164:タルウィミーニ-2
「ふう、どうにか出来上がったわね」
『よくもまあ、今のサイズで毒液を運んだでチュよね……』
材料収集含め、ゲーム内時間で3時間程かける事になったが、どうにか呪術『小人の邪眼・1』のスープの再作成に成功した。
一番苦労したのは……ザリチュの言うとおり、やはり液体の持ち運びか。
毒液をセーフティエリアに運ぶ込むのも、出来上がったスープを呪怨台に運ぶのも、10分の1の大きさとなった体では、非常に苦労した。
「さて、後は飲み干すだけね」
『でチュね』
だがその甲斐はあったと言えるだろう。
出来上がったスープは飲むのに失敗した物と遜色がない代物。
そして、今回は最初から小さいので、小人状態に惑わされることもないだろう。
「では……」
私は器を少しだけ傾け、今の私の体にちょうど良い量でスープを飲み始める。
見た目通りに味も臭いものど越しも悪くない。
適度な辛味と甘味があって、体の底から温まるような感覚も覚える。
「……」
だが直ぐに状態異常が生じ始める。
毒と灼熱だ。
どちらも本来の私の体のサイズならば、発生などしなかっただろう。
だが小人状態の私にとっては、少量の毒であっても十分な量の毒になるようだ。
『ゆっくりでチュねぇ』
私は毒と灼熱が問題にならないよう、少しずつスープを飲んでいく。
スープのフレーバーテキストに書かれてあった通り、口を離す事は出来ないから、全身を使って器の角度を維持しつつ、ゆっくりと味わいながら飲んでいく。
『明らかにたるうぃの体の体積より多い気がするんでチュが……どこに消えているんでチュかね』
ザリチュよ、それは突っ込んではいけないところだと思う。
そう言えば、『CNP』の仕様としてプレイヤーは基本的に満腹度がマックスの状態でも、満腹感を感じることなく、飲食をし続ける事が出来ると言われていたか。
しかし、満腹度マックスの時に食べたものは何処に消えているのやら。
「うも……」
『チュ?』
と、思っていたら、ちょっとキツくなってきた。
どうやらちゃんと限界があったようだ。
満腹度上限の何倍かは知らないが。
「……」
『六枚の翅でホバリングついでに消費でチュか』
まあ、小人状態の私は元々満腹度消費が激しいし、翅を積極的に動かせば、満腹度の消費は早まる。
スープだから、吸収速度も気にしなくていいだろう。
『しかし、前回に続いて地味な絵面でチュねぇ……見ている方としてはつまらないでチュよ』
私としてもそろそろ飽きてきた。
やっぱり未知の味と言うか、激しい反応と言うか、そう言うものが欲しい。
体積以上のスープを飲むと言うのは楽しいが、それだって限界はある。
まあ、そろそろ終わるが。
「ぶはあぁ……」
『お疲れ様でチュ』
とりあえずスープは飲み終わった。
えーと、状態異常は……小人(195)、毒(11)、灼熱(185)か。
さて、此処から何が起きるかだが……。
「んー? 幻覚……だけど、無意味な幻ではなさそうね。これを切り抜けろと言う事かしら」
『チュ? ざりちゅには何も見えていないでチュよ?』
「そりゃあ、そうでしょう。たぶん私にしか見えてないわ」
気が付けば周囲の風景が変わっている。
無数の草花が生え、巨大な昆虫が飛び交っている。
しかし、草花に実体はないので、これはやはり幻覚なのだろう。
けれど、巨大な昆虫は何かを探すように動き回っている。
「……。これ、何をすればいいのかしら?」
『分からないんでチュか?』
「分からないわね」
私は一応、幻覚の中を飛び回って、何かないか探ってみるが、特にこれと言った物は見つからない。
トンボのような昆虫が突っ込んで来るが、素早く攻撃を避けて、反撃で『灼熱の邪眼・1』を撃ち込めば、簡単に逃げ去っていった。
やはり普通のプレイヤーにとっては厄介な小人状態だが、私にとってはそこまで厄介な物ではないらしい。
大型の動物が来ようが、嵐の類が来ようが、人間たちが追い掛け回そうが、別段心が揺れる事もなく、普通に流せてしまった。
うーん、何があれば成功なのか失敗なのかも分からない。
「あ、消えていくわね」
そうこうしている間に幻覚は消え去っていく。
≪呪術『小人の邪眼・1』を習得しました≫
「うーん、なんかモヤっとするわね。あ、詠唱キー、動作キー登録……って、詠唱部分は自由だけど、動作は固定で、しかも詠唱と一緒にしないといけない仕様になっているわね」
と、ここで習得のインフォが流れる。
状態異常も小人以外は治っているので、私は自分のステータスを開いて作業する。
△△△△△
『蛮勇の呪い人』・タル レベル14
HP:1,035/1,130
満腹度:100/110
干渉力:113
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・2』、『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『七つの大呪を知る者』、『呪限無を垣間見た者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『大飯食らい・1』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・1』、『灼熱の邪眼・1』、『気絶の邪眼・1』、『沈黙の邪眼・1』、『出血の邪眼・1』、『小人の邪眼・1』
所持アイテム:
毒鼠のフレイル、呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、赤魔宝石の腕輪、目玉琥珀の腕輪、真鍮の輪、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
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『小人の邪眼・1』
レベル:10
干渉力:100
CT:60s-240s
トリガー:[発動キー]
効果:対象に低確率で小人(対象周囲の呪詛濃度)を与える。相手の許諾がある場合は必ず成功する。
貴方の目から放たれる呪いは、敵がどれほど堅い守りに身を包んでいても関係ない。
全ての守りは破れずとも、相手の守りごと小さくしていってしまうのだから。
自分で自分にかけた場合には、好きなタイミングで小人の解除が可能。
注意:使用する度に満腹度が3減少。
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「うーん……」
なんだろう、性能含めて色々と微妙な気がする。
私自身に使う場合のように、小さくなる必要がある時に使うには便利で、そう言った意味では良い性能なのだが……微妙にモヤっとする。
もしかして、何処かで失敗した?
あるいは邪眼にはなったけど、邪眼術の補正の対象外になってる?
「改良も視野に入れつつ、明日以降適度に使いましょうか」
『でチュか』
まあ、使ってみれば、色々と見える事もあるだろう。
「とりあえず今日はペナルティ解消の為にログアウトね」
『分かったでチュ』
と言う訳で明日は『呪い樹の洞塔』を攻略しようかと思いつつ、私はログアウトした。
06/28誤字訂正