76.田中要は分岐をする事にした。
チュートリアルクエストを再開したカナメンは、武器屋を出て走り出した。向かうのは隣町の近くにある場所。
この物語には主人公がもう1人いる。召喚獣を連れ傭兵として各地を旅した「図鑑の魔術師」という二つ名で呼ばれる人物である。その者は赤目が食ったと言った漆黒妖精を倒すはずの人物だ。つまり、このチュートリアル世界では図鑑の魔術師が居なかった事になっていると考えられるのだ。
カナメンの目の前に山に建てられた大きな十字架が見えてきた。そこは表の世界にはまだ実装されていない場所「英雄墓地」だ。
山のふもとに並ぶ墓石の間を走り、最奥を目指す。細い隙間を通らなければたどり着けない場所に入る。隠れるように作られた空間には、天井の隙間から射す光で目の前に大きな十字架があるのがわかった。そして、十字架に寄り添うようにいる骸骨も照らし出す。
その骸骨が墓の持ち主では無いとわかるのは、その首にかけられたネックレスに文字が刻まれていたから。ネックレスには「マリリン」そう刻まれている。
男性の名前が刻まれた墓に寄り添うように亡くなったマリリン。4英雄の1人。魔術師マリリンである。すっかり骨になっちゃってるけど。
「マリリンさん起きてー!」
カナメンがマリリンの肩を掴み体を揺り動かすが、一向に起き上がる気配が無い。がくがくと揺れる頭が今にも取れてしまいそうだ。
物語では英雄マリリンは図鑑の魔術師の召喚獣となり、漆黒妖精と戦う。
「条件を満たさないとフラグが立たないのかもしれない。こっちの主人公がやった事を辿るしかないのかな……確か最初はキノコの毒で死亡するんだよね」
英雄の亡骸であるスケルトンマリリンはもう1人の主人公と出会い、一緒に世界を旅した召喚獣として物語りの中で活躍する凄腕だ。それ故に主人公は図鑑の魔術師の他に別の呼び方もされていた。
「next to GG (ネクスト トゥ ジェネシスガーディアン)」
主人公は「次世代を担う守護英雄」という意味に捉えていたが、本当の意味は「創生の守護者の横にいる奴」である。
主人は図鑑を手にし立っているだけだが、優秀なスケルトンが手柄を立てるから付けられた呼び名からも分かるように、もう1人の主人公である図鑑の魔術師は殆ど力の無いおバカな人物である。
その軌跡を辿る事は結構大変とだけ言っておこう。
「キノコ―!!!」
カナメンはキノコの毒で死ぬために走り出した。探し出すキノコは赤色、黄色、緑色の3種類。
「えーっと、どれを食べるんだっけ」
赤色は止まれ。黄色はカレー。緑色は野菜。主人公が言っていた事を思い出す。
「だから、食べるべきは緑色!」
カナメンは緑色のキノコを口に放り込む。
『チャーララッララー』
神殿の床が冷たい。
「よし、死んだー! キノコクリア! 次は他の人の狩りのドロップを拾って矢で撃たれて死ぬ事になっているけど……これはパスしても大丈夫かな」
その次の行動を目指す。1日のパンより毎日食える野草がお得だって言って、拾ったコインで本を買うんだよね。キノコで死んだばっかりなのに懲りない奴なのである。
本屋に向かうカナメン。本屋には様々な本が並んでいた。倉庫メイドのマリリンが見たら喜びそうな店である。
ここで手に入れるのは誰でもすぐ読める最強のアイテムだ!
「図鑑をください」
カナメンは苦労して稼いだアルバイト代金を本屋の店主に差し出す。
購入した図鑑は大きなサイズのハードカバーで分厚い。早速開いて見てみる。本によるとキノコは赤色も黄色も緑色も毒があるらしい。異世界のキノコは多くが毒だ。本を手に入れたおかげで図鑑の魔術師は後2回死ぬのを防げた。
「図鑑を持つ以外にマリリンさんを従える条件は」
こっちの主人公がやった事を思い出さねばならない。えーっと、2回失恋して復讐するんだよね。あとは……。
「妖精の実だ!」
調べた所によると、森の奥の澄んだ水がある場所には毒に侵されていない木の実があるようだ。
図鑑を抱えて森の中を進むカナメン。光輝く小さな木の真下。図鑑の魔術師はここで空腹で死にかけるのだが、カナメンは死ぬほどはお腹が空いていない。
「お腹がすいたぁー」
そう言いながら地面に倒れるカナメン。もちろん演技である。
「死にそうだぁー」
演技が下手過ぎて妖精も困惑であろう。
「はやくー」
手のひらにトンッと何かがぶつかる。カナメンが薄目を開けると、そこには真っ赤な実を持った小さな妖精がいた。妖精の手にあるのは、図鑑で見た食べられる木の実だ。
カナメンは手を動かそうとしたが空腹で力が入らない。という演技をすると、妖精は木の実を手のひらに置いてくれた。まだまだ演技は続く。
2個目の実を持って来た妖精は、食べられずに残ったままの1個目の実を見るとカナメンの口元まで運ぶ。そして、ぐいぐいっと実を口に押し込んだ。甘酸っぱい味が口の中に広がる。
心配そうに妖精は近付くと、カナメンの指先にそっとキスをした。暖かになる指先。薄っすら光って見える。
「よっしゃー!」
死にかけのカナメンは元気いっぱいに起き上がった。妖精はびっくりして逃げ惑う。
「ありがとう妖精さん! 行って来ます!」
カナメンは深々と頭を下げると、草原の街に向かって走り出した。
「次は占い師だ!」
最初の街の隣町である草原の街にいる占い師を訪ねる。ここでの目的は占ってもらう事では無く、占い師になる事である。
「2時間コースでお願いします!」
「あなた、悩みごとがありますね」
占い師は言った。
「そうなんです!」
悩んでいない人は占い師の所には来ない訳だが。
「何を占いますか?」
「恋愛運と仕事運でお願いします」
ストーリーでもちゃんと恋愛運と仕事運だからね! 個人的に選んだ訳じゃないからね!
「恋愛運は……今の恋は叶わないかもねぇ、今年はあまり運勢がよろしく無い」
当たるも八卦当たらぬも八卦と思いつつも結構凹むなぁ。
「仕事運は……」
占い師は驚いた顔をした。
「唯一無二の存在になれる逸材!!!」
「やったー!」
って忘れてた!!! この体は救世主の物じゃん! カナメンのを視てもらわないとダメじゃん。でもスケルトンに手相無いじゃん!
「あなたは今の道を捨て、新しい道を行くべき。訪れる別れはそのためのもの」
占い師は言った。
分かってる。エリーさんとの別れが正しい道。それでも私は今の別れない道を進むと決めたんだ。
「あなたには占いの才能がある。今なら授業料が割引になりますよ。占い師として新しい道を進むべきです!」
救世主と図鑑の魔術師ってよくよく考えたら別人なんだけど、占い師になるのは誰でも大丈夫っぽい。自分的には良かったけれど、占い結果を信じて突き進んだ図鑑の魔術師が何だか可愛そうに思えてきたよ。
「今のままでも安定した収入を得て大成するであろう。しかし、そなたは占い師になる事で大勢の民を救う事ができる。英雄になれる道はこっちなのです!」
占い師は高らかに叫んだ。
「分かりました。なりますっ占い師!」
「では授業料、教科書代金と水晶玉代金の合計はこちらになります」
差し出した領収書にはとんでもなく高い金額が書かれていた。
「ちょっとこれは、ぼったくりすぎですよ!?」
「人聞きが悪いですね。人生を変える必要経費です」
「えーっと、これを代金として使いたいのですが、出来ますか?」
クエストで手に入れた封印石の欠片を見せる。これは売り用のアイテムであり、冒険の基礎資金として使われるものだ。
「良いでしょう」
「じゃぁ、私は今日から占い師ですね!」
修行していない訳だが、言った者勝ちである。仕事とは割とそういうものである。宣言したカナメンは英雄墓地に向かって走り出した。
「これでいけるはず!」
英雄墓地にたどり着いたカナメンは大きな十字架の隣に穴を掘る。手を使い必死に土をかきわける。出来上がった穴に骨のマリリンを抱きかかえ、そっと寝かせた。
上に土をかけ、目を閉じ胸に手を当てて祈った。君に幸あれ。そして、こっそりと薄目を開けて確認してみる。
気づかれないように土から這い出して来るスケルトン。大成功だ。
「マリリンさん助けてください!」
驚いたマリリンは震えあがると逃げ出した。
「エリー、エリザベスさんがピンチなんです!」
スケルトンの手を掴み引っ張る。その手を振りほどいてマリリンは走って逃げる。
「待ちなさいっ!」
追いかけるカナメン。逃げるスケルトン。洞窟には楽しそうな骨の擦れる音が響いた。倉庫のマリリン同様、英雄のマリリンも問題児なのか?
「困ったな」
疲れ切って動けなくなり座り込んだカナメン。振り向くと角の方でマリリンは体育座りをして引きこもる気満々である。
「行きましょうマリリンさん」
スケルトンは、嫌そうに首を横に振る。普通の説得ではダメそうだ。
「えーっと会話方法ってどうやるんだっけ」
カナメンはマリリンの側まで移動すると額を近付けた。コツン。額とスケルトンの頭蓋骨がぶつかる。
『こんな姿じゃ会えないもん』
声が聞こえた気がした。
「大丈夫! 凄くカッコイイ! 最高! よっ英雄!」
『嘘だぁ』
カナメンの言葉にいじけて指先で土にのの字を書き始めるマリリン。
「本当ですって! 私、スケルトンが大好きなんです! マリリンさんが居てくれたら私は最強のネクロマンサーになれます! 誰にもスケルトン愛では負けませんから!」
マリリンは頬を赤らめた。
『そうだね、君ならきっとなれるね』
声が聞こえた気がした。
マリリンは立ち上がった。カナメンの手を引いて歩くスケルトン。日の光が骨の間を透けて射していた。
動く骸骨を従えて戦う職業。その名は「ネクロマンサー」である。図鑑で調べた所によると昔は何人もいたらしいが、現在では絶滅したとのことだ。表のゲームにはまだネクロマンサーは実装されていない。
上手くマリリンと連携して戦う事は出来るのだろうか。少し不安になり、マリリンの方を見た。スケルトンもこっちを向いていた。見つめ合う2人。相思相愛。今、自分もスケルトンじゃないのが悔しいぐらいだ。
大丈夫。私ならきっとやれる。
準備は整った。いよいよ赤目との対決だ!
次回「77.田中要は死闘をする事にした。」 6章は残り2話+おまけ1話。お楽しみに!




