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『Curse Nightmare Party』-邪眼妖精が征くVRMMO  作者: 栗木下
1章:『ネズミの塔』

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18:タルウィベーノ-1

「むう……」

 結論から言ってしまえば、毒餌作戦は駄目だった。


「食べはしたけど……」

 第一階層の毒噛みネズミの前に毒を含ませた腸を置いたところ、毒噛みネズミは腸を食べた。

 共食いに対する忌避感の類は持っていないらしい。

 しかし、毒餌を食べた毒噛みネズミに表示された状態異常は毒(1)。

 毒噛みネズミ自身の毒を使ったことが原因の一端である可能性もあるが、どうやら毒噛みネズミは経口摂取の毒に対しては強い耐性を有しているらしい。

 これでは毒餌作戦が成功する可能性はないだろう。


「ま、毒噛みネズミの前歯について少し詳しくなったから、調べた価値はあったわね」

 収穫もあった。

 どうやら毒噛みネズミの前歯が毒を生成するには幾つかの条件を満たす必要があるらしい。

 具体的には、


・前歯の先端部分が裏表共に何かに触れている

・前歯の根元から先端に向けて圧力がかかっている


 と言う物だ。

 これに加えて、説明文から周囲の空気に含まれている呪詛の濃度が高ければ生成される毒の濃度も増すことが読み取れるし、先端が触れている物の温度が生物の体温に近い方が生成される毒の量が増える事は調べられた。

 それと、なんとなくだが、一本の前歯から生成できる毒の量もおおよそ見当がついた。

 なのでまあ、濃い毒液を大量に生成する方法については分かった。


「この毒って具体的にどんな物って言うのはあるのかしら」

 セーフティーエリアに戻った私は毒噛みネズミの前歯から生成された、濃い緑色の毒液に『鑑定のルーペ』を向ける。

 この毒液は10分ほど経つと自然消滅してしまうのだが、それまではしっかりとした実体を有している。

 なので、鑑定も出来ると判断しての事である。



△△△△△

毒噛みネズミの毒液

レベル:1

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:1


呪術『鼠毒生成・1』によって生成された呪詛生成物。

血管中に入る事で毒の状態異常を発生させる。

分解されるまでの時間は周囲の温度に依存する。

▽▽▽▽▽



「呪術『鼠毒生成・1』……」

 分かってはいたことだが、この毒液は呪いによって生み出された特殊な物質であったらしい。

 それにしても呪術……呪術か。

 術とは技であり、どれほど不可思議な物であっても、内から見れば相応の理を有しているものであると私は思っている。

 そして、その理をきちんと読み解き、自分たちでも扱えるように改変を施せば、誰であってもそれなりには使える物だと思う。


「呪怨台……」

 私は呪怨台を見る。

 呪怨台の詳しい機構は分からないが、これは要するに周囲の呪詛を利用して、乗せられたものを乗せた人間が望む方向に改変する装置である。

 改変できる範囲に限度はあるが、範囲内であればかなり融通が利く物だ。


「視線に呪詛を乗せると言うのは、邪眼、魔眼としてよくある話。食べた物から力を得て、己の力にすると言うのも昔のまじないと言うか宗教、いや、シャーマニズム? とにかくオカルト系列でよくある話」

 今から私がやろうとしている事は正気の沙汰と思われない事だろう。

 しかし、呪詛に満たされたこの世界であるならば、それなりに勝算はあると思う。


「よし、やってみましょうか」

 私はセーフティーエリアから出ると、給湯室に移動。

 壊れかけのものでいいから、器になりそうなものを探し、結果として欠けた茶碗を見つけた。

 で、第一階層に居た毒噛みネズミを殲滅。

 毒噛みネズミの前歯を集められるだけ集める。


「じゃ、始めましょうか」

 集める物を集めたら、セーフティーエリアに戻る。

 まず、毒噛みネズミの骨の余りとケーブルで茶碗を床に固定。

 そして、左手で毒噛みネズミの前歯の先端を挟み込むように握って、茶碗の上に持って行く。

 で……右手に持った鉄筋付きコンクリ塊で毒噛みネズミの前歯の根元を叩く。


「よし」

 すると毒噛みネズミの前歯に含まれる呪いの働きによって、深緑色の液体が私の手を濡らしつつ歯の表面に染み出してくる。

 染み出した液体は集まる事で水滴となって茶碗の中に落ちていく。

 茶碗の中に落ちた液体は、茶碗の底に貯まる。

 成功だ。

 そして一度成功したならば……


「もっと量を、もっと濃く、強力な毒を……」

 後はひたすら念じながらの作業。

 呪怨台でアイテムを呪う時と同じように、少しでも強力な毒を得られるようにと願いつつ、毒噛みネズミの毒液を生成し続ける。


「ぐっ……まだまだこの程度で……」

 左手の目に毒液が染み込んで、焼けるような痛みが襲ってきても気にせずに生成を続ける。

 毒によってHPが少なくなってきても、危険域にならない限りは放置する。

 ここはセーフティーエリア、引き際を見誤る事さえなければ、死ぬのは即死かそれに準ずるような攻撃を受けた時だけだ。


「次……次、次! 次!!」

 毒液が生成され無くなれば次の前歯を手に取って、作業を続ける。

 時には手の中で毒噛みネズミの前歯が砕けたり、叩き方を間違えて危うく茶碗を傷つけそうにもなったが、それでも私は作業を続ける。


「13本目か……これでもう限界ね」

 そうして13本の毒噛みネズミの前歯から採れるだけの毒液を取ったところで、茶碗の欠けた部分まで毒液が入り、それ以上蓄えられなくなった。

 だから私はポーションケトルの中身を一度飲んでHPを全回復させると、毒液の入った茶碗を呪怨台へと持って行く。


「さあ、始めましょうか」

 毒液の入った茶碗が呪怨台に置かれ、霧に包まれていく。


「私は新しい力を求めている」

 私の13の目が大きく開かれて、呪怨台の上に生じた霧の球体へと視線が向けられる。


「睨み付けた敵を毒で侵し、呪い殺すような力を求めている」

 一切の変化を見逃さず、僅かな漏れも許さない気持ちで睨み付ける。


「私の虹色の(まなこ)に呪いの力を宿す事を望んでいる」

 霧が幾何学的な模様を描いているように見えてきた。


「望む力を得るために私は毒を飲む。我が身を持って与える毒を知り、喰らい、己の力とする」

 霧に赤と黒と紫以外の色が混ざり始めたように思えてきた。


「どうか私に機会を。覚悟を示し、毒の視線を放つ眼を手にする機会を。我が敵の身に毒を注ぎ込む呪いを!」

 霧が飲み込まれていく。

 際限なく茶碗の中の毒液へと飲み込まれていく。

 音もなく、光もなく、臭いもなく、けれど確かに毒液が変質していく。


「出来た……」

 そして、吸引が終わった時、呪怨台の上に乗っていたのは、見た目は一切変わっていない深緑色の液体の入った茶碗だった。

 だが、鑑定をしなくとも、それが私にとって重要であると同時に未知なる危機を招く物である事は明白だった。

 だからこそ私は敢えて鑑定した。

 確かに危険である事だけ知った上で飲む事こそが、私に求められている事であると直感していたからだ。

 鑑定結果は……



△△△△△

呪術『毒の魔眼・1』の杯

レベル:3

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:10


変質した毒の液体が注がれた杯。

覚悟が出来たならば飲み干すといい。

そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。

▽▽▽▽▽



 私の想像以上のものであった。


「勿論、飲み干すとも」

 躊躇う事なく私は茶碗の中身を口の中に入れ、胃の腑に収めていく。

 味はドブを煮込んだかのようであり、胃から鼻へと立ち上る臭気だけでも吐き気を催すようなもの。

 しかし、それでも私は一度も茶碗から口を離すことなく、飲み干す。


「ぐっ……!?」

 変化は直ぐに訪れた。


「ああああああああああああjshtこscxひrかwhぉgbszるkーーーーーーーーーーーー!?」

 私の口から放たれたのは人の物とは思えない叫び。

 私の体から感じるのは全身の血管が沸騰し、焼き焦がされるような激痛。

 私の耳が捉えたのは何千匹と言うネズミたちの鳴き声。

 私の目が見たのは激しく回転する視界と血の涙を流す私自身。


「lfsjyzhkぼてえzhg!!」

 私のHPバーが勢いよく減っていく。

 表示された状態異常は毒(108)。

 身体を無理やり動かした私は回復の水が湧き出す器に顔を突っ込むと、一気に飲み干して、HPを一気に回復させる。


「kdzsthdさあvgjyーーーーーー!!」

 叫んでは水を飲み、水を飲んでは叫び、己の行動の迂闊さと無謀さを呪いつつも命を落とす事だけは無いように、私はひたすらに回復の水を貪っていく。

 そして1分ほど経ったところで悟る。


「あははははっ! あははははははは!! AHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!」

 未知である。

 これは私の知らなかった領域である。

 私はこれを求めて、『CNP』の世界にやってきたのだ。


「イイッ! 凄くイイッ!! こんなの現実じゃ絶対に得られない!! こんな痛みは現実で知れない! こんな苦しさは現実で味わえない! 私の知らない未知がある!! ほんの入り口だけれども! 底なしの暗闇が見える! 新たな世界イイィィ!!」

 口から出る言葉が熱を帯びてはいても人の物に戻っていく。

 身体が感じる痛みが力として漲っていく。

 ネズミたちの鳴き声と言う幻聴は収まり、血の涙も消えさる。

 私の脳髄に魔眼と言う力の使い方が焼き刻まれる。


≪呪術『毒の魔眼・1』を取得しました≫

≪称号『呪術初習得』を獲得しました≫

≪タルのレベルが4に上がった≫

「ああっ、これが最高にハイって奴なのね……」

 毒が消え去る。

 心身を浮かしていた熱が収まる。

 通知が色々と来る。


「とりあえず確認しましょうか」

 私は自分に『鑑定のルーペ』を使用。



△△△△△

『呪限無の落とし子』・タル レベル4

HP:1,030/1,030

満腹度:100/100

干渉力:103

異形度:19

 不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊

称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・1』、『鉄の胃袋・1』、『呪物初生産』、『毒使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・1』、『呪術初習得』


呪術≪名称を設定してください≫:

『毒の魔眼・1』


所持アイテム:

毒噛みネズミの毛皮服、鑑定のルーペ、鉄筋付きコンクリ塊、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.

▽▽▽▽▽


△△△△△

『呪術初習得』

効果:効果なし

条件:呪術を習得する


貴方の身体自体が呪いを生み出すものとなった。

▽▽▽▽▽



「名称を設定してください?」

 さて、呪術を使うためには、まだ色々とやるべき事があるようだった。

05/12誤字訂正

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― 新着の感想 ―
もともとSAN値低かったのかなぁ急に草 すこ
[一言] サバサバ系っぽかった主人公が急に厨二病になってちょっと草
[良い点] 主人公さんのメンタルがキマッているところ [一言] 最終的に名前を言ってはいけない目玉のあいつみたいになるのかな……とソワソワワクワクしてます
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