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『Curse Nightmare Party』-邪眼妖精が征くVRMMO  作者: 栗木下
4章:『呪術師が導く呪詛の宴』
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163:タルウィミーニ-1

「ログインっと。何かある? ザリチュ」

『何もないでチュね。たるうぃ』

 水曜日も無事にログインっと。

 ストラスさんからメッセージが来ておらず、掲示板の流れからしても、西の草原の攻略とやらはまだ行われていないようだ。

 なお、西の草原から次のエリアに行けなかった理由は、エリア境界に存在している特殊なダンジョンが原因だったらしく、それを力押しで突破するために昨日の呼びかけだったようだ。

 で、他の方位についても似たような感じと思われているらしく、特殊なダンジョンが無いか、探りが入れられているそうだ。


「今日は……先に小人の邪眼を優先しましょうか」

『『呪い樹の洞塔』の続きは後回しでチュか』

「これまでの流れからして、きっと小人の状態異常があった方が、ボス戦は楽になると思うのよね。『ダマーヴァンド』の素材を上手く加工すれば、小人の邪眼は作れると思うのよね」

 ま、私は昨日の時点で断りを入れたので、探索が上手くいって更なる未知を得られるようになることを祈りつつ、自分のやりたい事をやるとしよう。


「小人の樹の葉を……っと」

 毒液など、この先必要になるであろう物を持ってきた私は、セーフティエリアに置いてある小人の樹の葉を手に取る。

 すると直ぐに小人の状態異常を受けて、体が縮み始める。


『結構いい勢いで縮むでチュねぇ』

「そうね。でも、自分が縮むのに葉っぱを使うと、葉っぱは枯れてしまうみたい。となると、やっぱり小人の邪眼は必要ね」

 が、同時に私が触れた小人の樹の葉も枯れ始めて、小人(100)になったところで完全に風化してしまった。

 さて、残りの葉っぱは5枚ほど。

 この5枚が駄目にならない内に加工をしてしまおう。


「ふんふふん」

 私は小人の樹の葉の中でも質が良さそうな三枚を手に取る……いや、抱えると、手で千切りながら毒液の中に投入していく。

 そして、いつものようにバーナーを使って、毒液の加熱を開始。

 ある程度温まったところで、小麦粉、砕いた赤豆と白豆、千切った子毒ネズミの尻尾を投入して、加熱しつつ掻き混ぜていく。


「うーん、酷い臭いね」

『ヘドロを煮込んでいるような臭いでチュね』

「まあ、『ダマーヴァンド』の毒液を使っている時点で、妥当ではあるわね」

 そうやって煮込んでいる間に、体は順調に元のサイズに戻っていく。

 で、小人状態が治ったところで、良い感じにとろみがついて、沸騰もしてきたので、火を止める。


「さて、呪いましょうか」

 出来上がったとろみの付いた深緑色の液体を私は呪怨台へと持って行く。

 すると呪怨台はいつものように赤と黒と紫の霧を集め始める。


「私は虹色の眼に新たなる邪な光を与える事を求めている」

 なので私もいつものように13の目を向けて、思いを込め始める。


「睨み付けたものを小さく、小さく、小さくするような力を求めている」

 声は囁くように。

 幾何学模様も小さい。


「望む力を得るために私は毒を飲み干す。我が身を以って与える大きな世界を知り、飲み干し、己が力とする」

 けれど、新しくなった呪怨台のおかげか、失敗するような気配は感じられない。

 スープが冷めないように『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』を時折撃ち込みつつ、祈りを捧げるだけでよかった。


「どうか私に機会を。覚悟を示し、小人の邪眼を手にする機会を。我が身に新たなる光を宿す小人の呪いを!」

 やがて霧がスープに飲み込まれて行き、呪怨台の上に熱々の深緑色のスープが置かれる。

 ただし……


『また良い匂いがしてるでチュ……』

「おまけに色は深緑色のままなのに、澄み切ったスープになっているですって……」

 見た目と臭いは完全に美味しそうなスープのそれである。

 呪術『出血の邪眼・1』のパンに続いて、またもや美味しそうな物になるとは……使っている素材の影響なのか、私の腕の問題なのか、それとも別に何か要因があるのか、原因は分からないが、納得しがたい現象が起きている。

 いや、普通に食べられるような品になるに越したことは無いのだが、なんだか微妙な寂しさと言うか、受け入れがたさと言うか……。

 とりあえず鑑定をしようか。



△△△△△

呪術『小人の邪眼・1』のスープ

レベル:10

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:10


毒の液体を基に作られた怪しげなスープ。

覚悟が出来たならば、一度も口を離すことなく、胃の中に収めるといい。

小さき世界に耐え切る事が出来たならば、君が望む呪いが身に付く事だろう。

▽▽▽▽▽



「問題はなさそうね」

 うーん、一気に飲む事が条件ではあるが、その後が分からない。

 とりあえず小人の状態異常は受けると思うのだが……まあ、飲んでみれば分かるか。


『でチュね』

「では」

 と言う訳で、私は両手で器を持ち、傾け、器の端に口を付けてスープを飲もうとした。

 そうして、とろみを持った熱いスープに唇が触れた瞬間だった。


「っつ!?」

『チュア!?』

 私の体が縮んだ。

 それも小人状態の最小サイズにまで。

 少しずつ縮んでいくと思っていた私は、その縮小に対処しきれなかった。

 いや、対処の仕様がなかった。


「しまっ……ニギャアアアアアアアアアァァァァァァァ!?」

『チュアアアアアアアアァァァァァァァァ!?』

 器を傾け過ぎていた私の顔面へと“とろみ”を持った“熱い”スープが襲い掛かった。

 スープの濁流は私の顔の脇から体へと流れて行き、全身にスープが絡まり、スープの持つ熱と含まれる毒が私の体に襲い掛かって、焼き尽くしていく。


「ふっ、ふふっ……これは……これで……未知……ね」

『チュアァ……』

 そうして私は深緑色の灼熱スープの中で息絶え、死に戻った。


≪呪術習得失敗のペナルティとして、ゲーム内時間24時間=リアル時間8時間、状態異常・小人のスタック値が100以下にならないようになりました。この状態で再度、同じ呪術の習得に失敗すると、現在のアバターでのプレイが続行不可能になる可能性があります。認識・理解が出来ましたら、ゲーム続行のボタンをお押し下さい。分からない事があれば、運営呼び出しボタンをお押し下さい≫

「……」

『あ、小さいままでチュね』

 で、『CNP』の仕様通りにセーフティーエリア内で即時復活。

 スープの海の上に浮かんでいる私の前に半透明の画面が現れる。


「まあ、呪術習得に失敗したら、こう言うのがあってもおかしくは無いわよね」

 この半透明の画面だが、どうやら脳波判定によってきちんと読んだかどうかを認識しているようで、適当に読み飛ばすとゲーム続行ボタンが押せないようになっているようだ。

 つまり、再度失敗した時にはきちんと警告したからなと言う言葉の下に、今現在受けているペナルティの永久化やもっと重いペナルティが課せられる、と。


「ザリチュ」

『チュ?』

「今日中に材料を集めて来て、もう一回スープを作るわよ」

『チュア!? 本気でチュか!?』

「本気よ」

 私は『ダマーヴァンド』から『呪い樹の洞塔』へと転移する。


「ここで退くなんてらしくない事はしたくない。最初から最後まで小さな体でスープを作り、呪い、飲み干し、邪眼を得ると言う未知を見逃すなんて事は出来ないわ」

『どうなっても知らないでチュよ……』

 そして、小人状態に合わせてか軽くなった結界扉を開けて、素材回収に向かった。

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― 新着の感想 ―
むしろずっと小さい方が妖精として通る・・・スタック永続を要請する!
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