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幕間 それぞれの思惑 それぞれの気持ち

短め

透明な海


透き通るけれど底が光を吸収するように真っ暗で奥がどこまで続くかはわからない。


その表面を暖かな陽光とは言えないけれど、滴り落ちる淡い紫の雫がつくる円形の波を明るく揺らす。


その液体が滞留する黒いレンガ上を、


男が一人


女が一人を抱えながら相対する。


「……明らかに夢で構成されていない、彼の意識外の人物が表れたわ、今回の計画は中止……


「何も中止にせずとも良かろう。また、何時(いつ)ものように『気絶していた』と思わせれば良い。其奴ならば並の出来事では壊れんよ。」


「っでも今回は彼の行動に異常があった、頭痛を堪えるような明確な歪みがっ」


「……巡礼は継続する。それに貴様も随分役を演じていたではないか、それともまた、覚えのない記憶を過ごすのか、この小僧と」


いつの間にか、自分の手で支えていたはずの青年を、男が背負っている。


「……『樹海』何を焦る必要があるの、その彼の巡りは順調よ、今の貴方の行動は、貴方のあるがままの自然って信条に反するでしょ」


「……天は定命なのだ。天の傍に最も近しい者の記憶を取り戻せずして、天を救うことなど……」


「……魂に、記憶は宿ると言うの、それと、彼女は私たちを許しはしないでしょうね」


「贖罪はとうに背負っている、計画は続行、芯魂名(ソウルターン)の元を集める。時間固定(ポーズ)を解く。自ら積み上げる罪への感情に潰れるな、いいな。」


「……えぇ、そうね……」



波は静かに平坦に成り行く。








ある一室にて、


「……その報告、信じるぜ?」


花火のように放射状に広がる高層ビル群が横にも繋がり、まるでウニの針の一本一本を繋いだボール状の建物が端から見れば転がる様子のこの中のある一室で、


平衡を保ったまま、椅子にしっかりと腰かけた男が目を据えて、話す。この時代には珍しいブラウン管型のテレビに向かって。


「次の出撃まで散歩してきます。ヒヒッ何かあれば此方をクリックしてください。」


テレビの中でドット絵が笑い動く。ドット絵から吹き出しのようにセリフが画かれ、矢印の先には解像度の高いベルが画かれている。


それを視界の隅に置き、机の横に繋がれたパイプ菅のようなものを手繰りよせる。


「艦内放送、艦内放送、これより待機部隊に任務を与える。α部隊は医療機関に問い合わせ、β・γ部隊はα部隊の補助回り、ε部隊はβ・γ部隊の補助、残りの待機部隊はVR関連施設の内部情を探れ、作戦内容、指定先などについて詳細内容は諸君らの成体端末に入力した。また、些細な違和感や疑問を感じれば随時報告を受け付ける。準備でき次第とりかかれ、以上だ。」


次に例のVR企業を調べている部隊の動かし方だが、このVR会社の作品のアクセスの止める方法を捜させているのだが……


しかしテレビがなくなったこの時代、どのようにして一大娯楽と成ったVRへの接続を止めさせるデマを流せるだろうか。


「……何かある、何かあるはずだ、見つかれ……」


次なる一手を探すべく、自らの情報網を広げる。


その影で、また一人意識を落とした者が医療施設に運び込まれる。


その人達から伸びるコードに繋がれた機器からは無機質な電子音が階段を上るように棟を鳴らす。


彼らは石のように眠る。









……ザリッ


手の指先が引っ掻くのは荒い砂埃、渇く口内


……また俺は気を失っていたらしい。だが……貰った『B』の記憶は彼らには弄ばれなかった、この深層記憶を屠ることなどできなかった。体の記憶が、覚えている。


そして今の俺が、思い出せないことも、覚えている。


名前の『』も、自分の詳しいことも、欠落している。


今世の俺は、多分、もういない。


俺から、離れてしまった感覚。


所々に思い出す世界、


紐付けられた記憶の欠片、


それらが勝手に溢れる。


穴の空いたコップのように蓋をしていた断片が流れ込む。


人格を呑み込み、混じって、飲み干す。


この記憶は、あたかも他人から白目で見られるだろう。


だからなのか、なぜなのか、分かってしまう。


エマとの邂逅は……精神の自己防衛なのだと。


とりあえず、終わらせよう


この誰かが動かす嘘吐きを


俺が


俺だけが知っている真実で


タチワカツ


……ソレしか、自分の存在理由が、わからない

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