197:2ndナイトメアプリペア-3
「結論から言ってしまうと、今回の夢の主は、お主ら呪人に呪術を教えられる。あるいは教えた人間である事じゃろう」
「根拠は?」
「いけ好かない司祭、雪女、アフロ、筋肉馬鹿、陰険研究者、どいつもこいつも儂が夢の主ならば、絶対に夢に出したりはしない奴らじゃ。そんな連中が平然と街を彷徨っているのだから、奴らも夢の主と判断するのが妥当じゃろう。他にも、似たような連中を此処までに見かけておるしの」
「なるほどね」
イグニティチの表情から感情を読み取ることは出来ない。
しかし声音からして、あまり友好的な感情を抱ける相手ではないようだ。
で、仮にイグニティチの言う通り、彼らが夢の主であるならば……たぶん、彼らもイグニティチと同じように、何かしらの呪術をプレイヤーに教えられるNPCなのだろう。
となれば、この場でうまく探せば、彼らの教えを受ける事も可能なのかもしれない。
「で、タルが不老不死の呪いさえなければ夢の主の側だったというのは?」
「そのままの意味じゃよ美人さん。タルは一応人間の範疇じゃし、この場だからこそ分かる事じゃが、タルはお主ら呪人の呪術の発端と言ってもいい。直接の指導をしたのは美人さんと後一人くらいのようじゃが、影響力は多大と言っていいじゃろう」
「え、私、システム的にはタルの弟子扱いなの?」
「らしいわね……」
私がザリアに呪術の指導をしたのは『CNP』ではなくリアルでの話であるはずなのだが、どうやら謎の技術によってザリアは私の指導を受けた扱いであるらしい。
ザリアは解せないという表情をしているが、解せないのは私もである。
「ま、タルには不老不死の呪いがあるから、なかった話じゃがな」
「まあ、プレイヤーがイベントの運営に関わると問題よね」
「当然の話ね」
「今回の夢では不老不死の呪いがあるから弾かれただけで、毎回そうとは限らんと思うがの。とは言え、これほどの夢を作れる存在となると、カースでも相当の上位存在じゃろうな……」
「「……」」
それはつまりあれか。
運営と交渉して、必要な準備を整えれば、私が夢の主として夢を作ることも可能と言う事か。
本気か運営? 正気か運営? 流石のトップハント社である。
「さて、儂はそろそろ失礼させてもらうかの」
「あらもう?」
「うむ、馬鹿弟子が近づいてきておるからの。逃げるんじゃ」
「マトチが?」
イグニティチは立ち上がると、周囲を少し見渡した後に跳び上がる。
そして、空中で足の裏から断続的に炎を吹き出しながら、近くの建物の屋上へと昇って行ってしまった。
直後。
「馬鹿師匠! 何処に行ったあぁぁ!!」
両腕に炎を纏ったマトチが現れ、周囲を見渡し、私たちに一礼をした後に、『そっちか!』と言う言葉と共にイグニティチが逃げていった方向へと駆けていった。
「何だったのかしら?」
「さあ?」
流石に怒涛の展開過ぎて、私もザリアも首を傾げる他ない光景だった。
まあ、マトチとイグニティチの間の問題だし、協力を求められない限りは外から眺めるだけに留めるとしよう。
「ねえタル。タルの弟子扱いってシステム的にはどうやったら消せると思う?」
「うーん、思いつくのは私の邪眼術みたいに、ザリアの呪術にも独自の名前を付けられるようになること。これが出来れば、独り立ちじゃないけど、師弟関係は切れる気がするけど……」
私はザリアを手招きして、顔を近づけさせる。
「ザリア。『CNP』内で私の事を呪術を習った相手みたいな内容で吹聴した経験はある?」
「吹聴……と言うほどじゃないけど、ブラクロやシロホワに話した覚えはあるわね。街中だったから、聴覚強化系のプレイヤーやNPCに聞かれていた可能性もあるわ」
「うーん、それだけで認定が来るかが問題ね」
「リアルでの出来事がカウントされているなら、記憶が覗かれたってことだものね。ああでも、私の認識の問題である可能性も否定できないのか」
「可能性が多すぎるわね」
「まったくね」
「まあ、悪影響はたぶんないでしょうし、放置でいいんじゃないかしら」
「まあ……そうね。悪影響がないことを願っているわ」
結論、分からない。
ただ仮にリアルでの出来事がカウントされているなら、リアルで『七つの大呪』について話してもアウトと言う推測が現実味を帯びることになるし、色々と注意をした方がいいのかもしれない。
うーん、ザリアが『CNP』内で呪術の練習中に私から教わったという認識を持ちながら覚えたから、であるといいなぁ。
「とりあえずブラクロたちを探すのを再開しましょうか」
「そうね。そうしましょうか」
「心配しなくてももう来てますよ」
私たちが席を立つ前に聞き覚えのある声がかかった。
なので、声がした方を向くと、そこにはカゼノマ、オンガさん、オクトヘードさんが立っていた。
「いつの間に……と言うか、よくここが分かったわね」
「二人とも掲示板で話題になってたぞ。美女が二人、お茶会をしていて目の保養になるって感じでな」
「ああなるほど……」
「ちなみにだ。ロックオ、ブラクロ、シロホワの三人は新人プレイヤーの虫除けとPvPの基本的な戦い方の説明をしている。場所も把握済みだ」
「新人?」
私たちは席を立つと、三人について移動を始める。
「悪質と言い切れるか微妙なところのプレイヤーに絡まれている少女が居たんですよ。それをブラクロとシロホワが助けた感じですね。新人と判断したのは、その子の装備品がほぼ初期装備だったからです」
「なるほど」
「あ、居た居た。彼女がそうですよ」
移動すること暫く。
ブラクロ、シロホワ、ロックオの三人に加えて、湯気のようなものを纏った藍色の髪の毛の少女が模擬戦の舞台の近くで一緒にいるのを私は見つけた。
そして、その少女の顔を見たところで、私とザリアは一瞬だけ硬直した。
「まさかの遭遇ね」
私は少女の顔が見覚えのあるもの……クカタチであることから。
「な……なんで貴方が居るの!?」
恐らくだが、ザリアは居ると考えていない相手が居たために。
「ち……妹!」
「お姉ちゃん!? それにタルさんも!?」
「「「姉妹!? 知り合い!?」」」
「あ、そういう流れなのね」
『こういう事もあるんでチュねぇ』
とりあえずザリアとクカタチは姉妹だったらしい。
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