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『Curse Nightmare Party』-邪眼妖精が征くVRMMO  作者: 栗木下
4章:『呪術師が導く呪詛の宴』
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186:タルウィテラー-1

「ログインっと」

『特に報告の類はないでチュね』

 午後、ログインした私は『ダマーヴァンド』に異常がないことを確かめると、必要な物を回収してくる。

 で、折角なので録画を開始。

 恐怖の邪眼を作る光景を記録することにする。


「小麦を挽いて、毒液と混ぜてっと」

『今回はパン系統でチュか』

「見てのとおりよ。今回はパン系統にはなるわ」

 とりあえず白麦と赤麦が入り混じった『ダマーヴァンド』の小麦を粉にして、毒液を繋ぎとして練り上げる。

 そうして出来上がったのは、薄くて円形の生地である。


「まあ、パンはパンでも、饅頭寄りなんだけどね」

『小麦粉を使う。という意味では変わらないでチュね』

 私は生地を放置すると、録画開始前に取ってきたもの……カロエ・シマイルナムンの声帯、毒ネズミの肉、『ダマーヴァンド』の呪い花、『ダマーヴァンド』の赤豆、それといくつかの毒草を刻んでいく。

 そうして刻んだ物を鍋に入れていき、『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』を利用して炒めていく。


「うーん……」

『どうしたでチュか?』

「やっぱりちゃんとした調理器具は欲しいなと思って。鍋と邪眼で炒めることは出来るけど、やっぱり不便ね。それと、調味料の類も欲しいわね。辛みは赤豆で十分、甘みは花の蜜で無理やり出せるけど、塩と酢が足りないのはキツイわ」

 調理器具そのものは、細工セットなどと同様の物がサクリベスで購入できる。

 しかし、私がサクリベスでNPCから購入するのはほぼ不可能だ。

 DCの問題もあるが、それ以上に異形度の問題がある。

 ハルワ、アムル、イグニティチと言った一部NPCは私の姿を目撃しても大丈夫だが、そうでないNPCは私を目撃してしまった場合、最悪だと永続的な狂気に陥る可能性があるのだから、私の姿を見せるわけにはいかない。


「いい感じね。では包みましょうか」

『具材を生地の中に入れて、上ですぼめるんでチュね』

「ついでに中へ淀んだ空気も入れておきましょうか」

『また変なことをしたでチュね……』

 となると正規の手段は適当なプレイヤーに仲介してもらって手に入れる事だが、細工道具の時に教えてもらった値段からして、この方法でもかなりきつそうだ。

 うーん、いっそのこと小人化した状態で夜間のサクリベスに侵入して、盗み出してしまうというのもありだろうか。

 どうせ私はNPCの好感度を深く考える必要はないだろうし。

 あ、『足淀むおもちゃの祠』の空気パックの中身を饅頭の中に注ぎ込んで、いい感じに膨らませておくと共に、具材と混ぜ合わせておく。


「じゃあ、これを蒸しに行きましょうか。あ、蒸すだけだから一度録画は切るわ」

『またクカタチのところでチュか』

「あそこは本当に熱源として便利よねぇ」

 私は手製の機材を持って『熱水の溜まる神殿』に移動すると、午前中と似た感じの方法でもって形が出来た饅頭を蒸しあげていく。

 なお、クカタチはダンジョンの奥の方に進んでいるようで、見かけなかった。


「では、録画再開っと」

 私は分類上は肉まんになりそうな物体を呪怨台の上に置く。


「私は虹色の眼に新たなる邪な光を与える事を求めている」

 いつも通りに呪詛の霧が集まっていく。

 『灼熱の邪眼・1』を利用した保温も忘れない。


「睨み付けたものを怯えさせ、恐れさせ、慄かせる力を求めている」

 その上で私は様々なホラー映画やホラーゲームの光景を思い浮かべつつ、念じていく。


「恐れよ。怖れよ。畏れよ。胸を高鳴らせ。四肢を震わせ。目を見開け」

 霧が紫色になり、幾何学模様を描く。

 ああ、いい加減にこの幾何学模様についても調べないといけないかもしれない。

 まあ、後回しだ。


「望む力を得るために私は恐怖を知る。我が身を以って与える恐怖を知り、耐え、己が力とする」

 今はこちらが優先。

 典型的な邪眼の一つとも言える恐怖を与える邪眼に手を抜くことなど出来るはずもない。


「十の獄、百の鬼、千の妖、万の霊、億の咎によって一の恐れを招くことを願う」

 私の意志に応じた呪詛の霧が幾何学模様の中に飲み込まれていく。

 蘇芳色の稲妻が迸り、黒い霧がけたたましく鳴き、紫色の波動が放たれては何度も反響する。


「どうか私に機会を。覚悟を示し、恐怖の邪眼を手にする機会を。我が身に新たなる光を宿す恐怖の呪いを」

 ああこれは期待が持てそうだ。

 既に異常極まりない、未知に溢れた現象が起きている。


「ふふっ、ふふふふふ、あははははっ!」

『チュア!?』

 霧が飲み込まれていく。

 そして霧が晴れた後、呪怨台の上には、真っ白な現実世界でも普通に売られていそうな肉まんが乗っていた。


「ああっ、饅頭怖い、饅頭怖い。本当に饅頭が怖いわぁ……」

『こ、こいつは……本格的にヤバいでチュよ……』

 私は肉まんを手に取ると、『鑑定のルーペ』を向ける。



△△△△△

呪術『恐怖の邪眼・1』の饅頭

レベル:15

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:15


毒物が詰められた饅頭。

覚悟が出来たならば食べるといい。

その身一つで試練を乗り越えれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。


saa odna no jikann ga urawo da


注意:食後、リアル時間で二時間程度は休みなく活動する事になる可能性があります。十分な時間と安全を確保してからお食べください

▽▽▽▽▽



「では、早速食べてみましょうか」

『ど、どうなっても知らないでチュからね……』

 私は呪術『恐怖の邪眼・1』の饅頭を食べた。

 そして食べきると同時に……


「ん?」

 私の意識は暗転した。

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― 新着の感想 ―
後々出てくる例のルールだと さあ 恐怖 の 時間 が 始まる だ 末尾のdaはいらないような?
さあ 安堵の 時間が 終わる だ(?)かな
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