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恋骨!~恋するスケルトン~田中要はVRMMOゲームでスケルトンになって恋をする事にした。  作者: 熊谷わらお
第6章 人は骨と共に生き、骨と共に死す。そして想いは骨と共に残る。 68話~78話【完結】
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78.田中要は転生をする事にした。

 赤目を魔王の支配下にするためには、揃えなければいけない条件がある。赤目がミノタウロスとの戦闘後である事、そしてもう一つ。

「店長、一緒に来てください」

 店長の存在。

「私に力を貸してください」

 カナメンは頭を下げた。

「どうした?」

 不思議そうに見る店長。

「とにかく一緒に来てください!」

 カナメンはその腕を有無を言わさず掴んで引いた。


 カナメン、マリリン、エリー、店長の4人で森の中を進む。事情を知らないエリーと店長だが、カナメンの気迫に押され黙って後を追う。

 目指すは赤い目をした零土モンスター。赤目が魔王との契約を結び冒険システムへと組み込まれれば、世界を乗っ取られる事も無く秩序は保たれるはず。

 街の破壊によってフラグは立てられた。同行するはずのない店長がこうして森にいるのだから。

 そして、赤目は水辺に現れた。

 片目が傷付いているのが見える。確実にストーリーが進んでいる。エリーが吸収されて終わるチュートリアルから分岐する事に成功したんだ!

「こいつだ。神殿に現れたのは」

 赤目を確認した店長が言った。

「お前もこの世界の奴じゃないだろ? 俺達の世界を作ろうぜ、兄弟」

 カナメンを見た赤い目のそいつは、いやらしい笑みで話しかけてくる。

「3回目なので台詞はもう良いです、戦いましょう!」

「すっかり手懐けられちまって腑抜けか? って、えーっ」

 赤目困惑ぅ!

「エリーさんはこいつに近づかないでください。取り込まれてしまいます。3人で戦いますので、後方支援お願いします」

「良く分からんが、エリーにとって危険な奴なんだな?」

 店長の顔が更に引き締まる。

「そうです。こいつを倒さないとこの世界を乗っ取られます」

「分かった。なら俺にとって敵だ」

 店長は腰のベルトから2本の短剣を取り出した。真っ黒な短剣と深い赤色の短剣。英雄の名を持つ魔剣、アルフレッドとリファルスである。

 エリーが作ったこの魔剣は英雄の技を再現できる魔法武器だ。剣士であるアルフレッドと魔法剣士であるリファルス2人の技を宿す。

 今回は後方をエリーに任せてカナメンも前線に立つ。前衛3人、後衛1人の4人構成は英雄パーティーの再来を思わせた。

 英雄達のようにいかないかもしれない。しかも、1人は骨になっている始末だ。それでも守りたい者のために未知へと足を進める。


 ミラージュコレクトソードがマリリンの手の中で唸りをあげた。

 武器はマリリンに預けた。スケルトンバーサーカーめっちゃ強いし。だからカナメンの手には鞭。スケルトンの時に使っている武器だ。

 ミムロに作ってもらった匠の物ではなく市販品。それでも長年使って来たものは自分の手足のように動かせるはず。

 図鑑は背中を守るために紐で括って背負った。読んで良し、殴って良し、守りにも使える図鑑は攻守を備えたニクイヤツである。


 カナメンは攻撃を仕掛けつつ骨を分析する。救世主の骨。長さ、強度、可動域。そして、目の前の倒すべき者の骨。

 骨には法則がある。骨はつながっている。塊では無いのだ。骨が連なってスケルトンと成る。それは万人に共通。全ての者の中に骨は眠る。

 骨を視る事はその者の根幹を知る事。


 鞭で赤目の腕を押さえた所をマリリンが斬りかかる。剣先から発せられた魔法は避けられたが店長が短剣で魔法を吸収し、次の攻撃へとつなげた。

 このパーティーに盾役はいない。前衛の全員が自らの命を盾に味方のために戦う。誰かの攻撃が誰かの守りになる。

 店長が持つ短剣リファルスの技はリボルト。剣に魔法を乗せる事が可能な武器だ。魔法を使う事が出来ない店長でも、攻撃に魔法の一撃を加える事が可能だ。

「走天剣威っ」

 続けざまに店長が短剣アルフレッドから攻撃を繰り出す。刃のような風が赤目の剣を通り越して襲い掛かった。

 短剣アルフレッドの技は走天剣威。剣を振る力により切り裂く風が出て、まるで刀身が長いかのような攻撃ができる技だ。

 連携に次ぐ連携で繰り出される攻撃に手ごたえはある。それなのに赤目の力はいつまでも落ちなかった。疲弊するはずの赤目の体力が回復しているのだ。

 暗黒妖精との融合が、赤目を跪かせるのを拒んでいた。


 暗黒妖精を倒すには赤目とは別の条件がある。つまり、暗黒妖精を倒した技と赤目を倒した技の融合が必要という事になる。

「マリリンさん私の後方へ。店長しばらくの間、赤目の相手をお願いします」

 マリリンが赤目が振り解いた剣の勢いに乗って後方に舞い降りたのを確認すると、カナメンは必殺技のポーズを取った。

「エリーさん、すみません」

 エリーさんを吸収される訳にはいかない。それでは同じ未来になってしまう。違う未来があると信じて賭けるしかない。原作とゲームが違っているように、この先に待っている物語が違っていると信じるしかない。

「モンスターパレードに備えてください! マジックバーストを起こします」

 マジックバーストとは強力な魔法が使われると、リーベルタースの魔力の流れに負荷がかかりエリーにダメージが出る現象だ。

 カナメンは大きく息を吸い込んだ。

「我に手を貸せ魍魎よ」

 ゆっくりと呼吸し詠唱をする。呼応して足元に魔法陣が浮かび上がった。

「漆黒の闇から出で翼を広げ、その姿を手離せ」

 マリリンは二刀を地面に突き刺し体勢を保つが、苦しそうに背を丸めた。彼女の背を切り裂き、骨が翼のように羽を広げる。その姿はスケルトンの天使のようであった。

「我が盾となり全てを拒否せよ」

 カナメンは空に手をかざし叫ぶ。

「合体っ!!!」

 天を覆い広がったマリリンの骨は、カナメンを襲うように飲み込み触手のように体を這った。その骨は体を守るように鎧へと変化する。そして、真っ白な鎧の上を黒い文字が走った。白を埋め尽くした黒は、鎧を漆黒へと誘い姿を変えていく。

 ネクロマンサーには必殺技がある。術者と従者の融合。二身一体技「躯の鎧」だ。

「異常出力魔法か」

 店長が驚きの声をあげた。それと同時に魔力出力負荷に耐えられなくなったエリーが倒れる。

 地面が波打ち始めた。モンスターが地から生まれるモンスターパレードが始まったのだ。 

 店長はモンスターの間を潜り抜けてエリーを抱きしめた。気を失い倒れたエリーの手足の震えが止まらない。

 魔王を守ろうとモンスターが周囲の者達を無差別に襲い始める。その多くが刻印が示す魔王の敵、カナメンに向かった。しかし、カナメンは攻撃を物ともせず、ゆっくりと赤目に向かって進んで行く。

 躯の鎧は鉄壁の守り。攻撃が無力化される絶対障壁。全ては体に届くこと無く躯に阻まれた。死者の前では何人も無力である。

 躯の鎧は何人も不可侵な最強の防御力だが攻撃力は0。不気味な化物、図鑑の魔術師は武器も持たずに突き進む。

 攻撃が効かない事を悟った赤目は、近付いたカナメンに拳を振り下ろした。それに応えるようにカナメンも右腕を突き出す。そして、拳と拳が接触した瞬間、カナメンは叫んだ。

「ログイン!!!」

 占い師の技。触れた相手の心に侵入するメンタルダイブである。

 図鑑の魔術師は骨を従えるネクロマンサーであり、他人の心を読む占い師でもある。つまり、図鑑の魔術師には2つの必殺技があるのだ。

 なので、ここからは心理戦でお届けいたします。


――赤目の心の中の闇。黒い海を光を求めて泳いで進む。見逃してしまいそうな小さな光を目指す。暖かな光に包まれ、まだら模様に黒く汚れた妖精がそこにはいた。

 カナメンは指を差し出す。その指先は淡く光っている。仲間の光を感じた妖精は、指を抱え込み懐かしそうに頬ずりをした。

 その昔、妖精は広範囲に生息していたという。異世界図鑑より抜粋。仲間とはぐれたこの妖精は仲間が全て滅んだと思い絶望した。本来、聖なる地の力を吸収するはずの妖精が、黒く変化し魔の力を吸収し始めてしまった。

 膨れ上がった魔力は形を持ち始める。そして、異世界にいる1人ぼっちのモンスター達を嘆きこの世界に召喚し始めた。しかし、異世界のモンスター達は共存を拒み暴れ出した。孤独を集めても妖精の寂しさは満たされる事が無かったのだ。

 指にしがみつく妖精の頭にカナメンは自分の額をくっつけた。

「私、この世界に来て良かったって思っているよ」

 心の中で呟いてみる。

 妖精はニッコリと笑った。

『君と出会えて良かった。ありがとう』

 声が聞こえた気がした。


 他の者にとって、この戦いは一瞬であったように見えたであろう。

 2人が拳を交えた瞬間。はじけ飛んだ破片が黒くキラキラと舞い消滅した。カナメンの手の中に残った光以外は。

 躯の鎧が解除されスケルトンへと戻ったマリリンは、ミラージュコレクトソードを拾い上げた。そして、赤目へとその刃を向ける。

 意識を取り戻したエリーによりモンスター達はその姿を消した。

 漆黒妖精の力を失った今、赤目への攻撃は有効となる。しかし、魔王と契約させるためには倒さず屈服させなければならない。

 ダメージをくらった赤目は自らの心臓を手で突き刺した。

「まずい! 神殿で復活する気だ!」

 その時、炎が上がった。胸を炎が守るように揺らめき、魔術の円が心臓を守るように囲んでいた。それはミノタウロスが刻んだ魔法だった。

 心臓を締め付けられた赤目は膝から崩れ落ちる。復活で逃げられない事を悟った赤目は抵抗をやめた。

「私と契約してくれますね」

 エリーは優しく言って手を差し出す。その手を赤目は無言のまま握る。2人の繋いだ手から魔法が浮かび上がり、契約は成立した。

「上手くいったね」

 エリーは店長の側に行ってそう言うと、寄りかかるように倒れた。

「カナメン。行くぞ」

 店長はエリーを抱きかかえると立ち上がる。

 マリリンがカナメンの背に括り付けた図鑑を外し抱きしめると、声が聞こえたような気がした。

『この先に私は行けない。さようなら、カナメン』

 そして、ニッコリと笑った気がした。

「さようなら、マリリンさん。ありがとうございました」

 カナメンは深々と頭を下げた。

 マリリンとはここでお別れだ。原作では漆黒妖精を倒した後、図鑑の魔術師とマリリンはメイド喫茶を開く事になる。カナメンが倉庫メイドのスケルトンにマリリンと名付けた理由だ。スケルトンメイド喫茶もいつか行ってみたい。


「転送するね」

 弱々しい声が響くと、ミノタウロスの塔100階へと魔法により転送が行われた。

 部屋の扉を開けると、待っていたのはミノタウロス。体は新しい物に変わっていた。

「ミノ君ただいま」

 店長に抱きかかえられたまま、力なくエリーはミノタウロスの顔を撫でる。店長がエリーを降ろすと、ミノタウロスは愛しそうに優しくそっとエリーを抱きしめた。

「おかえりなさい、魔王様。冒険は楽しめましたか?」

「すっごく楽しかったよ」

 そう言うとエリーはミノタウロスの角に腕輪をかけた。

「ミノ君へのプレゼント」

 エリーが微笑むと、奥の扉が静かに開いた。

「ミノ君、ありがとう」

 店長とエリーとカナメンは奥の部屋に歩き出す。その姿をミノタウロスは膝をつき頭を下げたまま見送った。

 奥の部屋はベッドがあるだけの小さな部屋だった。扉が閉まると、店長はベッドの上に置かれた箱を持ち上げる。箱を開けると中には指輪が入っていた。

 店長はエリーの左手を取ると、薬指にそっと指輪をはめる。

 エリーはカナメンを見つめると言った。

「君は本当の救世主では無いのかもしれない。それならば、私があなたをこの世界の救世主にするわ」

 エリーの顔は魔王の仕事を達成しようとする真剣な表情になっていた。

「この世界をお前が救うのだ。この世界には魔王が必要なのだ。この世界を愛し、より人々を楽しませることができる魔王が」

 エリーは魔法でカナメンの剣を腰から抜き取った。2本の剣は背を合わせ1本となり、カナメンの目の前に差し出される。

「無理です! エリーさんっ! 店長、助けてください!」

 カナメンは縋るように店長を見た。

「エリーの体は限界なんだ。魔法で刻んだ封印が体を蝕んでいる。塔で眠ったままでいれば、冒険システムの維持は可能かもしれない。だが世界は人々を感じ、変えられる魔王を必要としている」

 店長の目が悲しく潤んだ。

「誰かが魔王を継がなければならない。俺はお前が適任だと思っている。エリーもお前に任せたいと言っている。あいつの気持ちを受け取ってくれないか」

「私には無理です!!!」

「分からない事があれば俺やミノを頼ればいい」

「私は何も出来ませんっ!」

「前の魔王やエリーが持っていて、俺やミノが持っていないものをお前は持っている。だから、お前ならできる」

 剣は魔法によりカナメンの手に握らされた。放そうと抵抗するが、動かす事が出来ず手を放す事は叶わなかった。

「この世界にはね、君の優しさが必要なんだ。人の痛みを感じられて、想ってあげられる君が。君は強いよ。優しくて、とっても強い。魔王に必要なのは魔力や力の強さじゃないんだ。みんなの幸せを願ってあげられる心が大事なんだよ。大丈夫。君なら出来るよ」

「クエストを中止します!!!」

 しかし、確認のメッセージは流れなかった。

「リセット……リセットさせて。お願い! リセットさせて!!!」

 カナメンの頬を涙が伝った。

「リセットは出来ないんだ。この世の中にはリセット出来る事と出来ない事がある。出来ないなら進むしか無いんだよ、カナメン」

 エリーはカナメンの手に握らせた剣を、自分の胸に突き立てた。剣に刻まれた赤い溝がより一層赤く染まり、魔力は渡されていく。

「ありがとう」

 エリーは微笑んだ。

 役目を終えたミラージュコレクトソードは光になって消滅した。それと共に彼女の体が崩れると、七色に輝く結晶石が床を叩いた。それは魔王の死を示す。

 店長は愛おしそうにエリーの結晶石を拾い上げ優しく握りしめた。

「俺は英雄になってくるわ。後のことは頼んだぞ」

 部屋の横の扉を開けて店長は部屋を出る。

 降りる階段の壁には英雄達の残した図案が並んでいる。魔王と英雄が作った歴史が刻まれて静かに世界を見守っている。

「きっとあなた達も……こんな気持ちだったんだろうな」

 見上げながら店長は呟いた。


 リーベルタースには5人の英雄がいる。最初の魔王を倒した4英雄と、そして復活した魔王を倒したとされる無名の英雄の5人だ。

 5人目の英雄の名は歴史に刻まれていない。国王に魔王討伐の証である七色の魔法結晶石を見せた後に姿を消したからだ。

 魔王の死が告げられ、人々は安心し変わりゆく世界を楽しむのだろう。真の英雄達の名を知らぬまま。


 1人になってしまった部屋で立っていられなくなったカナメンは床にへたり込む。ミノタウロスが部屋に入って来たが、喉が締め付けられるような悲しみで言葉が出ない。

「魔王様、お疲れ様でした」

 そう言ってミノタウロスは新魔王を静かに抱きしめた。

「私はあなた様の帰りをここでお待ちしています」

 その全てが温かい。


『お疲れさまでした。チュートリアルクエストは全て終了いたしました』

 ナビゲーションのメッセージが流れると目の前が暗くなった。

 温かい感触を残したまま体はスケルトンを取り戻した。未来へ戻って来たのだ。始まりの街は静かで誰も居ない。でもそれが今はありがたい。声を出して泣いてしまいたかったから。

『あなたの冒険が楽しいものであることを願っています』

 首にかけていた紫色の石が砕けた。そして、光を帯びながらネックレスは消滅した。


【チュートリアルクエスト完】


 ガイドや友好的なモンスターはエリーさんと共に冒険システムを作っている人達であり、倒しているモンスターは世界を手に入れようとする赤目側のモンスターという位置付けとなっている。

 最後のボスである赤目とミノタウロスの塔が実装された時、あの悲しい光景もまた見る事になるのだろうか。

 それがハッピーエンドなのだとしても、私は抗いたい。だからその日のために私は冒険をする事にした。エンディングを変えるために。

 私は100万ポイントを集め「ゲームマスターにお願い券」を手に入れるために冒険をすることに決めた。

 悲しい未来なら、それを変えるために。


 プレイヤー全員の倉庫には本棚が付いている。そこに並ぶ本は街や物語を記した魔法書だ。前世の記憶のネックレスは消えてしまったけれど、私の倉庫には本が生まれた。

「旅立ちの本」

 それは新しい冒険の記録。そして、失われた前世の記憶。

 このゲームには、他人が自分の分身だと思えば優しく出来る可能性が上がる。そんな想いも込められているのかもしれないと思う。

 冒険というゲームで私達の心はつながっている。魔王達が願ったように。


 お読みいただきありがとうございました。恋骨の6章はこのお話で終わりになります。

 初めて別のお話を恋骨に書き換えるという方法で書いたのですが、難しいと共にとても勉強になりました。楽しんでいただけていたら幸いです。

 次回はメモリーリトライバル版の最終話「おまけ企画:友へ捧ぐ、傀儡の選択。」です。お楽しみに!

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