176:トイシュライン-1
「少し早くログインしちゃったわね」
『まあ、問題ないでチュよ』
「チュッチュウ!」
現在のリアル時刻は13時55分。
14時集合予定だったところを、5分ほど早くログインできた。
さて、マトチとドージの二人はまだ居ないようだし、この5分の間に少しだけやる事をやっておこう。
「はいはいおいでっと」
「チュッ」
『やっぱりざりちゅの上に乗せるんでチュか。まあ、安全なのは分かるでチュが』
私は物陰に隠れていたリーダーネズミを招き寄せると、ザリチュの鍔に乗せる。
するとリーダーネズミは暫く周囲を見渡し、臭いを嗅いだ後、リラックスした感じで大人しくなる。
「ああそうだ。折角だから、この子に名前の一つでもあげましょうか。そうね……ダエーワなんてどうかしら?」
「チュ」
『ありがとうと言っているでチュ』
「そう、喜んでもらえたなら嬉しいわ」
リーダーネズミ改めダエーワは私の言葉に応じるように小さく鳴き声を上げる。
うん、そうか、ありがとう……だけなのね。
「チュ?」
「マトチとドージが来たわね」
「お待たせした」
「ログインしましたよ」
『あ、クカタチからのメールでチュよ』
よろしい、だいたい察した。
マトチとドージの二人が来たし、クカタチからのメールに返信したら、『足淀むおもちゃの祠』の攻略を開始するとしよう。
「それで、このダンジョンってどんな所なんです? タルさん」
「チュッチュウチュウ」
「『最初は空気が淀んでいるだけだが、その内奥に進もうとすると足が動かなくなるでチュ』だそうよ」
「敵は?」
「『おもちゃの兵隊に仲間が何人も切られたでチュ』だそうね」
『足淀むおもちゃの祠』は簡単に言えば、呪われたおもちゃ屋だ。
おもちゃの陳列された棚は天井まで伸びて、壁となっている。
空気は今のところはエフェクトなどによって不快感を感じるようになっているだけだが、ダエーワの言う通りなら、その内足が動かなくなるような物に変化していくらしい。
モンスターについては……出てきたか。
「「「ギギギ……ガガガ……」」」
「「「……」」」
陳列棚に並んでいた、大きめの錆びたブリキ人形たちが動き出し、腰に提げていたサーベルを抜きながら、通路に出て来る。
数は3体で、挟み撃ちの格好だ。
なので、私たちは無言で頷き合い、一人一体で受け持つことにする。
「鑑定っと」
私は邪眼術のチャージをしつつ、目の前の一体を『鑑定のルーペ』で鑑定してみる。
△△△△△
錆びたブリキの剣士 レベル8
HP:1,892/1,892
有効:なし
耐性:毒、灼熱、気絶、沈黙、出血
▽▽▽▽▽
「ギガガガァ!!」
「レベル8、ちょっと高めなのね」
「チュッチュウ!」
『来るでチュよ。たるうぃ』
ブリキ人形が切りかかってくる。
私はその攻撃を避けると、とりあえずフレイルを叩き込むが……効果は薄そうだ。
直ぐに立ち上がった。
しかし、非生物と言うか、ザリチュと同じゴーレムっぽい上に、金属製であるためか、耐性もガチガチと言っていいような物であるし、マトモに戦うと少々厄介そうだ。
「『灼熱の邪眼・1』」
「!?」
とりあえず『灼熱の邪眼・1』を一点集中して燃やしてみるが……うーん、大して効いている感じはないか。
一応金属製と言う事で、個人的には出来るだけ多くのパーツを回収したいが、これは面倒くさそうだ。
「地道に削るしかないかしらね」
なお、私がフレイルと『灼熱の邪眼・1』で地道に削っている横では……ドージが素手でブリキ人形を殴って吹き飛ばすどころか、金属製であるはずの剣を素手で叩き折っている。
また、背後ではマトチがゼロ距離呪術による火炎攻撃によってブリキ人形をドロドロにして仕留めている。
どうやらこのメンバーで一番ブリキ人形を苦手としているのは私のようだ。
「せいっ!」
「ギゴウ……」
「終わりましたか」
「お疲れ様」
とは言え、所詮はレベル8。
時間をかければ、無被弾で問題なく倒せてしまうのだが。
「あ、死体と言うか、体全体がそのまま残るのね」
「これもゴーレムの一種なんですかね?」
「個人的な手応えとしては、金属製の人形を殴っていると言うよりは、こう言う着ぐるみを着た別の何かを殴り倒したのに近いな」
戦闘終了後、私たちが倒したブリキ人形たちは、一切の風化現象を起こすことなく、そのまま残った。
ドージの言葉通りなら、私たちが倒したのは人形を動かしていた呪いそのもので、ブリキ人形自体は元から濃い呪いを持っているから、風化の呪いとは無縁と言う事だろうか。
しかしこうなるとだ。
「これ、放置しておくと復活しそうよね」
「するでしょうね。普通のモンスターだって、丸ごとの死体を残しておくとゾンビ化して、周囲の生物を襲い始める世界ですし」
「となると、最低限、復活しても問題がないように分解か破壊はしておくべきか」
うーん、倒した後の処理も面倒になりそうだ。
一体二体程度なら、毛皮袋に収納してしまうだけだが、数が集まってくるとそうも言っていられなくなる。
最悪、他のとまだ戦っている間に復活する事だってありそうだ。
そういう意味では、かなり厄介なダンジョンになりそうだ。
「ダエーワ。奥への案内をお願い」
「チュ」
まあ、とりあえずは回収できる範囲で回収しつつ、奥へと進むとしよう。
私たちはダエーワの案内の下、時折カタカタと何かが動く音がするダンジョンの奥へと向かっていった。