連れられた先で
……目覚めて、その光景に驚く。
翡翠色のタイルが上下に敷き詰められている。
下は歩道になっており、水晶のように透き通る植物が花壇のように揃えられている。
上はタイルを反射する水面で、その中に淡く光り揺らぐオレンジ色の四角い角砂糖型の街頭が一直線に並ぶ。
その水面から突き出る、地上に建てられた家をそのまま逆さまにしたように建物が並ぶ。
誰が住んでいるのだろう、建物の窓ガラスに複雑な雪の結晶模様を浮かべ、中で過ごすあたたかさが伝わってくる。
景色に、圧倒される。
しかし
感動を邪魔するように、後ろから話し声が聞こえる。なにやら揉めている様子。
話している言語はわからない感じである。体は先程から動かないが、唯一動かせる首をかろうじて傾ける。そこには老人と青年、そして少女がいた。
きれいな白色の素足に鱗が視認できる。腰はくびれ、ここから見える左腕はよく引き締まっている。髪型はアッシュグレーのショートボブで、アッシュグレーの中に数本藍色が見える。瞳は翡翠色。この街の色だ。耳は出ていて、どこかエルフ耳っぽい。
右手に槍をもつことから、戦闘を行っているにちがいない。
何を話しているのだろうか。言語はさっぱりなので、今までの経験則から会話を想像してみようと思う。
以下予想。
「最近腰がいたくてのぅ」「そんなことどうでもいいの。話をそらさないで!」「そうはいってもな、」「うるさい!」「待ちなさい、待て、待つんだ」
それっぽいかね、おや、こっちに走ってくる。ん?
少女が横を通り抜ける。うん。うん?ちょっまっ……
体を縛る何かが体を後ろへ引っ張る。背中が引き摺られる。たまに体ごと跳ね、顔からタイルに引き摺られる。これ、ヤバい。ハゲる。うぇ、あばばばば。お兄さんたふけ、っんぐ。うはあああぁぁあ、やべっ
絶叫してしまうジェットコースターのように、景色が前へ前へと過ぎ去っていく。
お兄さんが同情した目で此方を見ていた気がした。
水面に入る。ブクブクブクという擬音が聞こえてきそうで……うぇ重力に逆らう不思議な感覚。
水面が下がっていく。
……ナニガドウシテコウナッタノダロウ。
顔に軟膏っぽいの塗られてる。強制的に始まるシナリオを見せられているような感覚。え、もっと他の感想はないのかって?すみませんね、体中めっさいたいんです。傷口にしみるんでっ、いったぁあ。この軟膏の殺意ハンパない。ちなみに体は自由。そんな情報はいらないって?ここは少女の部屋なのだろう。
ん?腕に水をかけている。へっちゃらという雰囲気で話しかけてくる。なんとなく理解できたことを頷いて伝える。まもりたいこのえがお。しかし、どこかひきつらせているようで、無理をしている笑顔。
……沈黙がつづく
少女の顔から笑みが消えていく
思い詰めた、顔をしている
どこか、迷いながら
ポツリ、ポツリ、と話し始める
先程のことなのだろう
声色が
くるしそうで
さびしそうで
たすけがほしそうで
きえてしまいそうで
言葉が止まる
涙を流している
へい
声に反応し、顔をあげる。
棒を少し生やし、バトンのようにを動かす。
今まで少女が見たことないような動きをさせる。
なみだが止み、呆けた顔をしている。
目を奪われたように、回している棒を追う。
自分の顔の前に動かして、少女の目の前で止める。
びっくりしたのを確認する。
両手で自分の口元を上に、笑顔になるようにあげる。
笑い声が、聞こえた。
一瞬こらえて、また、笑った。
今のうちに自分が言葉がわからないということを身ぶり手振りで伝えようとする。
なぜか、さらに笑い声が聞こえる。
空を突き抜けるような
止まらない笑い声に
なんとなく天井を見た。