遭遇
やぁ、みんなはゼリー見ると寒気しない?俺はもうお腹いっぱいだね。突然だが、ヤツの説明をしよう。
四足歩行の藍色ゼリー、鑑定のような便利スキルはないようなので、とりま名前をブルゲルとする。ゼリー質の体であるが、触りごごちは、膨らんだ風船をさわっているような感触である。半球に三角形の足を4つくっつけ、頭部付近に角をもっている。角の近くを心臓であるコアの核が浮き沈みしている。
主な食べ物は草原に生えた草。心地よい風と日当たりの良い場所を好む。1体いれば周りに2、3体はいる。味はブルーハワイ。腹がふくれ、のどは潤うスペシャルドリンク。複雑な気分になる。
へい、そうなんです。説明できるレベルで見飽きたんです。今歩いているこの草原、ブルゲルしかみかけないんです。そして一定の距離進むと、空から中ボスっぽい鳥が飛んできて丸のみされてしまうのです。Oh……とりあえず鳥のことボブって呼ぶ。
進展ないので進路変更。前に進めないので、後ろに進路決定。リスポーン地点から後ろを向けば、林冠が形成されたら薄暗い森が広がる。所々に木漏れ日が差し、視界は安定しているとははっきり言えないが、まぁすすめるだろうぐらいの視界。探索していこうと思う。
ちなみにこのゲーム、遊びながら思考入力で掲示板が開ける。そこでいろいろ調べた。ステータスの表記は人によって違うそうだ。各ステータスがひらがな表記だったり、職業欄がついていたりする場合がある。……MPなしの報告はなかったよ。精霊術に期待。
しっかし、この森進むにつれて暗くなっている。音がすくないという現状が不安を煽ってくる。周りの木々は幹が黒い褐色でゴツゴツし始めている。進むほどみずみずしい緑の苔が黒ずんできたのが素人目でわかる。
この先もヤバイんでは?
しかし、先に進まなければスレで見た活気溢れる街が見れない。
もう人恋しいんです。へい。おや、視界が広くなって……
……自分の目を疑った。
〔ソレは蠢いていた。〕
ソレは秒刻みでぶれていた。
ぽっかりと空いた広場の真ん中で
〔ソレはなにかをまっていたように〕
ゆっくりとゆっくりと
凹凸がみえない
〔抉れた真っ黒な虚空が〕
ふりむいたようなかんかくとともに
〔わらう〕
すぐに距離を置くために飛び退く。目の前にいない。
どこへ。
首筋に電流が流れる。手にもつ木の棒で背面を切り上げる。
机を叩いたような反動が手から伝わるのを感じ、自分の獲物を振り回すに良い場所へ転がり込む。
目の前のものによろこんでいるのか、耳障りなノイズがリズムをとってきこえてくる。
虚空が自らの形状を変化させる。粘土をこねるように歪に、しかし、ゴムのように柔軟に、回転しながら脈動し、人型を造る。
その右手をランスのように鋭くし、
構えをとり、
槍先が
頭に、
当てさせねぇ。
槍を滑らせるように棒で反らし、その胴へ振り抜く。
〔ソレはノケゾラナイ、ヒルマナイ。目の前のものへただヒタスラニ突き進む。〕左手をも刺すことに特化させる。
左の槍を反らす。滑らせぇ、巻いてぇ、右からの槍にぃ上からぶつけ、そして、落とす!今だ!
顎らしき部位に、下からたたきつけ、ノックバックのところにコンボを……
胸が貫かれる。虚空に、飲まれる。
〔ソレはカンジナイ。おそれもしない。生きてはいない。〕
「リスポーンしました」
青空が見える。ボブが見える。ブルゲルが草を吸い込んでる。
ナニをされたのだろうか。ノイズ混じりのおっさんアナウンスが記憶によみがえる。戦闘中の特徴を脳内で組み立てる。
……変幻自在両手槍スーパーアーマー黒子でOK?
今の俺の力でヤツの槍を捌くことができるので力負けはしていない。攻撃はチビチビ与えられる。いけるのでは?
再挑戦しよう。
という訳でやって参りました。17回目です。
もうスタンバイしてます。初見だけ特殊演出って感じなんですよ。当たり前のように槍がくる。
1、2を反らして、3で巻き、4の5は地面に縫い付け、ぶっ飛ばす。振り向き、繰り返してたたく。右の振り下ろしを、パリィ、次の左も、パリィ、胸を突く。高笑いして、その攻撃は見切ったわ!とか言いたい。言ったらリスポーンしました。
順調でね?おや、
〔…大地から……を取り…む…〕
〔ソレは記憶の残火〕
〔己が蝕む者だと…支配する者だと…〕
〔……を大地へ大気へ……〕
〔己が可能性を我に魅せよ「recall Eclipse」〕
虚空より漆黒が現れる。黒炎が噴き出す。己の主を内を護る鎧を、己の主の外を貫く剣を、揺らめく漆黒の兜の隙間より、此方を覗く、強い意志を。
剣が、地を焦がし空を焦がす、白と黒の炎に包まれる。剣を中心に大気が震え、一定の感覚で体全身で風圧を受ける。
俺は棒を地面に突き立て、瞬時に耐久を回復させる。奴が動く。瞬きの間に、近づく熱気と振り下ろされる剣。受け流そうとして、その火力に腕が痺れる。いや、少し左へずらせた。棒を地に突き立てたまま放置し、体すべてを右へ、奴に対して細くする。
俺と棒の間を炎が焼く。地を焼き焦がし、剣が地の黒を吸収する。黒が吸収された地面は硬く乾燥した土になっている。
剣が横薙ぎに迫る。右にステップし、体を地面平行にして飛び越える。棒を掴み、斜めに振り上げられた剣を防ぐ。
軽く吹き飛ばされながら、地に棒を突き立て、摩擦をつけ勢いを殺す。奴が迫る。足が木につく。剣は右斜め下からの予備動作、足に力を込め、安全圏へ転がり、振り下ろされる剣を受け流す。
今度は成功、奴の剣が上がる前に胸を突く。
すぐに地に棒をつけ、重点を移動し、体を傾け、すれすれで回避する。触れた炎で動きが少し鈍くなる。炎はデパフ。炎ヤバい。自身へ向かってくる剣を流す。四方八方へ流す。振り下ろし時に地につけ、棒の耐久を回復する。
突然の横からの一閃をなんとか防ぐ。
奴は後ろに飛び退き、両手で剣を持ち、空へ掲げる。
開けた場所の中心で、最後となる黒を剣に取り込む。
白、黒、そのどちらもが長剣から溢れ、混ざり、光を反射する灰色となる。
〔……失意に身を焦がした 我のようには……〕
奴が剣を構える。
突きの構えで飛び出してくる。
足が地に触れ、殺意の剣が迫る。体を傾け、棒を振り上げ、パリィしようとする。
棒は炎に焼かれ、砕かれ、目の前で小さくなっていく。
少しでも被害を押さえようと体をひねる。
左腕から焼かれていく。
でも、諦めない。
小さいが、砕かれ鋭利になった棒を、
足で踏ん張りをつけ、
奴の首に突き立てた。
〔……どうかならないでほしい〕
祈るような、寂しいような、先ほどの気迫を感じさせない別人のような声が響く。
目の前が白い光に溢れ、体に吸い込まれる。
体が糸が切れたように動かなくなり、倒れる。
空は見えないが、差し込む木漏れ日があたたかい。
『眠れる記憶の残禍の討伐を確認しました』
『おやすみなさい』