75.田中要は決定をする事にした。
【チュートリアルクエスト7開始】
「2人とも来い」
そう言って店長はカナメンとエリーを呼んだ。
「座って、首出せ。カナメンも」
2個のチョーカーを取り出した。首全体を隠すような高さのある革のチョーカーだ。柔らかく丁寧に作ったチョーカーを店長は2人の首に巻いていく。
「犬が2匹いるみてーだな」
巻き終わると笑い出した。カナメンとエリーは顔を見合わせる。
「頑張ってこいよ」
店長は跪いている2人の頭を撫でた。
今日はパーティープレイの勉強で2人で出かける日だ。エリーに作ってもらった新しい武器も持ってきた。
ミラージュコレクトソードは普段は二刀剣として使用するが、背を合わせて1本にすると、マジックドレインが使える武器となる。モンスターが弱い時には手数を稼いで素早く倒し、強い相手にはスキルを連打して高いダメージを出す剣となる。
森の中の道を進む。パーティーの練習という事もあり、今日は先にモンスターを見付けた方が先制攻撃をすると決めている。
エリーの武器は威力が殆ど無い初期装備、木の棒だ。出来るだけ魔法も使わない事になっている。
順調に歩みを進め沼地に差し掛かった時、空気が変わった。
目の前には赤い目をしたモンスターがいた。大きな体で筋肉質な肉体。ミノタウロスを思わせるが角は無い。二本の足で立ち手に幅の広い大ぶりの剣を持っていた。二足歩行のモンスターは知力が高く多彩な攻撃を行う。そのため、このモンスターはかなり危険な相手という事が分かる。
「離れて!」
エリーが叫んだ。
赤い目のモンスターは大剣を軽々と持ち上げると、側に近付いて来た小型のモンスターに向けて振るった。小型モンスターの体が引き裂かれ光になって散る。それは即死を意味していた。
「どいつもこいつも弱いな」
赤い目のモンスターが呟くように言葉を発した。そしてこちらを睨む。
リーベルタースの妖精やモンスターは人間と会話する事が出来ない。それなのに、このモンスターは言葉を発し、敵意を剥き出しにしている。
「やめなさい」
エリーの目が七色に変わる。しかし、モンスターは恐れることなく言葉を続けた。
「面白い奴がいるじゃねーか」
ニヤリと笑ったモンスターはエリーに向かって走り出した。
「やめるんだ!」
振り下ろされる剣。その攻撃をクロスした二刀でカナメンは辛うじて受け止め遮る。
カナメンの目を見つめたモンスターは少し驚いたような表情をした。
「お前もこの世界の奴じゃないだろ?」
横に払った剣の力によってカナメンの体は飛ばされる。このモンスターも異世界から来た転移者だっていうのか?
「何故そいつらと仲間みたいな真似してるんだ? お前もこっち側だろうが。そいつの魔力を食って、俺達の世界を作ろうぜ兄弟」
赤い目のそいつはいやらしい笑みで話しかけてくる。
「嫌だ」
即答したカナメンを嘲笑いながらも、その目は真っ直ぐに離さない。
「すっかり手懐けられちまって腑抜けか? お前も俺も元の世界から放り出されたよそ者。異世界から来た者が、この世界のよそ者たちを救う救世主になるんだ。後から来たからって、この世界の奴らに虐げられる必要は無い。俺達は自由。一緒に世界を手に入れようじゃないか」
赤目のモンスターはカナメンに手を差し伸べた。
救世主と同じく異世界から来た転移者であるモンスターは後に「零土モンスター」と名付けられるボス級モンスターである。土地との関りが0という意味で零土。零土は見た目は多様だが、同じ者はおらず単体。人の言葉を理解し話すことが出来る。そして、好戦的な性格の者が多いのが特徴だ。
「私とお前は違う」
モンスターは笑った。
「お前は世界に拒否されたんだよ。要らないってな。選ばれたんじゃない、捨てられたんだ。この世界はゴミ捨て場なんだよ。俺は馬鹿の世界を壊してやるよ」
カナメンは剣でモンスターの手を振り払う。続けて斬りかかった瞬間。後方から魔法が放たれる。エリーだった。
「カナメン!」
エリーの魔法が剣の背に乗り、刀身は炎を帯びた。振り下ろされた魔剣。威力の上がったミラージュコレクトソードはモンスターを光に変えた。
はずだった。物語では、ここで赤目を倒すはずだったんだ。
赤目から黒い魔法が上がった。
「魔法は使えないはずなのに」
物語に出て来る赤目は魔法が使えない設定のはずだ。何で魔法が?
「これは妖精魔法」
エリーが呟いた。本当にそうだとすると設定が違う事になる。
赤目が振るった剣がミラージュコレクトソードを絡め取り、2本の剣を遠くへと飛ばす。
「お前を元の惨めな世界に戻してやるよ」
赤目は魔法を詠唱し始めた。目の前に魔法陣が展開される。
「転送魔法で飛ばすつもりだ!」
魔法の型を読んだエリーが叫んだ。
「転送魔法は漆黒の妖精の力のはず」
カナメンの言葉を受けて、赤目は不気味に笑う。
「漆黒の妖精? そいつは俺が食ったよ」
「原作と、違う……」
カナメンは唖然として呟いた。ここは分岐した世界。私が知らない世界。
赤目の魔法が力を帯びて大きく膨らむ。
「逃げて、カナメン!」
エリーが庇うようにカナメンの前に立った。
赤目はエリーに向かって左腕を振り上げると同時に、右手を握るように動かす。目の前で展開されていた魔法陣が捻りまとめられ矢のように絞られた。勢いよく振るった赤目の左手がエリーの首を掴む。そして、右手で魔法を発した。開かれた右手に呼応して魔法の矢は放たれる。
魔法の矢はカナメンの体を突き抜けると通り過ぎて、後ろで広がり形を取り戻す。回転を始めた魔法陣は引力のようにカナメンの体を真後ろへ引きずり込もうと誘う。
一方のエリーは赤目の体に侵蝕され飲み込まれていく。
抵抗虚しくカナメンの左腕が魔法陣に引きずり込まれ消えた。前への動きを封じられたカナメンは、魔法陣へ引き込まれるのに抗うだけで精一杯だ。
エリーは覚悟を決めたように目を瞑った。そして、首にかけた紫色の石が付いたネックレスを胸元から引き千切ると、カナメンに向かって投げる。
「カナメン、お願い……この世界を救って……」
エリーは赤目の体に吸収されていった。
カナメンは叫んだ。
「クエストを中止します!!!」
「え?」
赤目とエリーが困惑の顔を見せる。
『本当にクエストを中止しますか?』
クエストガイドが確認の音声を流す。
「中止します!」
カナメンは言い切った。
「えー!!!」
「マジかよぉぉぉぉぉ」
エリーと赤目の声が遠ざかり、目の前が暗転した。
『クエストを中止しました』
明るくなってカナメンの目に映った場所は最初の街の広場。体はスケルトンに戻っている。首には紫色の石が光るネックレスがかかっている。戻って来たのだ。
大きく息を吸い、ネックレスを握りしめてカナメンは叫ぶ。
「クエスト開始!」
【チュートリアルクエスト7開始】
武器屋の2階、カナメンはベッドの上にいた。隣ではエリーがスヤスヤと眠っている。
「よし」
エリーと2人でパーティーに出かける日の朝に戻っていた。カナメンは静かにベッドを抜け出し、エリーを起こさないようにして武器屋を抜け出した。
次回「76.田中要は分岐をする事にした。」 6章は残り3話+おまけ1話。お楽しみに!




