冒険のはじまり
顔に日があたる感覚がする。目を開くと、眩しさに視界がはっきりしない。体は何かにもたれるように傾いている。手が硬い木の幹に触れる感覚。しっとりと湿ったコケに少しビビる。立ち上がり前を見た。
風に揺れる膝下まで伸びた緑の絨毯が遠くまで広がる。頭部に一本の角が生えた四足歩行の藍色のゼリー状の原生生物が数匹移動している。空は晴れており、翼から黄緑色の粒子を飛ばし、移動する猛禽類のような鳥類もいる。
これが、このゲームの舞台なのだろう。唾を飲み込み、口の中の感覚に驚く。
しばらくしてから、自分のステータスを確認する。
ネーム:
レベル:1
種族:人間
《ステータス》
HP:15
STR:6
VIT:7
AGI:6
INT:8(固定)
《称号》
・なし
「持ち物」
・艶のない荒のない木の棒:グリップがあり、離しにくい。
土に刺すと耐久が回復する。
DEX+2
よーし、いやちょっと待て。足りない気がする。足りない気がする。
いや、足りないッス、ヘイ、ヘェイ、ヘェイ!ないよ!名前、ないよ!空白の名前欄を叩く。しかしなにもおこらなかった。名無しですぜ。ネームレスですぜ。職質されたら終わりですぜ。
いや、キャラ違うよね?とか言わないでくださ、ぉあ。MPもねぇです。へい。MPが、俺の中で縛りプレイは事前な情報が、必要なんです!へい!
持ち物も……マジか、木の棒、木の棒って、とりあえず装備。
地 面 か ら 生 え る
……握る。引き抜く。あぁ、いい重さだ……何て言うか!
いや、このゲームの装備おかしぃ、装備してもDEXでてこねぇ。ってかステータス低く見えるの俺だけなのか、いや、比べるものないからかもしれん……INT固定ってマァ?脳筋プレイがお望みですかな?HA!HA!HA! 前向きに行こう。すべての敵は物理で倒せる。信じよう。歩きだそう。視界の端にゼリー、あっ。
……信じてたぜ、ちくせう。おい、ボブ!聞いてくれよ!俺の目の前のゼリーちゃん、俺の木の棒弾くんだぜ?あの柔らかボディ、どんなに速く振っても、音すらならないんだぜ?そんなわけないって?見てくれよ、俺の、魔王の肩に効いた三連擊、この可愛娘ちゃんには目も向けられない。ボブ、俺はどうすればいいんだ!ヤツは肉食系だ!ボブ!
俺の叫びは届かない。ヤツの角が鋭利に伸びる。油断していたつもりではない。角が分かれたのだ。1本から2本、2本から4本、木が枝を伸ばすように、体を突き刺す。体色が黄緑へ橙へ変化する。体力が切れたのが分かる。目の前が真っ暗になった。
……やぁ、またあったね。
どうすればいい。体力なくなる。リスポーンする。目の前にヤツ。体力なくなる。リスポーンする。目の前にヤツ。なんかあいつたまに光る。体力なくなる。……リスポーンする。
物理効かなくね?無理ゲー?いや、諦めるのか?最初の敵に?さすがに、それは精神的ダメージがデカい、諦めんぞ。
整理をしよう。ヤツの攻撃時に、藍色より黒い粒がゼリーの中で弾けたとき、槍づきがくる。分裂前に角を叩くと、分裂が起こらずに怯む。怯み中ヤツの核である紅のコアがむき出しになる。ここを、木の棒で叩く。
へぇい!、弾ける動作を確認、角に棒を叩きつける。
コアがむき出しになる。動作を繋げ、振り下ろす。
最適化されていく体をかんじる。確認し、叩く。
角への撃ち込みが遅いと、2本目から分裂し襲ってくる。っん、
遅いかった、ひだりから、みぎへステップをきざむ。次に、みぎから、ひだりへステップをきざむ。ヤツが角を戻す、と同時に近づき、浮き上がるコアへ、上段の構えでたたきつける。
キリキリッと軋む音をたて、コアが、砕ける。
コアから光が溢れ、自分の身を包み込む。
淡く、揺らぎながら、胸へ吸い込まれる。
次の瞬間、立ち眩みに襲われる。車酔いに近いだろうか、気持ち悪い。
ふらふらしながら、持ってる木の棒を杖代わりにして、木にもたれる。朦朧とした視界が藍色に包まれる。ヒンヤリする。頭の中に、ポップな音が聞こえてくる。
「スタート地点にリスポーンしました」