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『Curse Nightmare Party』-邪眼妖精が征くVRMMO  作者: 栗木下
4章:『呪術師が導く呪詛の宴』
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166:ミニマムツリー-5

「ボスにしては随分とあっさりだったわね」

『まあ、そう言う事もあると思うでチュよ』

 第三階層は静かになった。

 私がボスを二匹とも仕留めると、小人ナラフシたちも、凧飛び蜘蛛たちも、一目散に逃げだしてしまったのである。


「でももう少し歯ごたえが欲しかったわね……とりあえずボス素材とダンジョンの核の回収をしましょうか」

『でチュねー』

 私はボス素材を回収するべく、死体に近づこうとした。

 だがその時だった。


「っつ!?」

 目の前の木の床から槍のように木が突き出され、私は咄嗟に大きく羽ばたくことによって回避しようとした。

 だが一切の前兆が無かったために避け切る事は出来ず、私の腕に浅い傷が生じ、同時に小人が少しだが付与された。


『たるうぃ!?』

「ああなるほど。これはしてやられたわね」

 私は直ぐに床を蹴って、小人状態を進行させつつ、その場で飛び上がる。

 同時に私がそれまで居た場所に、何本も木の槍が突き出される。


「私たちは最初から敵の中に居たわけだったわね」

 それで私は悟った。

 敵は『呪い樹の洞塔』そのもの。

 モンスターたちを外から招き入れ、争わせ、ある程度以上育ったら喰らうのが『呪い樹の洞塔』の作戦だったのだと。


『そんな事が有り得るんでチュか?』

「別に不思議でもなんでもないわね。だって植物だって生物なんだし。ダンジョンの核は努められるわ。そしてサイズも十分だから、ダンジョンそのものになれてもおかしくはない。むしろ、理屈を明示されれば、納得しやすい部類ですらあると思うわね。『小人の邪眼・1(タルウィミーニ)』」

 私は『呪い樹の洞塔』の攻撃を避けつつ、『小人の邪眼・1』を使って機動性を確保。

 その上で第三階層を脱出して、第二階層に移動する。


「「「キチアアアァァァ!!」」」

「「「ナナフシャアアァァ!!」」」

「あら、こっちはこっちでひどいことになってるわね」

『これが本性と言う事でチュか』

 第二階層に移動した私が見たのは、枝に貫かれ、根のような物を張られることで、生きながらにして食われて行くモンスターたちの姿であり、先程の戦場が可愛く見えるほどに悲惨な光景となっている。


「逃ガサヌ……逃ガサヌゾ。羽虫メ……」

『目が出てきたでチュ』

「ふうん」

 私は木の幹から距離を取る。

 すると木から声が聞こえるとともに、幹が数か所でひび割れて、その隙間から覗いた眼がこちらに向けられる。

 私は『鑑定のルーペ』を向けてみる。



△△△△△

『呪い樹の洞塔』・カスドージュケタワ レベル19

HP:95,782/98,572

有効:灼熱

耐性:毒、気絶、沈黙、出血、小人

▽▽▽▽▽



「いやいや、これを正攻法でどうにかしろって、ちょっと無理があるでしょ」

 はい、HP約10万の化け物です。

 小人ナラフシに食われたり、先程の爆発のダメージだったりで、多少は削られているが、ダンジョンそのものなだけあって、耐久力は桁違いのようだ。


「吸イ尽クシテ クレル」

『ど、どうするでチュか? たるうぃ』

「うーん、どうしたものかしらね……」

 『呪い樹の洞塔』が太い枝の一本を大きく動かして、私を叩き潰そうとする。

 私はそんな攻撃を避けつつ、『呪い樹の洞塔』の動きを観察する。

 第一階層への道は柔らかそうな枝によって閉ざされている。

 結界扉は閉ざされていないが、絶え間なく槍が突き出されているので、近寄る事は出来そうにない。

 第三階層に続く道は、幾つかは残っているが、勝ちの目に繋がらない限りは突入は控えた方がいいだろう。


「おっと、外が流れ込んで来るのか。気を付けないと拙いわね」

『チュア!?』

 と、『呪い樹の洞塔』が枝を動かしたことによって第二階層の範囲が動き、それに合わせて『呪い樹の洞塔』の外側も迫ってくる。

 それはただひたすらに黒く、触れればただでは済まないのは間違いなかった。

 未知の塊である事は間違いないが……流石に今の状況で触れる訳にはいかない。


「ヌグオッ!? 外ヘ……」

「あ、ダメージ受けるのね」

 どうやら『呪い樹の洞塔』にとっても、外の黒は触れたくないもののようだ。

 無理やり根で吸い取って、吸った根を萎び、枯らしながらも、外へ排出している。

 そして私への攻撃は、外の黒が動かないように細い枝を動かすものに切り替えている。


「ふうん。少し見えてきたわね」

 どうやら『呪い樹の洞塔』はギミック色の濃いボスのようだ。

 脱出するにせよ、倒すにせよ、外の黒を利用して戦うのが正着手となりそうだ。


『あくどい笑みでチュねぇ』

「だって倒し方が見えてきたんだもの。そりゃあ、笑みの一つも浮かぶわよ。『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』」

 『小人の邪眼・1』のクールタイムが終わったので、私は『灼熱の邪眼・1』を適当に『呪い樹の洞塔』のドーム部分に打ち込んでみる。

 火が生じ、葉を僅かに焼くが、燃え広がることは無く、効果は薄いと言う他ない。

 流石にサイズ差、それに『呪い樹の洞塔』が生きた木である事もあって、私の力だけで焼くのは厳しいか。


『逃げる気はないんでチュね』

「皆殺し方針だって決めたもの。倒し方も少し見えてきたし、ダンジョンそのものが敵である程度で退く理由にはならないわ」

「小癪ナ羽虫ガ……!」

 攻撃を避けるのは問題ない。

 カロエ・シマイルナムンとの戦闘経験と、小人状態による機動力の上昇が噛み合っているおかげで、『呪い樹の洞塔』が枝を振り回しているだけである限りは、幾らでも避け続ける事が出来る。


「叩キ潰シテクレル!」

「おっと」

 細い枝では当てられないと判断したのだろう。

 『呪い樹の洞塔』が緑のドームに続く太い枝を二本動かして、挟み込むようにしてくる。

 私はその攻撃を……


『チュアアァァ!?』

「危ないわね」

 少しだけ羽ばたいて、円形である太い枝同士がかち合う場所から少しだけずれる。

 そして、太い枝同士がぶつかって生じた衝撃波に乗るような形で、多少のダメージと引き換えではあるが、叩き潰される事を回避する。


「『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』」

 私は衝撃波で吹き飛ばされながら、『灼熱の邪眼・1』を発動する。

 狙いは『呪い樹の洞塔』……ではなく、太い枝が動いたことによって外から流入してきた黒。

 外の黒は『灼熱の邪眼・1』によって生じた炎をあっさりと飲み込んで……


「ヒギアアアアアアアアァァァァァァァァ!?」

「あははははははっ! これは凄いわね!!」

『たああぁぁるううぅぅうぃぃぃ!?』

 黒い炎を伴う爆発に変化。

 『呪い樹の洞塔』の枝を何本も巻き込みながら焼き払っていく。


「アアァァ!? ヨクモ! 羽虫ノ分際デヨクモオオォォ!?」

「いやぁ、素晴らしい威力だわ。直撃したら、私も死ぬけど」

『死、死ぬかと思ったでチュ……』

 黒い炎は『呪い樹の洞塔』の全身へとどんどん延焼していく。

 こうなってしまっては、もう消火のしようなどないだろう。

 なにせ、他の枝でもみ消そうにも、枝を動かした途端に外の黒が流入し、その黒と既にある火が交わって黒い炎が次々に生じてしまうのだから。

 なお、爆発の余波だけでも、私のHPは70%削れているし、灼熱(782)とか表示されてる。


「いやぁ、外の黒っていったい何なのかしらね? ザリチュは分かる?」

『分からないでチュ。ざりちゅの知る呪限無でないのは分かるでチュが』

「ふうん……」

 ザリチュの知る呪限無ではない……か。

 まあ、呪限無が複数あっても、別におかしくはないか。

 ま、この話は今は置いておこう。


「そぉい!」

「ゴボッ!?」

 私は第一階層に繋がる道を塞いでいた枝を、元のサイズに戻った上でフレイルを振るって破壊する。

 で、折角なので黒い炎が先に付いた枝の一本を持って、第一階層に移動し始める。


「待……」

「待たないわ」

『かっこはぁと、っチュねー』

 そして、『呪い樹の洞塔』の体に引火させながら、第一階層に移動。

 第一階層の螺旋階段は無視して中央の空間を飛び降り、そのままダンジョンの外に出る。


「おおっ、派手に燃えているわねぇ」

『でチュねぇ』

「アアアアアァァァァァ……」

 外に出た私の背後では、『呪い樹の洞塔』の入り口があった木が燃え上がっている。

 ただし、炎の色は黒ではなく赤であり、私が持っている枝に着いた炎も赤くなっている。

 どうやら、黒い炎は『呪い樹の洞塔』内部限定だったようだ。


「うーん、外の黒。アレの正体はいずれ知りたいところね」

「ヨクモ……ヨクモ……」

 『呪い樹の洞塔』が怨嗟の声を上げつつ、崩れ落ち始める。

 『呪い樹の洞塔』そのものの評価としては、ギミックが判明してしまえば、あっさり倒せてしまえるタイプのボスだったと言うところか。

 若干歯ごたえが足りなかった分は、そろそろ次のエリアに向かえと言うお達しのような物だろう。

 まあ、色々と面白いものが見れたので、その点では満足だ。


「コノ……怨ミ……必ズヤ……」

 やがて『呪い樹の洞塔』は炎の中から私の方を睨みつけつつ、完全に燃え尽きた。


≪タルのレベルが15に上がった≫

「おっ、レベルアップした」

 どうやら戦闘終了のようだ。

 レベルが上がったので、一応確認しておく。



△△△△△

『蛮勇の呪い人』・タル レベル15

HP:325/1,140

満腹度:57/110

干渉力:114

異形度:19

 不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊

称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・2』、『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『七つの大呪を知る者』、『呪限無を垣間見た者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『大飯食らい・1』


呪術・邪眼術:

毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』、『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』、『気絶の邪眼・1(タルウィスタン)』、『沈黙の邪眼・1(タルウィセーレ)』、『出血の邪眼・1(タルウィブリド)』、『小人の邪眼・1(タルウィミーニ)


所持アイテム:

毒鼠のフレイル、呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、赤魔宝石の腕輪、目玉琥珀の腕輪、真鍮の輪、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.


所有ダンジョン

『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール設置


呪怨台

呪怨台弐式・呪術の枝

▽▽▽▽▽



「問題なし。ドロップは……」

『焼け落ちて残ったのを回収するしかないでチュね』

「まあ、そうなるわよね」

 私は『呪い樹の洞塔』の燃え跡に近づいていく。

 大半はただの炭で、使い物にはならなさそうだった。

 しかし、最後に炎の中から『呪い樹の洞塔』が睨んできた場所に黒い球体のような物が、炭となった枝の中に違和感を感じる物があったので、それだけは回収しておいた。

06/30誤字訂正

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