101:スモークホール-5
「そう、火炎属性以外の範囲攻撃アイテムは見つからなかったの」
「ああ、それどころかバクチクの実すらなかった」
スクナと合流した私は『藁と豆が燻ぶる穴』の奥、昨日は帰る他無かった場所へと向かっていく。
で、その道中で、昨日別れる前にスクナがサクリベスで探した成果について話をした。
「それと、どうしてだか、麻布と呪い避けの煙玉の二つも含めて、色々と品薄になっていたな」
「何それ?」
「さあ? 流行りか何かではないか? 掲示板でも見れば、発端があるかもしれないが……興味はないな」
「ふうん。まあ、バクチクの実と呪い避けの煙玉については私には不要なアイテムだし、麻布も使う予定は無いから、問題は無いわね」
どうやら現在のサクリベスでは、幾つかのアイテムが品薄になっているらしい。
具体的にはバクチクの実、麻布、呪い避けの煙玉、それから食料、薬草、投網、解毒剤、悪臭を放つ液体などだ。
今がイベント終了から一週間も経っていない事を考えると、イベントの結果を受けて、これらのアイテムの評価が上がり、品薄になったと考えられるが……麻布や悪臭を放つ液体は何故品薄になったのだろうか?
他のアイテムと比べて、更に一手間を加える必要があったり、用途が限られていたりする気もするのだが……まあ、その内掲示板を覗いてみれば分かるかもしれない。
「話を戻すが、範囲攻撃アイテムは手に入らなかった。噂にあった氷結属性の範囲攻撃アイテムとやらがあれば簡単に突破できたのだろうが、無かった以上は他の方法で突破するほかない」
ちなみにこれは掲示板情報になるが、呪い避けの煙玉のような数を必要とするアイテムの大量生産だが、コピー元となるアイテムを作って登録すると、投入した素材が尽きるまで自動で劣化複製してくれる生産用の設備があるらしく、それを使ってやるらしい。
コピーと言う単語に『七つの大呪』の一つである転写の呪いが関わっているのかとも思ったが……どうにも違いそうだ。
「つまり、これだ」
「なるほど、地道に潰すわけね」
さて、こうして話をしている間に昨日の第三階層に繋がる穴の縁にまで私たちはやってきた。
そしてスクナは道具袋から十数本の簡素な投げナイフを取り出すと、四本の腕それぞれに数本ずつ持って構える。
まあ、スクナの技量ならば、核に当てれば倒せるだろうし、此処から燻ぶるネバネバの核に当てる事も可能だろう。
「一応聞くけど、視界制限は大丈夫?」
「問題ない。50メートルは見えている」
『藁と豆が燻ぶる穴』の第二階層の呪詛濃度は第一階層より1上がって10。
第三階層の呪詛濃度は恐らく11。
スクナの異形度はサクリベスに入れる事からして5以下。
私と違って視界制限が入っているはずだが、問題は無いようだ。
「では、始めるとしよう」
「そうね。私も折角だし試してみましょうか」
私はスクナから少し距離を取ると、『灼熱の邪眼・1』のチャージを開始。
『毒の邪眼・1』の半分の速さで、チャージの円が貯まっていく。
その間にスクナは……投げナイフを連射している。
一息で10本近く投げていて、その全てが燻ぶるネバネバの核に突き刺さり、1本につき1体始末している。
ああうん、なるほど、これがリアルチートと言うものか。
いったいどうすれば、全てが狙い通りに投げられるのか……。
「倒しても倒しても奥から湧いて来るな」
「そーねー」
と言うか、イベントの私対スクナの時に、掲示板で30メートルあればとか書き込んでいたプレイヤーが居たが、100メートルくらい離れていないと、たぶん遠距離戦は逆に危険だと思う。
少なくとも、私では距離30メートルでこれを避けたり、捌いたりするのは無理だ。
「『灼熱の邪眼・1』!」
なんにせよチャージは終わった。
私の口から詠唱キーが発せられると共に私の13の目が赤く輝く。
HPと満腹度が減って、灼熱(130)と言う状態異常も表示される。
それにともなって狙いを付けた燻ぶるネバネバの核の周囲に赤い帯のようなエフェクトが生じ……
「ネバァ!?」
一瞬、爆炎のようなエフェクトに変化した後、燻ぶるネバネバの核の表面が真っ黒に焦げた。
「お、結構威力があるわね」
「ほう、新たな呪術か」
焼かれた燻ぶるネバネバは力尽きたようで、動く気配はない。
そして『灼熱の邪眼・1』の熱によって、周囲のネバネバが粘性が上がるどころか固化したようで、他の核から干渉を受けて動く気配もない。
「しかし意外だな。火に耐性があると思っていたのだが……」
「あ、私の邪眼は耐性貫通効果があるみたいだから、その辺は参考にならないわよ」
「そうなのか?」
「未検証だけどね。説明文的にはそうなっているのよ」
「なるほどな」
私の灼熱のスタック値は、私が襲われる環境に居ないため、結構な勢いで減っていっている。
どうやら灼熱状態の維持には、相手に緊張を強いる事が必須なようだ。
そう言う意味でも毒との相性はいいのかもしれない。
「そろそろ頃合いか。下に降りて直接叩く」
「分かったわ」
そうこうしている間に残りのネバネバの核は数えられるほどになった。
だが同時にスクナの投げナイフも底が見えてきたらしい。
スクナは穴の底に向かって跳び降り、一体ずつ仕留めていく。
10メートル飛び降りて平然としているのは……体術か何かだろう。
今は始末の方が大切なので、私もスクナに続いて飛び降り、適宜『毒の邪眼・1』を織り交ぜつつ、燻ぶるネバネバの核を仕留めていく。
「ふう、どうにか終わったか」
「そうみたいね」
最終的に仕留めた燻ぶるネバネバの数は100体近くに上った。
これは飛び降りた後も、第三階層から結構な数が這い出て来て、対処する事になったからだ。
「分かってはいたが、酷いネバネバだな。こういう時はタルの空中浮遊が羨ましく思える」
「もぐもぐ……そうね。今は空中浮遊があってよかったと思うわ」
スクナは使えるナイフの回収。
私は燻ぶるネバネバの核を回収して、幾らかは胃に収めておく。
で、『灼熱の邪眼・1』によって仕留めた燻ぶるネバネバの核が少し変わった感じになっていたので、ちょっと鑑定をしてみた。
△△△△△
燻ぶるネバネバの黒玉
レベル:1
耐久度:87/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:5
燻ぶるネバネバが熱の制御に失敗し、黒い球体のようになって死んだ姿。
こうなると冷えてもネバネバの粘性は下がらず、固形の状態を保ち続ける。
時間経過と共に内部の核が分解、しぼみ、最終的には10分の1ほどになるが、それまでに新たな傷がつかなければ、見事な変化を遂げる事だろう。
▽▽▽▽▽
「ふうん、面白いことになるのね」
見た目としては、これまで回収した核の表面が黒い金属質の何かで覆われたものだ。
燻ぶるネバネバを倒した際に風化の呪いの影響を受けたのか、ただしぼむだけでなく、少し凹んでいる部分も見られる。
しかし、これは……きちんと磨けば宝石のように輝くぐらいはあるかもしれない。
「スクナ。次に燻ぶるネバネバが出てきたら、私が仕留めてもいいかしら? 上手くいけば、これがもう一つ手に入るくらいはあるかも」
「時間をかけないなら構わないぞ。出てくるかについては……これから第三階層だ。心配しなくても、勝手に幾らでも出てくることだろう」
「ありがとう、助かるわ」
私とスクナは回収を終えると第三階層へと移動した。
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