表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋骨!~恋するスケルトン~田中要はVRMMOゲームでスケルトンになって恋をする事にした。  作者: 熊谷わらお
第1章 スケルトンは恋の夢を見るのか? 1話~25話【完結】
9/83

9.田中要は遠恋をする事にした。

一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ

 田中(たなか)(かなめ)は恋に落ちた。これを恋と呼ばずに何と呼ぶのだろうか。恋に変わる言葉を見付ける事が出来なかった。


 VRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)の仮想空間。その世界の河にかかった橋の欄干(らんかん)。豪華な装飾で飾られた手すりの上にその人はいた。否、そのスケルトンはいた。

 夜の暗闇の中で、街灯と月明りを受け(たたず)んでいる。


 真っ赤なドレス、そして、真っ赤な帽子は繊細で優雅なシルエットを見せている。ツバの広い帽子は顔を隠している。だけれども、ピンと伸びた背筋が、背中の曲線を際立たせ、その人の美を揺るぎ無いものとしていた。


 息を呑む美しさに震えた。


 田中要は女である。要が操るキャラクター「カナメン」は男のスケルトンであるが、中身の要は女子である。女の自分でも心を持って行かれてしまう光景に、身動きが取れなかった。


 神秘的な白い骨。月夜に青白く(またた)く輝きは、まるで存在していないのではと思わせるほど透き通っていた。


 きっと好奇心であったのだろう。カナメンの服を黒のタキシードとシルクハットに着替えたのは。


私と踊って(シャル・)ください(ウィー・)ませんか(ダンス)?」


 左手を胸に当て、右手を骨乙女へと差し出す。


 骨乙女はこちらを見ると、カナメンの手に手を伸ばす。ふわりと飛ぶと、静かでしなやかな動作で手を添えた。


「カナメンと申します」

「骨子と申します。お誘いいただきありがとうございます」

「でも私、実は……踊った事が無いのです」

「ふふっ。大丈夫です! 私に合わせてくださいな」


 ぎこちなく踊るタキシードの男スケルトンと優美なドレスの女スケルトン。


「私、明日までしか遊べないんだ」

 骨子は言った。

「お仕事があってログインできなくなるの。明日も会ってくれる?」

 骨子の言葉にカナメンは即答した。

「もちろん」


「明日の夜、この街で待ってるね」

 そう言って、骨子はログアウトして消えていった。


 次の日の夜、彼女の姿を探すと広場で人に囲まれていた。柱の影からそっと見つめる。通りかかる人に声をかけられては、楽しそうに談笑している。彼女は街の人々の心を既に掴んでいた。

 今日のドレスも良く似合っている。


 紫色のふわふわに広がったドレス。頭のヘッドドレスは小ぶりで、同色のリボンと網目で透き通ったチュール生地がふんだんに使われている。


 彼女はスケルトンなのに、周りの人が話しかけて来る。

 自分と同じで、そして、自分とは違う。


 昨日、初めてカナメンの服に悩んだ。田中要の服はいつも迷うが、カナメンの服には迷った事が無いのに。

 自分が着たい服なのか、彼女が喜んでくれる服なのか、どっちが良いのか迷ってしまったのだ。


 これは成就することの無いスケルトンの恋だ。きっと泡のように消えてしまう恋なのだ。それでも(おぼ)れるように手を伸ばしてしまう恋なのだ。


 カナメンは急いで紫のタキシードに着替えた。合コンで手に入れた限定セットだ。合コンに行ってひどい目に合ったが、紫色で後ろが長い燕尾服(テールコート)と同色の深さの浅い帽子は、まるでこの日のためにあったんじゃないかと思うほど似合う。


 背筋を伸ばし、ゆっくりと紳士然として歩く。


 女性のスマートな誘い方なんて知らない。どうされたら嬉しいのかなんて知らない。だけど、貴方を迎えにいきたいんだ。


 カナメンの姿を見付けた骨子は、嬉しそうに立ち上がり、カナメンに駆け寄る。目の前まで来ると、膝を少し下げて挨拶をして、くるりと回転した。

 身を(ひるが)した彼女を追うように、街中に無数の光が灯る。スケルトンフラッシュだ。見た事が無い、赤や青の光たちがキラキラと輝く。街は夜に浮かぶ幻想的な世界へと変わった。


「君も作ろう!」

 そう言って骨子はカナメンの指先をなぞった。


 カナメンがスキルを唱えると白い玉は、黄青赤と色鮮やかに変化した。

『こんな事が……私にも出来るのか』

 真紅を選んだ。初めて会った時の、彼女の色。


 言葉を発する。

「シャル・ウィー・ダンス?」

 昨日あれから必死でダンスを覚えた。今日は私がエスコートするんだ。


 街の広場で踊る。そんな事は、普段なら絶対にやらない事だ。彼女と一緒なら何でも出来そうな気がしたんだ。

 嫌なことも、辛いことも、困ったことも、みんな彼女が(くつがえ)してしまう。


 踊る彼女のドレスの(すそ)が咲くように開く。


 踊り終わって2人でお辞儀をすると、街中から歓声があがった。

 骨子はカナメンの手を取り走り出した。光が尾を引いて彗星(すいせい)になる。


「やったねカナメン」

 初めて会った橋まで移動すると、そう言って彼女は抱き付いてきた。そっと手を腰に回して、抱きしめてみる。少し照れくさい。


「また会いたいな」

 言葉が自然に出た。

「また会いたいね」

 彼女が言ってくれた。だけど、今日でお別れだ。


 彼女は一歩下がると、カナメンの左手の甲にキスをした。

「困った時は私を思い出してね」

 にっこりと笑うと(きり)のように夜へと消えて、ログアウトしていった。


 骨子さんに会った人は心を奪われ(とりこ)にされる。そして、去っていく彼女は、風や彗星みたいな人だ。そういえば、桜子(さくらこ)さんもこういう感じの人だったのかな?


「ん?! もしかして……桜子さんだった?」


大好きな服装のカナメンが書けて大満足です! お楽しみいただけましたら幸いです。


 恋するスケルトンは1話完結でサクサク読める短編です。お話が思い付きましたら、不定期で追加いたします。感想レビュー評価いただけましたら嬉しいです。いただけた時は急いで次話更新いたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ