118:ハニーアンバー-5
本日一話目です
「ぬおりゃああぁぁっ!」
「「「ーーーーー!?」」」
突撃と同時に放たれたマントデアの一撃によって、何匹もの蜂がバラバラになって吹き飛んでいく。
「せいやっ!」
「むんぐっ!」
「「「ーーーーー!?」」」
そして、マントデアの一撃を逃れた個体も、ストラスさんとカーキファングの二人が順次一撃で仕留めていく。
どうやらマントデアの巨体が良い感じに囮になっていて、蜂たちには二人に対処する暇はないようだ。
で、そんな感じに三人が頑張っているところで私は何をやっているのかと言えば……
「ふうん、巣の壁や床の基本は噛み砕いた木材と蜜を混ぜ合わせて固めたもの。理由は分からないけれど、適度に隙間があって、そこに空気が通っているから、私の『灼熱の邪眼・1』程度の火でもよく燃えるのね」
まあ、情報収集だ。
とりあえず巣がよく燃えている理由については、適当に巣の壁をフレイルで粉砕して手に入った物を観察したら分かった。
熱、空気、ついでに可燃性の物体が揃っているなら、燃えるのは当然だ。
『戦わなくていいんでチュか?』
「この三匹の毒殺中の個体を守るためなら戦うけれど、他はマントデアたちにお任せね。私の呪術じゃ間に合わないし」
「任せたって……まあいいけどな。状態異常の数字もヤバいことになっているみたいだしな」
「あ、タル様。後で情報の共有お願いします」
「ヤバいのが迫っていたら、流石に教えてくれよ。この中で一番警戒能力が高いのはタルだ」
私の背後には現在三匹の異なる外見を持った蜂が、重症化するレベルの毒を受けて、身動き一つ取れないままに死へと向かっている。
で、私は周囲に注意を払い、マントデアたちの戦いに問題がない事を確認。
消費したHPを適当に回復しつつ、毒殺が終わった個体から順番に鑑定をしていく。
△△△△△
砲撃琥珀大蜂の死体
レベル:1
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
砲撃琥珀大蜂の死体。
適切に処理する事で様々な素材を得る事が出来る。
全身に呪詛による毒が回っている。
▽▽▽▽▽
「ケツがデカいのは砲撃琥珀大蜂。蜂蜜の砲撃に特化した個体だから、HPは少ないみたい」
砲撃琥珀大蜂は、蜂の尾部が肥大化していて、背中の小さな翅では飛び回れず、歩き回る事しか出来ない。
で、肥大化した尾部から蜂蜜の砲弾を発射するようだが、これは命がけの行動らしく、発射した個体は残りHPが推定一桁になり、毒殺をしても死体が残ってくれない程だ。
おかげで砲撃をされる前に『毒の邪眼・1』を叩き込む必要があった。
△△△△△
観測琥珀大蜂の死体
レベル:1
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
観測琥珀大蜂の死体。
適切に処理する事で様々な素材を得る事が出来る。
全身に呪詛による毒が回っている。
▽▽▽▽▽
「複眼が大きくて、足の先が漏斗のように広がっているのが観測琥珀大蜂。たぶんだけど、こいつが観測手ね。目が良いだけじゃなくて、地面の振動や空気の揺れとかも観測していたのかも」
観測琥珀大蜂は静音琥珀大蜂によく似ているが、相手の位置を知らせる事に特化しているらしく、よく見れば感覚器が発達している以外にも、口の構造が音を鳴らしやすいようになっているようだ。
とは言え、今の状況では折角の観測能力も指揮能力も宝の持ち腐れのようだが。
△△△△△
世話琥珀大蜂の死体
レベル:1
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
世話琥珀大蜂の死体。
適切に処理する事で様々な素材を得る事が出来る。
全身に呪詛による毒が回っている。
▽▽▽▽▽
「最後が世話琥珀大蜂。所謂働きバチなのかしらね。特に特徴は無し。成長したら静音琥珀大蜂を含めた他の蜂になるのかもだけど……まあ、深く考える必要は無いかしら」
最後の世話琥珀大蜂は一回り小さい静音琥珀大蜂と言うのが正しい気がする。
特徴らしい特徴も無いし、私の推測はそんなに間違ってないと思う。
まあ、後で解体して、確かめてみよう。
「と、森の中から静音琥珀大蜂が来たわね。巣が燃えているのを認識して、慌てて戻ってきたと言うところかしら。とりあえず『毒の邪眼・1』」
「だろう……なっ!」
「せいやっ!」
「底が見えないな!」
と、此処でこれまで巣の外で活動していたのであろう静音琥珀大蜂が、その名に相応しくない程に耳障りな音を響かせつつ、巣のある場所に戻ってくる。
それをマントデアが散らし、ストラスさんとカーキファングがあぶれたのを仕留めるいつもの形で処理していく。
で、折角なので、一匹だけ毒殺して、回収しておくことにする。
「はぁはぁ、だいぶ静かになってきたな」
「女王バチ。残っていると思うか?」
「さあな? とりあえず戦闘はまだ続くつもりで居た方がいいだろう」
「いやあの、それ以前に巣を丸ごと焼いたら、目的である『黄金の蜜珠』まで燃えているんじゃ……」
「「あ……」」
ストラスさんの言葉にマントデアとカーキファングの視線が私に向けられる。
その目は砲撃を防ぐ都合上、放火はやむを得なかったが、このままでは目的を達成できなくなるかもしれない、そうなったらどうしようと言う感じの目だ。
まあ、それはたぶん杞憂で済む。
「たぶん大丈夫よ。そもそも此処はダンジョンの最深部でもなければ、ボスが居る場所でもないでしょうし」
「その根拠は?」
「これほどのダンジョン最深部にしては呪詛濃度が薄い。たぶん、ボスが居る場所は呪詛濃度13くらいはあるんじゃないかしら」
「なるほど」
私はマントデアの肩によじ登ると、そこから更に上空に向かって跳び、周囲を確認してみる。
うん、やはりと言うべきか、この巣を越えた先にもっと呪詛濃度が高い空間がある。
『黄金の蜜珠』がボスから手に入ると言うのであれば、そちらの方だろう。
「つまり、此処は巣は巣でも女王バチの居ない前線基地のような物だったと言う事か?」
「なるほど。それはありそうですね」
「厄介極まりない前線基地もあったものだな……」
「あ、崩れるわね」
と、ここで巣の火災が全体に広がり、構造を維持できなくなった巣が倒壊し始める。
「ーーーーー!!」
「あ、女王バチ自体は居たみたいだな」
「蜂の生態そのままなら、分蜂で古い巣を出て行った年老いた女王バチ、と言う形になるんですかね」
「何にせよ、この叫び声を聞く限り、戦わずに済んだのは良かった事と思うべきか」
そして、巣から何かの生物の大きな叫び声が聞こえるとともに、巣は完全に倒壊した。
≪タルのレベルが12に上がった≫
「あ、レベルが上がったわね」
「私もですね」
「俺もだな」
「何故だろうな。戦いが激しかったと言うよりも、巣焼きをした結果としか思えない」
「「……」」
とりあえずレベルが上がったので、確認をしておこう。
△△△△△
『蛮勇の呪い人』・タル レベル12
HP:727/1,110
満腹度:68/100
干渉力:111
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒使い』、『灼熱使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『七つの大呪を知る者』、『呪限無を垣間見た者』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・1』、『灼熱の邪眼・1』
所持アイテム:
毒鼠のフレイル、呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、赤魔宝石の腕輪、真鍮の輪×2、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール設置
▽▽▽▽▽
「うん、問題なし。じゃあ、火事場漁りは任せたわ。私は蜂の解体をするから」
「そうだな。女王バチが居たなら、『黄金の蜜珠』でなくとも、それに準ずる何かくらいはあるかもしれない」
「手伝うぞカーキファング。こういう時こそ人間重機の仕事だ」
「あ、私はタル様を手伝いますね」
「ええ、お願い」
では、モンスターの解体を始めるとしよう。