131:アイアンバー-2
「はあ、本当にようやくね」
『手強かったでチュねぇ……』
金曜日のログインからゲーム内時間で3時間、リアルで1時間ほど経った頃。
目玉琥珀に変化が生じた。
それまでは一目で分かるほどの呪いを帯びたアイテム特有であろう黒いオーラを纏っていたのだが、そのオーラの色が黒から深緑色に変わったのである。
「とりあえず鑑定っと」
私は『鑑定のルーペ』を向ける。
すると毒(12)と引き換えに鑑定結果が表示される。
△△△△△
呪われた目玉入りのアンバー
レベル:10
耐久度:22/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:10
アンバーと呼ばれる黄色味がかった宝石(厳密に宝石ではなく化石化した有機物である)。
本来は所有者から余計な力を抜き、力を循環させる力を帯びているとされるが、強い呪いを帯びた事で所有者の身体に力を留めさせ固化させる魔性の石に反転・変質した。
外的要因による度重なるストレスによって呪いはさらに変質し、強烈な毒を生じさせるようになっている。
内部に何かの生物の瞳が閉じ込められており、閉じ込められてもなお怪しい輝きを放っている。
注意:この石を鑑定したものに毒(対象周囲の呪詛濃度×2)を与える。
注意:この石に接触しているものに一定時間ごとに毒(1)を与える。
▽▽▽▽▽
『危険物なのは変わらずでチュかね』
「そうね。けれどだいぶマシになったわ」
鑑定に対するカウンターがまるで私の『毒の邪眼・1』のようである。
まあ、散々叩き込んだので、学習していてもおかしくはないが。
ちなみに私の周囲の呪詛濃度は装備品の影響で16から17程度。
なので毒耐性と毒無効を有する呪詛纏いの包帯服と、毒耐性を有するザリチュ、この二つの装備を身に着けていなければ、結構洒落にならない量の毒が返ってきていた可能性はある。
「じゃあ、加工を始めましょうか」
『そう言えば、これでやっとスタートラインだったんでチュね』
それにしても今の時点で手に入るアイテムでこれ……リアル時間2日、ログインしている時間だけを考えてもゲーム内で丸一日かかったと言う事は、この先手に入るアイテムはものによってはリアル時間で一月くらい加工に時間がかかるような代物もあるのではないだろうか。
勿論レベルや道具、呪術などによって短縮できる可能性もあるのだろうが……MMOの定番として、『CNP』でも生産職は茨の道なのかもしれない。
そこに未知があるなら、私は躊躇わず突き進むが。
なお、耐久度の低下は気にしない。
これぐらい残っていれば十分だ。
『で、どう加工するで……チュア!?』
「どうかしたの?」
さて加工だが、考える時間はたっぷりあったので、その内容は既に考えてあるし、左腕に付けている真鍮の輪についても必要な加工は既に終えている。
後は目玉琥珀自体をどうするのかだけなのだ。
と言う訳で、『灼熱の邪眼・1』によって加熱したナイフによって、目玉琥珀を二等分。
瞳孔がある側と網膜がある側に分けてしまう。
『い、いいんでチュか?』
「いいも悪いも、こうでもしないと琥珀のサイズが大きすぎるし、私が求める機能を付けられないわ」
琥珀が焼けた独特の匂いを嗅ぎつつ、私は瞳孔がある方の琥珀を腕輪に填める。
そのタイミングで琥珀の中の目と私の目の一つが合ったので微笑んでみた……が、琥珀の中の目が動くような事こそなかったが、なんとなく避けられたような気がした。
まあ、気のせいだろう。
「じゃ、暫く毒液漬けね。馴染ませないといけないから」
『その間に明日以降の準備でチュ?』
「そうなるわね」
私は流水の毒液に目玉琥珀付きの真鍮の輪を漬けると、『ダマーヴァンド』の赤豆と白豆を採取して、焙煎などの加工を施していく。
これで明日以降、ゲーム内で飢える心配はしなくていいだろう。
それと、次のメンテナンス情報の一部が出た。
どうやら7月の第二日曜日に前回と同じようにイベントとメンテナンスを行うらしい。
7月は来週の月曜日から始まるので、まあ、おおよそ二週間後と言うところか。
なお、イベントの詳細は未発表である。
「では、一緒に呪いましょうかね」
『あ、なんとなく察したでチュ』
さて、目玉琥珀付きの真鍮の輪は良い感じに深緑色のオーラを纏っている。
と言う訳で、目玉琥珀の片割れと一緒に呪怨台に乗せる。
「変質しますようにー。使い易いように変質しますようにー」
琥珀と言う宝石はアイテムの説明欄にもあったように、所有者から余分な力を抜き、そこに新たな力を呼び込む事で力を循環させ、心身を整える力を持っているとされている。
「すぅ……」
つまりは力の流れ道となる宝石であると言っていい。
そして、この世界における力とは呪いであり、異形度19の私にとっては普通のプレイヤー以上に重要な物である。
「ATM! ATM! Automated Teller Machine!!」
『たるうぃ!?』
「DC循環! 自動で貯蓄!! 自動で出資!!」
『た、たるうぃが今までにない壊れ方をしているでチュ……!?』
と言う訳で、私は極めて分かり易いイメージを呪怨台の上へと叩きつけていく。
目玉の瞳孔から呪詛が入っていき、網膜に達し、網膜から脳へと流れていくようなイメージで貯蓄であり、出資は目のピント等を調整するようなイメージか。
いずれにせよ、霧は無事に晴れた。
「よし出来たわね」
『な、なんか色々と酷いでチュ……』
呪怨台の上には深緑色のオーラを発さなくなった目玉琥珀付きの真鍮の輪と目玉琥珀の片割れが乗っている。
なので私はそれらを鑑定する。
△△△△△
目玉琥珀の腕輪
レベル:14
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:10
目玉が入ったアンバーと呼ばれる黄色い宝石が付けられた真鍮製の腕輪。
石が帯びる強い呪いは所有者と所有者の拠点を繋ぎ合わせるが、所有者もまた呪いに晒されるからこその力である。
極めて丈夫であり、普通に扱っている分には傷がつく事も汚れる事もまずないだろう。
所有者の周囲の呪詛を吸収して拠点に送り、拠点から所有者の周囲へと呪詛を送り出す。
呪詛出納ツール-『ダマーヴァンド』とリンクしている。
注意:所有者に一定時間ごとに毒(1)を与える。
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△△△△△
呪詛出納ツール-『ダマーヴァンド』
レベル:10
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:12
『ダマーヴァンド』の周囲と所有者の周囲に存在する呪詛をやりとりするためのツール。
見た目は奇妙な物体が収められた琥珀の半球である。
目玉琥珀の腕輪とリンクしている。
注意:拠点の所有者は満腹度が減り易くなる。
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「うん、いい感じね」
私は目玉琥珀の腕輪を左腕に装備する。
うん、レベル不足なので重い。
まあ、緑透輝石の足環と赤魔法石の腕輪の二つ共レベル不足で重かった時よりは遥かにマシだ。
「こっちもセット。よし、循環が始まったわね」
続けて呪詛出納ツール-『ダマーヴァンド』を噴水の上にある呪詛管理ツールのオブジェに触れさせる。
すると琥珀はオブジェに取り込まれ、私の周囲の呪詛と噴水周囲の呪詛が循環を始めたような感覚が生じる。
これで赤魔宝石の腕輪の効果である呪詛を私の周囲に留めておく効果と合わせて、少々面白いことになるはずだ。
「さて、これで『蜂蜜滴る琥珀の森』で得た成果は一通り整理整頓出来たわね」
『時間がかかったでチュねぇ』
「まったくよ。まさか丸五日専念する事になるとは思わなかったわ」
最後に私は自分のステータスを確認すると、ログアウトした。
さて、明日からは西の探索である。
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『蛮勇の呪い人』・タル レベル12
HP:1,110/1,110
満腹度:90/100
干渉力:111
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『七つの大呪を知る者』、『呪限無を垣間見た者』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・1』、『灼熱の邪眼・1』、『気絶の邪眼・1』、『沈黙の邪眼・1』
所持アイテム:
毒鼠のフレイル、呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、赤魔宝石の腕輪、目玉琥珀の腕輪、真鍮の輪、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール設置
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