231:オープンゲート-1
本日よりしばらくの間二話更新とさせていただきます。
更新時間は12時と18時です。
こちらは一話目になります。
「結局のところ、呪限無への移動方法は四つくらいあることになるのよね」
『四つでチュか』
水曜日。
私はザリチュと雑談しつつ、作業を進めていく。
ちなみに私がこうやって『ダマーヴァンド』に籠っている間に、ザリアたち、『光華団』、『エギアズ』は砂漠で活動するための方法を完全に見出して砂漠に進出。
スクナ他数名は南の火山に進出。
カーキファング、マントデア、熊ですと言った面々が北の雪山に進出。
私の知り合いはいなさそうだが、東の海にも人が出始めているらしい。
うん、素晴らしい進捗具合だと思うので、得た情報はどんどん掲示板に流してほしい。
私一人では集めきれない量の未知が広がっているだろうから。
「一つ目は『蜂蜜滴る琥珀の森』や『サクリベス地下・聖浄区画』に存在する呪限無に繋がる道を進むこと」
『正攻法でチュかね?』
「そうね。たぶん正攻法。きちんと整備された道を自分のペースで歩いていくようなものね。でも、情報が出てこない辺り、情報流出に制限がかかっているか、使用するのに碌でもない条件を満たす必要があるとか、そういう問題があると思うわ」
『確かにあの蜂のカースとかだと、何か求めてきそうでチュよねぇ』
「でも、正攻法だけあって、呪限無に行くだけなら、これが一番確実な方法でしょうね」
話を戻して、私はひたすらに小麦を練っていく。
ただし、ただ練るのではなく、呪詛濃度19の呪詛の霧を混ぜ込みながらだ。
「二つ目は転移中にセーフティーエリアの扉を開けて、そのまま外に飛び出る事」
『裏技でチュかね?』
「裏技程ではないと思うわ。とは言え、一つ目に比べたら格段に危険な方法ね。時速100キロで走る車から身を投げるような真似でしょうから」
『それは危ないでチュねぇ。しかも落ちた先から帰ってくるのも大変そうでチュ』
「そうね。行った後まで考えると、お勧めは出来ないでしょうね」
出来上がった生地に私の血と『ダマーヴァンド』産の毒草を細かく刻んだ物を混ぜ込んでいく。
毒草の量は少なめでいい、しかし混ぜ込み具合は均一でなければならないだろう。
そして、均一に混ざったら、生地の形を人型に近づけていく。
「三つ目は転移によって、呪限無に直接乗り込む方法」
『馬鹿でチュか?』
「ぶっちゃけ、これは私もないと思うわ。かかるDCの量は聖浄区画に飛び込んだ時の比ではないでしょうし、転移先の座標指定を間違えたら、何があるか分かったものではない物。さっきまでの例えで言うなら、ロケットで直接飛んでいく……いえ、ミサイルにしがみついていくようなものでしょうね」
『自殺するようなものでチュね』
「ええ、だからこれは論外ね」
人型にした生地の中に、私はあらかじめ調理して作っておいた具材を入れていく。
手足にはスティック状にして茹でたジャガイモを、内臓にはネズミ肉と野菜の炒め物を、頭には斑豆を磨り潰してよく塩と混ぜ込んだ物を、翅部分には葉物だ。
「四つ目は自分で呪限無に繋がる門を開いて、移動する方法」
『おーっと、三つ目よりも馬鹿な案が出たでチュね』
「いや、三つ目よりはマシでしょ。山に穴を掘って、トンネルを作るようなものだけど、工夫次第では幾らでもコストもリスクも抑えられるわ」
『いやいやいや、そんな簡単に呪限無に繋がる門とか開けられるわけがないでチュよ』
「簡単ではないけど、それは他の案だって同じよ。だったら転移した先のことまで考えて、この案が一番安定するわ」
最後に全身各部に目の代わりに斑豆を埋め込んでいく。
これで生地は完成。
サイズは16センチほどだが、私そっくりだ。
では、きちんと焼いておくとしよう。
『転移した先でチュか』
「呪限無は限りない呪いに満たされた場所よ。でもね、呪限無と言っても一つの世界ではなく、複数の世界……いえ、領域が存在することはフレーバーテキストから読み取れるわ」
『まあ、そうでチュね。で?』
「この世界における呪いとは、人の精神の働きに大きく影響を受けるものよ。そして今この世界に広がっている呪いを制御して、呪限無への門を開くのであれば、必然的に呪限無への門と言う呪いは、門を開いた人間からの影響を受けることになる」
『ああなるほど。良くも悪くも、開いた人間に関わりのある呪限無に繋がる可能性が高くなるんでチュね』
「そういう事。一度門が開けたなら、帰り道の心配も薄くなる。呪限無の側からこちらに何かが出てくる可能性についても、扉をきちんと閉めて、周囲の安全確保をしておけばいい。先々まで考えると、これが一番ローリスクになりそうなのよ」
『なるほどでチュねぇ』
よし、よく焼けた。
ではこれを呪怨台に乗せて呪おう。
呪いの内容としては……まあ、私の身代わり、通行料、捧げもの、そんな感じだ。
「さて、鑑定すると……」
呪い終わったところで鑑定してみる。
△△△△△
身代わり人形パン
レベル:17
耐久度:100/100
干渉力:116
浸食率:100/100
異形度:19
タルそっくりの総菜パン。
タルとほぼ同一のオーラを纏っており、見るものによっては多大な恐怖を感じるだろう。
食べると満腹度が大きく回復するが、食べた量に応じて毒、灼熱、気絶、沈黙、出血、小人、脚部干渉力低下、恐怖の状態異常をランダムに発生させる(付与されるスタック値もランダム)。
所有者から直接捧げられたものが食べた場合には、状態異常が発生しない。
注意:量産用アイテム一式に登録できません
▽▽▽▽▽
「うんまあ、問題はないかしらね」
『なんで、『禁忌・虹色の狂眼』のようなパンが出来上がっているんでチュかねぇ……』
「それについては知らないわ」
何はともあれ、必要なアイテムは出来た。
と言うわけで、私は身代わり人形パンを毛皮袋に入れると、自分に『小人の邪眼・1』を使った上で、移動を開始。
目指すは『ダマーヴァンド』第三階層、しかし第二階層の天井からでなければ入れない特殊な空間。
そう、仮称アジ・ダハーカが存在している場所へと通じる縦穴がある部屋だ。