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恋骨!~恋するスケルトン~田中要はVRMMOゲームでスケルトンになって恋をする事にした。  作者: 熊谷わらお
第6章 人は骨と共に生き、骨と共に死す。そして想いは骨と共に残る。 68話~78話【完結】
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72.田中要は試着をする事にした。

【チュートリアルクエスト4開始】


 街を行くエリーはご機嫌な様子で跳ねるように歩いている。

「カナメンありがとね!」

 試着しやすいようにと三つ編みに結ってあげた髪も楽し気に跳ねる。エリーの首元は幅のある太目の革のチョーカーで覆い、高さのある襟の服でカバーして見えないようにした。

 その隣を歩くライナス。2人が出会った年月の分、成長して……しすぎておっさんになっているが、面影は残っていると思う。一緒にミノタウロスの塔を上った。あの修羅場を一緒に乗り切った。それなのに彼はそれを知らない。喜び讃え合いたいけど言えない。そんな気持ちが嬉しくも少し歯痒い。


 城下街であるラウズゼアには大きな店が並ぶ。三階階建ての建物は途切れず繋がって通りを作り、一本道のように真っ直ぐ導く。目的別の専門店が多いのが特徴だ。品ぞろえも豊富なので、この街はいつ来ても賑わっている。スケルトンの時にもよく買物に訪れる街だ。

「その首の痕……もしや、救世主様?」

 3人で歩いていると街の人に声をかけられた。

 救世主が魔王を倒すために世界中を旅している。そんなウワサが武器屋のある街から遠く離れたこの街にまで広まっていた。

「えっと、一応そういう事になってます」

 首元を隠す必要があったのは救世主も同じだったのだ。油断していた。

「皆様のご職業は何でいらっしゃるの?」

 突然の事に上手く言葉が返せない。今の私は何だろう? 救世主と自分で言えるほどの力は無い。スケルトンは未来の自分だ。

「俺は盗賊、こっちが鍛冶屋。こいつは見習い冒険者って所か?」

 店長はそう言いながら、カナメンの頭を乱暴に撫でた。

「では、こちらを使ってください」

 体力回復ポーションを渡される。

「ありがとうございます!」

 エリーが元気よく答え、みんなでお礼を言って街の人と別れた。魔王だとバレたら大変な事になるのに、慌てることがなく場慣れした感じに何だか驚く。英雄だからなのかな? なんて思ったけれど、人が好きなんだなきっと。


「服屋はここだよ!」

 エリーが店の扉を開けた。

 お店の中は服だらけ。天井近くまで壁中に飾られている。防御を考慮しない見た目を重視した服が山ほど並ぶ。フワフワのドレスから、スリットが入ったセクシーなドレスまで選び放題。試着し放題。初めて訪れた時は1日中ここで遊んでいたなぁ。

 それでもって可愛い女の子に可愛い服を着せるのが大好きなので心が弾む! 七味さんは着替えには余り協力的では無いので、ここぞとばかりにエリーさんで遊びたい。

「こっちの服とかどうですか?」

 持ってきた服をカナメンはエリーに見せる。

「可愛いねっ! それ着てみる」

 エリーとカナメンはああでもない、こうでもないと服を着替えて楽しむ。

「いつもより長引きそうだな」

 買物が終わるのを待っている店長は、簡単に決まりそうが無い様子を見て溜息をついた。

「こんな時にしかスカート履けないんだもん。もっと試着してみたいの!」

 珍しく反抗して頬を膨らませるエリー。勢いよく試着室のカーテンを閉めた。

「所でカナメンはどんな職業に就くか決まったか?」

 店長は試着室の側の壁にもたれながらカナメンに聞いて来た。

「カッコイイ最高のスケルトンです!」

 即答のカナメンである。自分が何者かは分からないけれど、なりたいものなら決まっている。スケルトンが職業なのであればだが。

「相変わらずおかしな奴だな。俺は盗賊になりたくてなった訳じゃないし、エリーが鍛冶屋をやりたいと言った時アイテムの鑑定が出来て便利だったからスキルを伸ばしてきた。状況が変わって必要があれば転職しても良いと思っている。職業ってのは好きなものをやるだけじゃなく、自分が役に立てるものをやるのも良い事だと俺は思っているんだ」

 何だか今日の店長は真面目?

「職業、救世主でも良いしな。救世主には何が必要なのか考えて、必要なことをやればいい。エリーみたいに、やりたい事は全部やればいいさ。無駄な経験や職業は無い。何でもやれば、後々に自分のやりたいと思った事の手助けになる。やってきたことを利用するも利用しないもその人次第なだけで、やってきた事を利用してやりたいことの糧にしようと思いさえすれば、全ての事は無駄ではなくなると思ってるんだよ」

 店長は続けて言った。

「俺はさ、救世主だの英雄だのってのは人一倍損をした奴の事だと思うんだよな。一番損をして、それでも前に進み続けて、誰よりも前に行った奴の事なんじゃないのかね。言葉だけでもなれる。そういう風に見せることはいくらでも出来る。だけど、お前がなりたいのは言葉だけのものじゃ無いだろ? だったら、他人から見たらどうとかってのは考えるな。誰よりも損をして、誰よりも努力して、誰にも言われなくても自分の中だけで頑張ったと自信が持てればそれで良いと思うんだよ。少なくとも俺は、そういう奴の事は尊敬できるからな」

 きょとんとしている様子を見て、店長は笑いをこらえながらカナメンの頭を優しく撫でた。

 急にテキスト長すぎだよ! なんてツッコミを入れたくなるぐらい台詞は長いけれど、気持ちは伝わったよ。私が今、何者かって聞かれた時に答えられなかったとしても、何を今、頑張ってやっているかは言えるようになろうと思う。

「どっちがいい?」

 試着室のカーテンが開いて、エリーが2つの服を持って聞いてきた。

「両方良い」

 店長は断言して笑った。

「1着しか買えないんだよぉー」

 エリーは力無くうなだれたのでした。


 服屋を出ると兵士が待っていた。ラウズゼアの国王が救世主を夕食に招待したいとの事だった。渋っていた様子の店長だったが、美味しい物が食べたいとエリーに口説かれてお城にやってきた。

 めずらしそうにきょろきょろと城の中を見渡すエリー。お城の中には立派な彫刻や絵画が並んでいる。

 カナメンの目に入った絵画には4人並んだ英雄の姿があり「世界を救った者達」というタイトルが付いていた。その絵にはエリザベスと書かれたエリーの姿があった。癒しの聖女。今日買った高さのある襟の長袖ブラウスにハーフパンツとタイツ姿の彼女とは結び付かない。絵にあるような美しい手足が出るドレスはもう着れない。革の首輪と手袋、ロングブーツが彼女を締め付け、その命さえも縛って存在を隠す。

 英雄エリザベスは仲間を守り、魔王によって死を与えられ復活が叶わなかった事になっている。

 エリザベスが魔王となった記録は何処にも残っていない。英雄達が守り通した秘密だ。

「あーっ」

 エリーが叫んで走る。

「これね、ドラゴン討伐の時のだよ、こいつが強くてねー。アルフレッドが守ってくれてね。懐かしいなぁ」

 次々と絵画を見るエリーの足が止まった。そこには国王と王妃の絵があった。その絵のタイトルは「国王アルフレッドと王妃リファルス」とある。

 店長はエリーの頭を撫でて、歩くのを促した。

 ここにはエリーの知らない世界も描かれている。塔を出た者と塔を出られなかった者。英雄には二つの人生がある。

 英雄アルフレッドと英雄リファルスの子孫。ラウズゼア国王は暖かく救世主一行を迎えてくれた。王冠には魔王が倒された後に残る七色に輝く結晶石が輝く。エリー達が倒した前魔王の残した輝きだ。

 豪華な食事が並んだ。かつての仲間の子孫と笑顔で会話するエリー。食事会は滞り無く進み、夢のようなひとときは終わった。


「素敵な街……」

 ラウズゼアの宿屋に着いたエリーは窓から街を眺めながら呟く。

 国王と魔王はリーベルタースの経済を支えている。国王が住みやすい街を作り、魔王が冒険という仕事を与え、人々に生きる目標と希望を与えている。

 仲間達が作った街を見る彼女の気持ちを本当は知る事が出来ない。それでも私は知っている。物語の中にあったから。

 世界のために全員が大切なものを失った。だけど失って終わりじゃない。それでも生きなくてはならない。それを全うしたのだ。会えなくなっても、それぞれが出来ることを担う道を選んだんだ。だから大丈夫。それぞれの道がこんなに素敵な街を作った。


 その日のエリーは、一晩中街を見ていた。


【チュートリアルクエスト4終了】


次回「73.田中要は把握をする事にした。」お楽しみに!

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