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『Curse Nightmare Party』-邪眼妖精が征くVRMMO  作者: 栗木下
4章:『呪術師が導く呪詛の宴』
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180:トイシュライン-5

「このっ……」

 呪詛の弾丸は大きさは野球ボールほどで、弾速は発射されたのを明確に見てからでも避けるのが間に合う程度。

 つまり、きちんと見て、動けば、問題なく避けれる。

 しかし、遅いが故にブレる。

 銃身が発射の反動と回転で動いている事もあって、とにかくブレて、弾丸の癖に大きく曲がりながら飛んでくる。


「鑑定結果! 名称は錆びたブリキの壁兵士! レベル10! HPは約1万!!」

「1万……中ボス程度の実力はあると言う事か」

 マトチが鑑定結果を告げる。

 1万か……これまで戦ったブリキ人形たちからして、毒や沈黙の効果は薄いだろうし、『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』を中心に立ち回るか。


「いったいどこに隠れていたんだか……後、なんでこのタイミングで仕掛けてきたのかしらね」

『隠れていた場所は分からないでチュが、仕掛けてきたのはダエーワの仕業だと思うでチュよ』

「その心は?」

『最後の言葉。アレはたるうぃの質問に答えたのではなく、コイツへの命令だったと思うんでチュよねぇ』

 ザリチュの言葉に私は少しだけ笑みを浮かべる。

 もしもザリチュの言うとおりであれば、ダエーワは最後の最後まで私を仕留めるための策を弄していた事になる。

 それでこんな隠し玉……未知なる存在をぶつけてくれたのなら、こんなに嬉しい事はない。


「ガゴー……」

「『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』!」

 ガトリングが止まり、引っ込んで、割れた壁が元の形に戻るのに合わせて、私は12の目による『灼熱の邪眼・1』を壁兵士の体内に叩き込む。

 大量の熱が生じて、僅かに火の粉も体の外に出てきたが……やはり効果は薄めか。


「破っ!」

「いづれ炎よ。イグニッション!」

 そして、私の攻撃から一瞬遅れる形で、ドージの掌底とマトチの火球が正面から壁に叩き込まれる。

 だが、こちらもやはり効果は薄めだ。

 壁は僅かに焦げ目が入っただけで、ヒビも凹みもない。


「くっ、腕部干渉力低下だと……!」

「堅い。合計しても300ダメージあるかないかってところみたいですね」

 ドージが腕部干渉力低下を訴え、マトチが敵の堅さを具体的な数字と共に訴える。

 なるほど、これまでの道中にあった脚部干渉力低下の床、もしかしたらあの床の下にでもコイツは隠れていたのかもしれない。

 で、マトチはたぶん『鑑定のルーペ』をアップデートしてあって、相手の現在HPがある程度分かるようになっていると言う事か。


「ギゴゴゴ」

「ん?」

「またガト……これは!?」

「へぇ……」

 私がそうやって考察していると、壁兵士は少しだけ壁を持ち上げていた。

 そして壁と床の間に生じた僅かな隙間から出てきたのは……人の腕から腕を生やして繋げた、カロエ・シマイルナムンの触手によく似たものであり、先端の腕の先には、『足淀むおもちゃの祠』で散々見てきた淀んだ空気の塊のような物が握られていた。


「オオオ゛オ゛オ゛……」

「っつ!? 今度は脚部干渉力低下か!」

「わわわっ!?」

 空気の塊が握り潰されて、壁兵士の周囲にガスが立ち込める。

 どうやらこちらには脚部干渉力低下の効果があるらしい。

 二人共急いでガスの効果範囲から逃げ出している。


「ダエーワの評価をもう一段階上げるべきかしらね」

『それが適切かもしれないでチュねぇ』

 さて、もしもあの触手が見た目だけでなく、中身含めてカロエ・シマイルナムンと関わりがあるのであれば、極めて拙い事になる可能性がある。

 具体的に言えば、死に戻りに何かしらのペナルティが生じる可能性がある。


「マトチ! ドージ! 分かっていると思うけど、迂闊に死ねなくなったわよ!」

「分かっていますよ!」

 私は警告を発しつつ、再び『灼熱の邪眼・1』を発動。

 ダメージは微妙で、灼熱のスタック値の伸びもあまり良くない。


「活ッ!」

 と、ここでドージが状態異常回復を行う。

 これまでの道中で効果が無かった以上、ここで使ってもと一瞬思ったが……ドージの動きは目に見えて良くなっている。


「ちょっ!? ドージさん!? 普通に治せてるじゃないですか! まさか……!?」

「私はあのネズミもタルさんも心の底から信用していたわけではないと言う事だ。活ッ!」

 ああなるほど。

 ダエーワを油断させるため、それと私とダエーワが組んでいる可能性も考慮して、効果がないフリをしていたわけか。

 で、此処にきて、誤魔化している余裕が無くなったから、明らかにしたと。


「うん、正解の対応ね。全部見せてたら、たぶんダエーワは別の戦術を取っていたと思うわ」

『『小人の邪眼・1』も見せていたら』

「ガガガガガッ!」

 ドージがマトチの干渉力低下を解除するとともに、壁兵士が再びガトリングを発射する。

 今度の狙いは……三人全員か。

 四方八方に弾丸がばら撒かれて行く。

 なので、私は自分に向かってくるものだけを見定めて、一つ一つ丁寧に避けていく。


「ぐっ。耐えられるが……」

「そんなに何発も受けてられない程度には痛いんですけど!?」

 マトチとドージは……まあ、避けと受けを織り交ぜて凌いでいるようだ。

 とりあえず問題はなさそうか。


「『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』」

 三度目の『灼熱の邪眼・1』がガトリングを巻き込む形で放たれる。

 稼働中の武器に予期せぬ熱を与えれば、ダメージが増すと判断してのことである。


「ぎゃああぁぁっ!? 燃えるボールになった!? 僕はこっちのが楽だけどおおぉぉ!?」

「タアアァァルさああぁぁん!?」

「ごめん、やらかしたわ!」

『絶対に当たるなでチュよ! 丸焦げは嫌でチュ!』

 が、『灼熱の邪眼・1』を放った直後から、壁兵士の放つ呪詛の弾が炎を纏った熱球になってしまった。

 どうやら、銃身中の『灼熱の邪眼・1』がそのまま射出されてしまったらしい。

 私含めて、全員でそれを必死になって避けていく。


「はぁはぁ。想像以上に厄介ね。コイツ」

「まったくだ……」

「下手なボスよりもよほど強いですよね。コレ」

「ガガガ……」

 やがてガトリングが止むのに合わせて、私たち三人は一か所に集まった。

 壁兵士の倒し方を相談するためだ。


「プ……」

 だが壁兵士はそれを許さなかった。


「げっ」

「なっ」

「うわっ」

「ッシュウウウゥゥゥ!!」

 壁兵士の持つ壁が勢い良く私たちに向かってきたために、私たちは素早く左右に散って、避ける以外になかった。

 そして、避けるときに私が見たのは、壁兵士の本体と壁の間を繋いでいるのが、カロエ・シマイルナムンの触手によく似た腕であることが一つ。

 もう一つは壁兵士の本体が金属製の人形の体からカロエ・シマイルナムンの触手が何本かはみ出たものであり、人で言うところの心臓に当たる部分に、目で見て分かる量の呪詛を溜め込んだネジのような物が突き刺さっている事だった。

 で、当然のように、仔細を確認する暇もなく、壁は元の位置にまで引き戻された。


「なるほどね。コイツはカロエ・シマイルナムンの影響を受けているだけじゃなくて、『足淀むおもちゃの祠』の核でもあるみたい」

 さて、元から倒さなければ脱出できない相手だが、これでますます倒す以外の道がなくなってしまった。

 私はそんなことを考えつつ、壁兵士の次の攻撃に対処するべく身構えた。

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