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分岐世界─灰降ヲ彩ル咎楔姫─終

「……思いの外、粘りましたね、魔族の王よ」


称賛するようで、声色はどこか皮肉交じり、虫を見るように見下す。


「えへぇ、遂に願が清寿される。我々が探していた巫女も見つかり、鍵が揃う、我々を慈しむ星々が並び、円球の魂に火が灯る時、冥府の門が開く。」


「何もかもが分からない、という顔、王よ、何故、主に人族と魔族に分かれ国を建てた?何故、世界には特徴のない人以外の種を魔族としたのか?何故、協会は私を呼び出せたのか?この中で1つでもお分かりですか?」


「貴方は長らく共に過ごしていましたが、吸血鬼である彼女に本当に信頼されていますか?彼女の本来の役割、辿る運命、知って、いますか?」


「えへぇ?」


「ところで、死後の世界とは、何処に繋がっているか分かりませんが、この世界とは異なる世界が広がっていると考えられ、臨死体験した者が書き起こした想像が描かれたモノはいくつかあります。では、その世界とは?」


「彼らはその先を知るため、頭の可笑しい実験を行い、遂に私に辿り着いた。彼らは何を願ったと思う?」


「次の世界で私は○○が使いたい、○○に生まれたい、○○に成りたい、○○という才能を持ちたいなどなどなどなど」


「バカだねぇ?彼ら自身の持つ魂の枠組みは身丈に合わないっていうのに、魂の核は、自分で経験することで大きく成長するというのに、後悔も、挫折も、消失も、焦燥も、嫌悪も、破滅願望も、全部経験してその全てを受け入れ、認めることで成長するというのに」


「私は言った、あなた方の魂は穢れていると、彼らは笑い、用意した、穢れ無き魂を、世界に産声を上げた魂を。」


「私は人というモノに失望し、彼らを彼らの世界に、魂の行き先を紐を結ぶように繋げた。魂の汚染を防ぐために」


「彼らの実験後における魂の融合は、次の産声に悪意を与えた。結果、彼らは進化できなくなった。彼らは業を背負うことになった。それが人族。」


「魔族は……分かるね?それでも人は姿を変わっても人だった。君達が世直ししたようにね?元を遡り遡れば皆ヒト。私は見ることしかできなかった。」


「だから、彼女の魂から生命の原始『太陽』を使い、冥府の門から過去に行き、全部なかったことにするのさ。僕との繋がりを絶つために」


「それが1人の命を犠牲にして、自分の罪を認めてなくても、えへぇ?」


「サヨナラ、君達の夢をタチワカツ、この世界までの未来もタチワカツ、この先の未来、私は何も見えない。」


「時間、かけすぎた……」


独り言を呟き、踵を返し、木偶人形に向かい始める。が、


そこには木剣を構えた青年が1人


……俺はソレが許せない。


「世界の辿る糸先に、君の姿はなかったはずだけどなぁ?」


……全部知って尚、行動するお前が


「狂った魂は、もう無垢にはならない」


……狂いたいと思っているお前が


(システム)は間違いを許されない」


……誰も頼りないその姿勢が


「だからソコをドケェエ!」


……だからお前はクソッタレなんだ





格子状の細く鋭い糸が縦横に、斜めに、回転し、三度迫る。真一文字に斬る後、溜めの入る太い糸が十字を描き裂く。


手を上に上げ、糸を上空から鋭く落とす。撃つように、打つように、射つように、討つように、指一本下げる毎に一本の糸が槍のように落ちる。


その豪雨の中で、肉迫し、ヤツの体を叩く。


……現状装備は薄い、一度でも当たれば終了のお知らせ


距離を開けられる。落ちた先の岩の破片に糸がくっつき、メリーゴーランドのように回り出す。相手との距離を否応なしに縮めなければならない。


一直線に相手との距離を詰める。


右、前、後ろ、前、限りなく狭い隙間を縫うようにくぐり抜ける。左右、全力で突き進む。五つ同時に上から、後ろに下がる。


岩の真ん中に移動、w型に糸で切り落とされる。素早く右に転がるように移動、M型に切り落とされる。


岩がバラバラに崩れ落ちる。


その振動で首から下げている鍵も振動する。


鍵は光っていない。だが、かつての記憶を呼び覚ますには、ちょうどいい。命を借りとる鎌のような糸が幾重も側を掠めながら、今一度攻略方を思い出す。


ゲームでは地道に攻撃、俺の記憶でも地道に攻撃。


ダメだこら。


誰が言ってんだか


「君に構う時間は僕にはないっ『太陽』を私の手に沈め、儀式台を発動させるっ」


世界から拒絶されることが加速するように、身体中から煙が出ている。発揮する技の1つ1つが勢いを落とし、空気に溶けていく。元の場所へ戻るように。


「その場で糸をたちきればよかったっ廻らせるんじゃなかった」


「もうこの行き先を観測したくないっ」


「私はもう(システム)として戻りたいっ」


……悪い、何言ってるかわかんねぇ


何度目になるか分からない剣の払いに、その体が簡単によろめく。


「……私は、感情なんて、いらない……」


ゲームとも記憶とも違うコイツは、まだ狂い始めただけなのか。


……剣を構える。体幹を使い、体をひねり、狙いをつけ、


「止めてっっ!!!」


空気を斬る。いつの間にか、木偶人形から抜け出している吸血鬼が頬から血を流し、間に入っている。


「私に話をさせて」


「ねぇ、私達を見て、私たちは貴方の知るヒト?」


「多分、貴方の言う人の魂も、少しずつ少しずつ不純物はろ過されてきたんじゃないかな。」


「……貴女に是非、見て欲しいの、私たちが作る未来を、あなたが良かったって思える未来にするから」


「それにね、太陽が登るにはね、一度沈まないといけないの。いつまでも輝けない。一度、沈まないといけないの。貴女は感情を持ってるんでしょ。いっぱい、いっぱい自分の行動を考えたんでしょ。貴女の太陽が輝くよう、私たちが貴女の曇り空を開く。」


「だから顔の雨雲降らし切ったら、私たちを見てねっ」


「真っ暗を見上げれば明るいんだからっ」



協会に伝承としてだけ伝わる神が、空に溶ける。溶けた後に、会場を燃やしていた灰が空に舞い、雪のように降る。


灰が交じる雨粒が、静かに降る。


世界が止まる。


【世界から糸繰りの偽神の消滅を確認】


【個人イベントクエスト:タチワカチの分岐ルートを確認】


【……おやすみなさい】


世界が暗転する。


……体は眠れど、魂は眠らない。


視界が暗転する。


「……」


どこかに運ばれる。


「……次の計画っと……」


跳ねる水滴の音。


「……ここに待機させるとなぁ……」


ゴツゴツとした冷たい岩のような感触、砂の手触り。


「……そろそろ打ち合わせかのぉ……」


近くにいた圧迫感が離れ、水面の音が遠ざかる。




……瞼を開く。

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