアイテムやDCに交換できる
・役割はポーン、ナイト、ビショップ、ルーク、クイーン、キングの6種類
・役割の変更はリスポーン時に可能
「チェスモチーフですね」
「そうね。黒と白、役割の名称がそのまんまだわ」
各役割に沿った動きとは?
・ポーン:何でもありだが、その分だけ補正は低い
・ナイト:無所属、敵の勢力圏での活動 戦闘活動の場合は更にプラス補正
・ビショップ:無所属、味方の勢力圏での活動 救護活動の場合は更にプラス補正
・ルーク:味方の勢力圏での活動 生産活動の場合は更にプラス補正
・クイーン:味方の本営の勢力圏での活動 どの行動にもプラス補正はかかるが、内容によって差はある
・キング:味方の拠点内で活動 全てにプラス補正 ※注意事項:一つの拠点に一人しか存在できず、討ち取られた場合、即座に拠点は陥落する。就任には砦内の味方プレイヤーからの支持を一定割合以上で受ける必要がある
「攻めるならポーンかナイト。守るならそれ以外ですね」
「変なのがキングになって守りが崩壊する未来が今から見えるわ……いやまあ、変なのがなりそうだったら、止めればいいんだけど」
「うーん、全体的に守りが有利な感じですかね?」
「そうね。攻める側になるなら考えないと」
舞台は?
・舞台は直径13kmの円形で、フィールドの端は断崖絶壁
・拠点は白の本営、黒の本営、9つの砦(初期状態では白3、黒3、無所属3)の計11個
・本営は一辺1kmの正方形、砦は一辺500mの正方形である
・東端に白の本営、西端に黒の本営、中央に9つの砦、北端の山から戦場を横断する形で南端まで幅300m程度の川が流れている(中央の9つの砦の内、3つの砦は川の上に建造されている)
・拠点の外は、拠点に最も近い砦の勢力圏として扱われる
・拠点の外は草原と森が半々程度
・呪詛濃度は5
・なお、参加プレイヤーの数によっては規模が拡大縮小する可能性あり
「広い。索敵と言うか斥候役も必要ね。これは」
「……」
その他細かいルールは?
・死んだらリアル時間1分後に味方拠点からリスポーン出来るようになる(味方拠点がない場合はランダムリスポーン)
・死んだらHPは全回復、状態異常は解除、満腹度と装備品はそのまま、
・7日目終了時点で支配している拠点が多い方の陣営が勝利となり、得たポイントにプラスの補正がかかる
・フレンドリーファイヤにダメージはないが、する度に得られるポイントにマイナスの補正がかかる
「へぇ……」
「なるほど……」
他にもまあ、細々と今回はとにかく色々と書かれている。
砦内にある設備の詳細や、貯蔵されている資材や食料の量、サプライズイベントが今回もあると言う告知、掲示板の扱い、観戦席の扱い、リスポーン待ちの間どうなっているかなど、実に本格的である。
と言うか、ここまで細かいと、もはや別のゲームの様である。
「で、樽笊さんのようなバランスブレイカーはどうするのかしらね?」
「そこですよね。私一人に対して複数人のプレイヤー、と言う形でバランスを取るんだと思いますけど……何人か居ますよね。バランスブレイカー」
まあ、一番の懸念事項は財満さんの言う通り、私のようなバランスブレイカーをどうするかだろう。
自惚れだと言われたら、それを受け入れるが、客観的に見てカース二体はバランスブレイカー以外の何物でもないし、財満さんが知っている範囲で考えても、策を練れば単騎で砦を落としかねないプレイヤーはバランスブレイカーだろう。
「まあ、運営を信じるしかないわね」
「そうですね。運営を信じるしかないと思います」
運営は私たちプレイヤーのデータを把握しているはず。
その上で今回のイベントを開催すると決めた。
ならば……きっと何とかは出来るのだろう。
であるならばだ。
「……」
私は私以外のプレイヤー全員を相手にして勝つぐらいのつもりで準備を進めておくとしよう。
「樽笊さん。その顔は止めておきなさい」
「え?」
「完全にタルフェイスだったわ。今の顔を見たら、危険人物扱い待ったなしよ」
「あはははは……気を付けますね」
そうして昼食の時間は終わり、私たちは期末テストに戻っていった。
10/18誤字訂正