戦闘の報酬
目が覚める。何か大事な夢を見ていた気がする。
硬い土の感触に、まだゲームにログインしていることに驚く。
何思い出そうとしていたのか、わからなくなる。
現実での時間を確認する。思いの外寝ていたらしい。
太陽が昇り始めているのを想像し、なんだかため息が出た。
冷たい空気が肺の中を満たす。
白い息が、口からもくもくとあがる。
時間が違うだけで、いつも見ている光景とは違うように見える。
整備された川岸で、水切り用の小石を探す。
手頃な石を数個見つけ、投げる。
いつもよりうまく投げれた気がする。
一回跳ねた。
対岸に人影が見える。
見えた気が、しただけだった。
さて、ゲームをするとしよう。
さてさて、あの黒騎士、めっちゃんこ強かったッス。
つまり、ハイリスクハイリターンを望むことができる。
ぼぉかぁ~たのしみなんですよ。
へい、というわけで、ステータス、オープン!
ネーム:
種族:人間
《ステータス》
・ゴキブリみたいな生命力
・筋力はあがっているようだ 頭の方も
INT:8(固定)
……前よりひどい。なんか、こう、うん。ひどい。最先端のゲームってスゲー。
いや、強い敵を倒すと獲得できるスキルとかないんですかね。武器もないんですかね。
頭の中に使えるスキルが浮かぶ。ソレは今まで使ったことがなくとも、自然とどういうモノであったか手に取るように分かる。
頭で念じ、声に出す。「Eclipse」
「リスポーンしました」
……は?
もう一度使う。「リスポーンしました」
使う。「リスポーンしました」
「リスポーンしました」
「リスポーン「リス「リスポーンしました」
なんっで!
……使い方だけだとダメパターン?
足を引きずりながら、元の場所へどうにかたどり着く。まだあった。OK OK 迷う 迷う
先程まで存在感のあった、見覚えのある、直立した棒が天に向かって突き立っている。
しかし、その棒は、かつての相棒ではない。
その形は以前のままだが、色は真っ黒に染まっている。いや、真っ黒というより、空間が抉れた感じの、光を吸収する黒だ。その色は騎士との闘いで見た黒である。
引き抜く。
今までにない肌触りと固さなんていう感想は出てこないが、強くなったと考えよう。端から見れば、アイツなんか処理落ちしてね?通報するわ、と言われそうな、不審な見た目である。
棒の名を確認する。
「 を汲み取りし禁忌の棒」:ソレはかつての記憶か夢か。この世界に存在しない人の願いが籠められた棒。持ち主の意志に感化される。地面に突き刺すと、耐久を回復する。
ヤバみを感じる説明文。そして耐久回復棒に向かって感謝の敬礼。
……先程の騎士との戦闘はもう起きないようだ。序盤からなかなかハードじゃないッスか。とりま先に進めることを確認し、森を抜ける。
外見に比べ、森は小さかったようだ。森を抜けると小高い丘が見える。丘を登り、外を見る。丘を下った先、湿地林を越えた先に、人工物が見える。
霧でよく見えないが、人型が動いているのを確認する。馬車のような大きい動物が出入りしている。
心待ちにしていた人とのふれあいに心を踊らせ、丘を下る。精霊術に期待。
湿地にたどり着く。
足が泥にとられるが、歩く速度を少し早くする。
少し、
油断していたのかもしれない。
足をとられる。
泥ではない。
足が引っ張られる。
その手には水掻きがついていた。
体が倒れ
引き摺られる。
踏ん張りがきかない
ただの水溜まりに、
体が頭まで入る。
反射的に目を閉じ
水面へ上がろうともがく
息を止めようとするが
口から気泡が溢れる
呼吸ができない
体は沈む
下に
下に
水面の光の揺らぎを最後に
意識が
遠のく