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『Curse Nightmare Party』-邪眼妖精が征くVRMMO  作者: 栗木下
4章:『呪術師が導く呪詛の宴』
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171:ストレンジャビジター-1

「ログインっと」

『おはようでチュ。タル』

「おはよう、ザリチュ」

 土曜日。

 私はいつものようにログインした。

 さて、今日はバーナー修理の為の素材集めである。

 『ダマーヴァンド』があるビルの地下から行ける下水道、あそこを調べれば、多少の金属素材ぐらいは手に入るだろう。

 そこが無理なら……いっそ転移で適当に飛んで、遠方で色々と狙うのもありか。


「ん?」

『侵入者でチュね』

 そんな事を考えつつ、『ダマーヴァンド』内でいつもの回収作業や確認作業をしていたところ、『ダマーヴァンド』の第一階層に誰かが入ってきたと言う知らせが入る。

 三人組だ。


「何者かしらね?」

 現在の『ダマーヴァンド』は条件を満たさなければ、第一階層の入り口にあるセーフティーエリアから先に進む事は出来ないようになっている。

 だから、何も出来ない他のプレイヤーたちは『ダマーヴァンド』を無視しているし、訪問者など皆無の状況になっていた。

 そこに突然三人も来たのだから……まあ、気にしない方がおかしい。


「んー……」

『どうしたでチュか?』

「いえ、もしかしたらだけど、一人はプレイヤーじゃなくてNPCかも」

 三人組は……特徴的な三人ではある。

 一人は禿頭で、神官服を身に纏った男性、異形らしい部分は見えないが、首から『鑑定のルーペ』は提げている。

 一人はフードを目深に被り、ローブをしっかりと着込んだ推定男性で、こちらも首から『鑑定のルーペ』を提げている。

 一人は赤色の肌に尖った耳を持つ、杖を持った老人で、彼だけは『鑑定のルーペ』を提げておらず、NPCの可能性がありそうだ。


「んー……ちょっと行ってみましょうか」

『気を付けるでチュよ』

「ええ、勿論」

 三人組は見えない壁によって先に進めないことに困惑し、これからどうするかを話し合っているように見える。

 いや待て、神官服の男性だけは進入禁止ラインの向こう側に居る?

 まさか何処かで条件を満たしたのか?


「……たりがない?」

「ええ、何故私だけ通れるのか。見当が付きません」

「不思議な話じゃのう。いやぁ、頭の捻り甲斐があるわい」

 三人の声が聞こえてきた。

 三人ともやはり男性か。

 さて、必要な備えをして堂々と行くか。


「貴方たち何者かしら。此処は『ダマーヴァンド』。私の保有するダンジョンなんだけど」

「「「!?」」」

 私は毒ネズミの皮を被って幾つかの目を隠しつつ、三人組の前に姿を現す。


「こ、これは申し訳ない。私の名前はドージと言う。プレイヤーだ」

「在宅中でしたか。これは申し訳ありません。僕はマトチと言います。プレイヤーです」

「ほう、これは偉い別嬪さんじゃの。あ、儂はイグニティチ。この馬鹿弟子の師匠じゃ。お前さんらが言うところのエヌピーシーと言う奴じゃな。ふぇっふぇっふぇっ」

 神官服がドージ、ローブがマトチ、老人がイグニティチでNPCか。

 うん、一番警戒をするべきはイグニティチだろう。

 私がNPCに対して取り返しのつかない事態は出来るだけ避けたいと言うのもあるが、単純な実力で考えても彼が一番強いだろう。


「ふうん。そう。それで用件は?」

「その、私はこの下で滝行をしていたら、この老人に引き摺られてな。無碍にするわけにもいかず……」

「僕は師匠の付き添いです。師匠がタルさんに会いたいと言って聞かず……」

「呪術師として、荒唐無稽な方法で呪術を習得し続けている上に、最初から呪術ではなく邪眼術を手にした異形の者が気にならないなんてことはあり得ないじゃろ。色々と話を聞く限りでは、会話も成立するようじゃし、それなら会いに行くじゃろ? ふぇっふぇっふぇっ」

 あ、はい、理解した。

 完全にイグニティチが原因で、他の二人はやってきたのね。

 なんかプレイヤーは二人共揃って、私に対して申し訳なさそうにしているし。


「会いに来るねぇ……。ああ、もしかしてマトチって前に掲示板で師匠と一緒に私に会いに来るって書き込んだプレイヤー?」

「ええ、その通りです。海月の件もあって、これまでは来る暇がなかったんですけどね」

「散々理屈をつけてゴネておったからの、この馬鹿弟子は。おまけに不老不死の呪いを受けた呪人は三日に一度くらいしか活動できんしなぁ。死なぬメリットはあるが、デメリットが大きすぎるじゃろ」

 とりあえずマトチの身元については判明と。

 まあ、掲示板でのこれまでの書き込みと、この場での言動からして、問題のある人物ではなさそうだ。


「ドージは滝行と言っていたけど……」

「ええ、下の階に上から結構な水量で毒の水が降ってくる場所がありまして、そこで滝行をしていました。タルさんの事も『ダマーヴァンド』の事も存じています。先日のカロエ・シマイルナムンの件ではお世話になりました」

 そう言うとドージは綺麗に一礼する。

 と同時に、何故ドージが侵入不可ラインの先に進めたが分かった。

 ドージが滝行に使った毒液は『ダマーヴァンド』の毒液だ。

 それで一定量以上のダメージを受けたから、『CNP』の仕様で侵入不可の対象外になったのだろう。

 どの程度の期間侵入許可が下りているかや、異形部分が見えないのは少々不安だが、今までの態度を見る限りでは、こちらも人間性に問題はなさそうだ。


「で、いつまで別嬪さんはそんなネズミの毛皮で姿を隠しているんじゃ? 儂の事を思いやっての事なのは分かるんじゃが、別に心配せんでもええんじゃよ。押しかけたのは儂らのほうじゃし」

「まあ、そうね」

 うーん、やはり一番問題がありそうと言うか、癖がありそうなのはイグニティチか。

 とりあえず、本人が心配しなくてもいいと言っているのだし、毒ネズミの毛皮は脱いでしまおう。

 そうして毛皮を脱いだ私に対してイグニティチが発した言葉は……


「ほう、別嬪さんじゃとは思っていたが、これは別格じゃのう……いやぁ、眼福眼福」

 それだけでイグニティチの駄目人間さが窺えるものだった。


「この駄目師匠め……」

「拳を振るう事も考えるべきか……」

『あ、駄目な奴でチュね。これ』

「……。とりあえずもう少し話をしやすい場所に行きましょうか。ここに私たちが居ると毒ネズミたちが外に出れないわ」

 まあ、マトチの師匠ならば、呪術に関して色々と知識も持っているはず。

 時間を割く価値はあるだろう。

 私はそう判断すると、マトチとイグニティチの二人に『ダマーヴァンド』第一階層全域への侵入許可を出して、三人を第一階層のオフィスへと招いた。

10/22誤字訂正

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