嵐のような少女
やぁ、実際誰かに引っ張られる経験ってほぼないと思う。体の自由を奪われて引きずられるってのもないですよね。そんな体験を今してまっ、っ、頭打った、あばばばば
……ようやく止まった。こんなゲーム人を選ぶにちがいない。
その前にこのゲームMMOと聞いているんだが人に会わなくね?思考入力。スレ検索。イベントっぽいので盛り上がってる。
……へい。
ドナドナされている気分に浸りながら、先程のじいさんに何かを話している少女に目を移す。少女の声色は明るい。それにも関わらずじいさんはだんだん顔が青くなっている気がする。
あ、少女がこちらを向き走ってくる。
腕輪を右腕につけられる。瞬間にじいさんの目が見開く。
口もあいてみえっ、ちょっ、顔面から水面はアウトっ、
ただいま水の中、……呼吸ができる。酸素濃度高いんですかね、んなバカな。
……この腕輪の効果なんですかね。少女がものっそい話しかけてきている。指で指し示し、その建物がどんなところなのか、どんな人がいるのか教えているように見える。
売店のようなところにきた。店主が険しい顔でこちらを見る。腕輪を凝視し、顔と腕輪を二度見する。驚いた顔をしながら、少女の注文を聞き、黄金色の飲み物を出す。二本の内、一本を渡してくる。ストローっぽいやつで飲んでみる。
蜂蜜のように甘いが癖がなくイッキ飲みできる味わい。
……こちらを見ていた店主が吹き出して爆笑してた。少女も周りの人も驚いてこちらを見ている。なぜ。
店主にもう一本渡される。飲みきる。
今度は歓声が起きる。なんで?
広場っぽいところへ出る。お腹をさすっていると、少し苦笑いしながら謝っている。そんな先程のことよりも真ん中の噴水に目がいく。水の中だが黄緑色で放水されているのがわかる。
なんとなく触れてみた。
指先が噴水の本体に触れると、噴水から青い水が流れる。青い水が自分の体を包み込む。視界がはっきりしてくると、高めの音が脳内に響く。
『ジェダイトのポータルが使用可能になりました』
この街の名前かっこいいな。見えない力使えそう。そうじゃない。ポータルということは転移ができるようになったということだ。プレイヤーと出会えることを期待できる。楽しみが増えてきた。
少女がこちらを見ていた。
腕を掴まれ、移動する。
先程のじいさんの家の前まできた。
少女が家に入る。
剣呑な空気になるのを感じとる。
少女が家から出てくる。
槍をもって。
水面に入り、腕を引き、槍を構え、突撃してくる。
棒を手に出し、槍を受け流す。
水面に入ったようでもう一度突撃してくる。受け流す。
どこか悔しさを滲ませながら槍をふるってくる。
受け流し、少女が怪我をしないように注意を払う。
槍が速く、苛烈になってくる。だんだん大振りに、そして遅くなっていく。
見計らって槍を巻いて、その手から槍を奪う。
槍がなくても諦めず、胸を殴りつけてくる。
いつのまにか来ていた青年が、少女の首元にナニカをあてる。
少女は膝から崩れ、その場で気を失う。
……翡翠のタイルが小さく光る。
少女を抱えた青年に家に入るよう促される。
家に入り、席につく。真剣な眼差しで謝られる。俯きながら少し話しを続ける。どこからか地図を取り出し、何かを説明する。時々少女を見て、握りしめては開くことを繰り返す、自分の手をみつめ、悲しそうな顔をしている。
地図が光り、ナニカの生き物を形作る。ソレは黒く、あの森で見たモノと同じだった。現在地から矢印が地図上に引かれ、その場所を指し示す。場所は湿地原をさらにじめじめさせたような場所。沼地だ。
こちらを見る。申し訳なさそうな顔をしている。
肩を叩いてやる。任せとけという風に、親指を自分に向ける。
きびすを返し、目的地へ走り出す。