121:ハニーアンバー-8
本日二話目です
「生きているモンスターを見かけませんね」
「そうね。音すらしないわ」
ストラスさんと私は、蜜に触れないように注意をしつつ、琥珀の森の中を奥へと進んでいく。
そうやって進んでいく中で、分かった事が幾つかある。
「うーん、蜂に鹿、人間はともかくとして、色々な生物が琥珀の中に閉じ込められているわね」
「人間もともかくの範疇ですか……いやまあ、なんとなく分かりますけど」
どうやら琥珀の木は蜂蜜の琥珀化に生物が巻き込まれることによって出来上がるようで、一本につき最低一体は生物が取り込まれている。
取り込まれている生物の種類としては、『蜂蜜滴る琥珀の森』に元々存在するモンスターである琥珀大蜂、琥珀角鹿、それに森の何処かで見かけた気もするモンスターが一番多い。
ついで人間たちで、装備は様々だが、大半は絶望したような表情を浮かべて取り込まれている。
だがこれだけではなく、普通の植物や、ダンジョンの外に居るような生物、それに……異形としか言いようのない生物が取り込まれている物もある。
異形の生物については、森の奥の方、ストラスさんの視界に入らない位置にばかりあるが。
「この琥珀は回収しておこうかしら」
「うえっ、タル様? 本気ですか?」
と、此処で私は何かの生物の目玉だけを琥珀でコーティングしたような琥珀を見つけたので、固化していない蜂蜜が無いことを確かめた上で拾い上げる。
「本気よ。サイズ的にもちょうど良さそうだし」
『真鍮の輪に使うつもりでチュね』
「確かに呪術的には、そう言うのが良さそうなのは分かりますけど……うわぁ……」
で、鑑定。
△△△△△
呪われた目玉入りのアンバー
レベル:10
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:10
アンバーと呼ばれる黄色味がかった宝石(厳密に宝石ではなく化石化した有機物である)。
本来は所有者から余計な力を抜き、力を循環させる力を帯びているとされるが、強い呪いを帯びた事で所有者の身体に力を留めさせ固化させる魔性の石に反転・変質してしまっている。
内部に何かの生物の瞳が閉じ込められており、閉じ込められてもなお怪しい輝きを放っている。
注意:この石を鑑定したものに石化(1)を与える。
注意:この石に接触しているものに一定時間ごとに石化(1)を与える。
▽▽▽▽▽
「む……」
「つっ!? タル様の指が!?」
『鑑定したらオーラが出てきたでチュねぇ』
鑑定した途端に黒いオーラのような物が漏れ出てくると同時に、石化の状態異常が発生。
今はとりあえず石化(2)で収まり、『鑑定のルーペ』を持っていた右手の指が石になって動かなくなっている。
そして、石になった指が、今度は琥珀に変化していっている。
どうやら、『蜂蜜滴る琥珀の森』の第三階層で石化の状態異常を受けると、石ではなく琥珀になるらしい。
「石化とはまた厄介ね……」
「厄介って……それで済ませていいレベルではないと思うんですけど」
「済ませていいレベルよ。最悪死に戻りで治せばいいし、このレベルなら自然に治るようだから」
暫く待つと、石化のスタック値が1になって、琥珀になっている指が一本だけになる。
なので私は毛皮袋に呪われた目玉入りのアンバーを入れて、入手を確定させてしまう。
「まあ、装備品になっても残るようなら、対策は必須でしょうけど」
折角なので、私は適当な容器に第三階層の蜂蜜を入れて回収しておく。
石化のスタック値が一気に15まで増え、片腕が動かなくなったが、まあ暫く待てば治るだろう。
で、こちらも鑑定。
△△△△△
『蜂蜜滴る琥珀の森』の琥珀蜜
レベル:25
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:10
『蜂蜜滴る琥珀の森』の奥地で採取できる蜂蜜のような物体。
とても良い香りを発しており、意志の弱い者が嗅ぐとそれだけで正気を失いかねない。
そして、香りに騙されて触れてしまったものは、石になって死んでしまう。
注意:触れると、触れた量に応じて石化の状態異常を受けます。
注意:容器から染み出した毒によって、摂取すると量に応じて毒の状態異常を受けます。
▽▽▽▽▽
「あ、駄目ねこれ。『灼熱の邪眼・1』」
「レベル25って……え? 駄目って……あっ!」
鑑定を終えた私は、いつの間にか琥珀化した上に中身が漏れ出始めている容器を琥珀化した腕を焼き切る事によって切り離す。
HPが80%近く消し飛んだが、背に腹は代えられない。
なにせ、気が付けば状態異常の表示が石化(27)まで進行し、体の四分の一程度が琥珀になっていたのだから。
きっと、あのまま放置すれば、森の仲間入りを果たしていたに違いない。
「回収は相応の入れ物が出来て、レベルがもっと上がったらね」
「えーと、タル様。腕の方は……」
「回復の水で生やすわ。プレイヤー特権ね」
高レベルアイテムの回収には、保存容器にも相応のスペックが要求される、か。
当たり前と言えば当たり前ではある。
とりあえず機会を見て、高レベルの回収容器だけでなく、毒噛みネズミの毛皮袋の強化も考えておこう。
「よし生えた」
「不老不死のありがたい所ですね」
とりあえずHPの回復によって腕は生えた。
ちゃんと装備品も戻ってきている。
状態異常の回復も済んでいる。
と言う訳で、探索再開。
私たちは森の奥へと更に進んでいく。
「タル様。ここは……」
「静かに。この先は迂闊に声を出さない方が良さそうだわ。それと前には出ず、何かあったらすぐに逃げる事を考えて」
「分かりました」
やがて私たちが辿り着いたのは、見渡す限りの琥珀色の湖。
そして、私の視界には湖の中心から上半身だけを出している巨大かつ異形の蜂が、呪詛の霧を纏う形で周囲の琥珀を貪り食っていた。
『『カース』でチュ。『カース』が居るでチュよ』
どうやら、本物の呪限無の化け物のお出ましのようだ。
05/26誤字訂正




