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恋骨!~恋するスケルトン~田中要はVRMMOゲームでスケルトンになって恋をする事にした。  作者: 熊谷わらお
第6章 人は骨と共に生き、骨と共に死す。そして想いは骨と共に残る。 68話~78話【完結】
75/83

71.田中要は回想をする事にした。

【チュートリアルクエスト3開始】


 暗転し、目の前に現れたのは見た事の無い塔。石造りの塔は長い間ここにある事を思わせる風化具合で、重々しい雰囲気がある。


『クエスト発生:冒険者ライナスとなり、ミノタウロスの塔50階に行こう』


 これまで一緒にいた店長とエリーの姿が見えない。それに何だか体が軽く感じられる。目線は今までと同じぐらいの高さだし、種族は人間であるが、装備がさっきまで着ていた物とは違って立派とは言い難い服装に変わっている。腰のベルトには短剣が収められているのが確認出来た。

 救世主であった体から冒険者ライナスへと変わったからだ。

「この身の軽さと武器は回避職かな」

 回避職は素早い動きで敵の攻撃を交わしながら手数で倒す役職だ。スケルトンの時に慣れているから今までよりは動き方が分かりそうだ。


 ミノタウロスの塔と呼ばれる階層型ダンジョンは英雄達がこの塔の最上階で魔王を倒したとされている場所だ。円柱型の塔の中には様々な種類のモンスターが生息しており、世界の縮図のようになっている。面積が広く階層ごとに分かれているため、パーティーで狩りをするのに向いている場所だ。

 そびえ立つ塔の入り口から中に入ってみると1階は安全地帯になっていた。沢山の冒険者が集まっている。

 買ったばかりの綺麗な装備を身に纏って、思わず笑顔になってしまう冒険を始めたばかりの初々しい者。希望と好奇心に満ちた精悍な顔立ちをした高レベルの者。ここには幅広いレベルの冒険者が集う。しかし目的は皆同じ。モンスターを倒し報酬を手に入れ、自分の剣の技術や魔法の力を磨き、高みを目指している。目指すは英雄「ジェネシスガーディアン」だ。

 平和な世界に突如現れた魔王により、人間もモンスターも狂暴化し、リーベルタースは混沌と恐怖に包まれた。4人の英雄「剣士アルフレッド」「魔法剣士リファルス」「魔術師マリリン」「聖者エリザベス」は魔王を倒し人々を救った。

 そんな英雄になりたいと誰もが憧れていた。

 英雄達が戦った塔。そこで戦う事は最高に気分が上がるものだ。

 1階で狩りの準備を整えてから上を目指す。1階には塔の中のモンスターを説明した案内図、転送魔道装置、パーティー募集の掲示板などがある。

 転送魔道装置はクエストの受注や上の階へのワープ移動が行える装置となっている。触ってみたが、残念ながらチュートリアルでは使えないようだ。徒歩で上を目指す事になりそうだ。

 パーティー募集の掲示板で50階に行くパーティーを探してみると、1つだけ募集中の表示があった。

 ダンジョンはモンスターの発生する数が、フィールドと呼ばれる普通の狩場とは桁違いに多い。休みなく敵を見つけられるので、効率的に経験値とお金を集められる。その分、状況が変化しやすく危険が高い狩場だ。

 パーティーであれば協力して倒す事が出来るので、死亡する事無く安全に狩りが出来る。

「おい、ライナスじゃないか」

 声をかけられた。

「持ってるの短剣? また職を変えたんだ」

 声の雰囲気から友好的な関係では無さそうなのが分かる。

「そんな装備で入れるパーティーなんてあるのか?」

「こいつにはソロがお似合いだよな」

 クスクスと笑い声が聞こえて来る。

 カナメンは目の前がグニャリと歪むような感覚を覚えた。久しぶりの感覚。息を大きく吸ってゆっくりと吐く。大丈夫、大丈夫、私は……大丈夫。

 パーティーをして、仲間を見つけて高みを目指す。それが楽しいのは分かる。だけどソロ職だって楽しいものだ。誰かの影響ではなく自分が合わないと思うなら職を変えれば良いけれど、そう思わないなら続ければ良いのだ。人から劣っていても好きなものを続ければ良いと思うんだ。何かと独り言は多くなるけれど声にしなければいい。心の中の独り言はカウント0。心の中が饒舌だって良いじゃないか。誰に迷惑がかかるっていうのだ。

 ソロ職をやってみて分かった事がある。パーティーが合う合わないとは、人と合う合わないであって、職業が合う合わないではないということ。多くのパーティーを外から見ていると、装備がダメでも動きが下手でも、楽しそうにパーティーをしている人は沢山いる。そして、私はパーティーの楽しさを七味さんに教えてもらった。不遇職でも弱くたって工夫をすれば効率の良いパーティーが出来る。

 私はそれを知っている。

「俺たちは50階。邪魔すんなよ」

 そう言い残して彼らは去って行った。どうやらパーティーを組んで50階を目指すのは無理そうだ。

 腰のベルトに下げているポーチのフィールド倉庫を開いてみた。体力回復ポーションとマジック回復ポーションが100個ずつ入っていた。これだけの量があれば1人でも50階を目指せるかもしれない。

「よし、行くか」

 2階へ続く階段を上る。ミノタウロスの塔は階段を上るとすぐ目の前が狩場のフロアになっている。モンスターが沢山いるフロアの真ん中を通り抜け出入り口をくぐると、上の階へと続く階段が現れる。構造は単純で、その繰り返しだ。

 最初は弱いモンスターなので、1人でも倒せる。モンスターを素早く倒しながら、順調に階層を上って上を目指す。自分でモンスターを倒せている間は良いが、倒すのが難しくなってからが問題だ。

 30階へと上る階段の途中でカナメンは体力回復ポーションとマジック回復ポーションを取り出して飲んだ。

 体力はモンスターから攻撃された時に減る。体力が0になり死亡すれば街の神殿に転送される。このゲームでは死亡でレベルや経験値が減ったりは無いが、狩り場に移動するのが面倒で時間的なマイナスになってしまう。ミノタウロスの塔30階での死亡は、街からまた30階まで移動する事を意味する。移動の時間を考えると死亡=今日の冒険は終了だ。

 マジックはスキルと呼ばれる特別な攻撃をする場合に使用する。0になってしまうと素早く倒して逃げるべき時に対処出来ず、死亡を引き起こす危険性が増える。パーティー中であれば問題にならないマジック0も1人でソロ狩りをする場合は管理が大切になる。

 パーティーの姿が少しずつ増えて来て、どの階層でも見られるようになってきた。人の合間をぬって移動し、自分を狙って来たモンスターは端の方まで引いていって倒す。真ん中で倒してしまっては邪魔になるし、側に居るパーティーにモンスターを押し付けてしまったら迷惑になるからだ。パーティーがいる中で1人で狩りをする者は邪魔者とされている。大人数で狩り出来る場所を1人で占有することになるからだ。


 順調に上って来たカナメンの足が40階まで来た所で止まった。ここから先は1人で行ける強さの階層ではない。1匹でも倒すのは至難の技。周りに冒険者のパーティーがいるからこそ抜けられる可能性がある階層となる。

 身のこなしの素早さを生かして、狩りをしている他の冒険者の間をすり抜けるには、各職業の動きやパーティーの次の行動を予測する必要がある。

 足を踏み出すタイミングを見計らう。

 パーティーをしている人達にも少し無理をしている様子が伺えた。複数のモンスターに囲まれれば、死亡が確定してしまう状況でも無理を承知で狩りをするのは、手に入る報酬の効率が良いからだ。上の階層にいるモンスターは強い。その分、報酬が高いのだ。

 1階で見た配置マップによると、ここから遠距離攻撃のモンスターが増えて来る。遠距離攻撃により、思わぬ方向からの攻撃で死亡する危険がある。回復ポーションがすぐ飲めるように腰のベルトにセットした。

 静かにパーティーの行動を読む。

『GO!』

 部屋の真ん中が開けたタイミングで走り出した。走り抜ける際に1匹モンスターが反応し追いかけて来る。部屋の隅までモンスターを移動させ、パーティーの邪魔にならない位置でダメージを与えていく。41階へ行く階段に向かって少しずつ移動しながらモンスターの体力を削る。敵の攻撃をすんでの所でかわし、短剣で敵にダメージを与える。1人で与えられるダメージは少ないが、手数を多く与えることで時間をかけて相手の体力を削っていく。

 その時だった。大量の足音が聞こえて来た。大勢の冒険者が焦った様子で隣を走り抜ける。

「まずいっ」

 上の階から冒険者がモンスターを引き連れて逃げて来たのだ。この流れに巻き込まれたら、自分は確実に死ぬ。あと少しで倒せる状態までモンスターの体力は減っている。このモンスターを早く倒さなければ連鎖してモンスターの狙いがこちらへも来てしまう。カナメンはスキルを連打した。

「急げ! 急げ! 急げっ!」

 悲鳴が上がる。大量のモンスターが現れた。逃げまどう人々の悲鳴が聞こえる。助ける暇は無い。ひたすらに目の前の敵と相対する。

 やっとの思いで倒せ、モンスターを倒した時に得られる結晶石を拾う。と、下げた頭の上を魔法が通過した。モンスターにロックオンされてしまったのだ。

 中腰のまま、前転で位置を移動する。カナメンがいた場所に向けられた攻撃魔法が飛び、熱い炎の玉が壁に当たって散った。前転の姿勢から素早く腰を上げ、回転の勢いを使って前に走り出す。横目で見ると、追われていた冒険者達が光になって死亡していたのが見えた。元居たパーティーの姿は見えない。上手く逃げる事が出来たのだろうか。

 正面を向き、41階へ続く階段を駆け上がる。

 冒険者を見失ったモンスターは元の階層へ戻ろうと移動を始め、カナメンの後を追うようにして41階への階段を上って来た。後戻りしたくても、もう下を目指すことはできない。

 立ち止まる事無く階段を駆け上がった。自分が1匹も倒せない階層。立ち止まれば死が約束されているからだ。モンスターは41階になっても45階になっても追いかけてきた。

 死ぬよりも前進! 自分の性格をうらみながらも足は止まらない。走りながら回復ポーションを飲む。50階までは行けないかもしれない。それでも、途中までだとしても、行けるところまで行ってやる。これから先、見ることになる景色なんだ。だったら今見て死んでやる。偶然でも運でも何でもいいから味方してくれ! 前を開けろ!

 パーティーをしている人の姿は見えない。まばらに立つモンスター。大分上の階層から逃げて来ていたようだ。徐々に倒されて復活し始めたモンスターが出始めた。

 前に立ちはだかるモンスターの間を抜ける。高レベルのモンスターは動きが早い。腕を切られた。武器の風圧に押される。それでも足を止めない。

 後ろから追いかけてくるモンスターの足音が聞こえなくなった時、表示は50階を示していた。

 部屋の中心に密集するモンスターに行く手を阻まれ、壁際に追いやられる。

「あははっ」

 笑いがこみ上げた。力が抜けて壁に背を当たまま座り込む。

 50階の部屋の中には屈強な肉体を持つモンスターや魔法の強そうなモンスターが30匹は見える。動く事もままならない大ピンチ。でも笑みがこぼれる。やった! 死なずにここまでたどり着いたんだ。

 天井を見つめた。魔法が刻まれて紋様が浮かんだ天井。天井の模様は1階と同じ。でもここは50階。未知が広がっている。

 息を整え、壁を手探りでゆっくりと探る。大きな動きは敏感な高位モンスターに感知される可能性がある。指を這わせるように壁を触り、背中を壁に押しつけて少しずつ立ち上がろうとする。壁を這わせた手が何かを押す。

「ガコンッ」

 ゴリゴリと背中の壁が音を立てて動いた。モンスターと目が合う。

「ま、待って! うあ」

 中腰だった姿勢から後ろに転がる。壁であったはずの場所は小さな隙間へと変化していた。床に背を付けて転がった上を氷の塊が通過する。後ろに回転した勢いのまま1回転して姿勢を立て直す。目の前にはモンスターが魔法を詠唱している姿。と、閉じる壁。

「助かったぁ」

 床に手を付いて、知らず知らずの内に止めていた息を吐く。

「ボォッ」

 後ろから火の付く音がした。

 今度こそ死んだな。と思って振り向くと、そこには温かな明かりが灯っていた。自分のいる小部屋と幅の狭い階段が照らし出された。階段を上るのに合わせてランプが並び、明かりをたたえている。

 力が抜けて座り込む。ここは安全そうだ。


『クエスト達成:木箱を手に入れました』


 目の前に小箱が落ちていた。木箱を取り上げて軽く振ってみる。カラカラと小さい音を立てている。恐々小箱を開けてみた。

 木箱の中を見ると小さく畳んだ紙と指輪が入っていた。


『クエスト発生:鑑定をして、持ち主に届けよう』


 スキル『鑑定』を使うと、アイテムは呪われている事が分かった。そして、中にあった紙を開いてみる。

「愛するエリザベスへ――アルフレッド」

 そうメッセージが書かれていた。カナメンは静かに箱を閉じた。箱を手に持ち階段を見る。ランプの灯りは導くかのように上に向かう階段に沿って並んでいる。

 足元を確認しながらゆっくりと階段を上がっていく。壁にはびっしりと文字や絵が描かれていた。それは世界の地図だった。

 街、訓練場、弱いモンスター、強いモンスターを表した絵と文字。この世界のありとあらゆる事柄が壁には書かれていた。

 カナメンは見入るように、階段を上りながら壁をたどった。


 行き止まりには扉が1つあった。握る場所の無い扉は、一見すると壁のように見えたが、そっと押すと軽い抵抗をみせながらも開いた。

 その先は小さな部屋につながっていた。ゆっくりと静かに中に入る。

 飾り気の無い部屋には、大きなベッドが1つだけ置かれている。ベッドの上には、まだ幼さの残る少女が眠っていた。銀色に煌めく長い髪。真っ白な顔は生きていないのではと思わせるものだった。飾りも無い質素なワンピースの胸元が少し上下して、少女の生を辛うじて表していた。

 少女の体には、指先から足のつま先まで、びっしりと黒い魔法の文字が刻まれている。


 カナメンの気配に気付いた少女は、ベッドから飛び起きた。

「え? いつ来たの? お客さんが来たらミノ君に床を殴って起こすように言ってたのに!」

 少女は慌てた様子で、髪の毛を直した。

「ごめんなさい……正面からじゃなくて、あっちから来たから」

 入ってきた扉を指差す。

 少女は1度、深く呼吸すると、宙に浮いた。一瞬で景色が変わり、殺風景なベッドルームは天井の高い広い空間へと変化する。彼女の服も禍々しい真っ黒なドレスに変わる。

「我は魔王エリザベス。勇気ある者よ、よくぞ参った。ミノタウロスを制したその腕前、見事であった……って、あれ? 戦ってないんだっけ? まぁいいや。この身に刻まれた49の刻印。最後の1文字をその手で刻めば、我は滅びるであろう。抵抗はせぬ。我を倒し、世界を手に入れるが良い」

 魔王エリザベスと名乗った少女は目を閉じた。

「エリーさん、指輪を届けに来ました」

 カナメンは箱から指輪を取り出すと、言葉を続けた。

「愛するエリザベスへ。アルフレッド」

 エリザベスの目が驚いて見開く。カナメンはエリザベスの手を取り、手の平にそっと指輪を乗せた。

 指輪を見つめるエリザベスの目から大粒の涙があふれる。そして、広い空間は元の質素なベッドルームへと戻っていった。

 浮き上がる力を無くした少女は、床に座り込み震える手の上に乗せられた指輪を見つめている。

 カナメンは立膝でしゃがみ、頭を下げた。

「エリーさん。あなた方の冒険により世界は救われました。壁の絵を見ました。英雄達が知恵を絞り、力を合わせてこの世界を作っていたのですね」

 カナメンの声には深い尊敬の念が込められていた。


 魔王を倒す事で、魔力は次の魔王に引き継がれる。悪い魔王であれば地は荒れ。良い魔王であれば平和も不可能ではない。世界は平和を取り戻し、豊かになった。エリザベスが良い魔王であった証だ。

 人と交わる事が出来ず、一人で戦い続けてきた。そんな彼女が昔の自分と重なって見えた。

「1000年の間に、この世界には力を制限する呪われたアイテムが生まれました。もう体に魔法を刻む必要は無いのです。冒険に出かけましょう。パーティーを組んで、世界を旅して、魔力を封印するアイテムを集めましょう!」

 指輪を握りしめ泣きじゃくるエリザベス。

「私、冒険者に戻れるかな? 昔みたいに……冒険できるかな?」

 カナメンはエリザベスの手を包むように握った。

「絶対になれます。私と店長とエリーさんで冒険しましょう!」


『クエスト達成:冒険者エリザベスを手に入れました』


【チュートリアルクエスト3終了】


次回「72.田中要は試着をする事にした。」お楽しみに!

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