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恋骨!~恋するスケルトン~田中要はVRMMOゲームでスケルトンになって恋をする事にした。  作者: 熊谷わらお
第6章 人は骨と共に生き、骨と共に死す。そして想いは骨と共に残る。 68話~78話【完結】
73/83

69.田中要は前世をする事にした。

【チュートリアルクエスト1開始】


『カナメン世界を救って。前世の記憶を思い出して』

 目の前の白い世界は少しずつ音を取り戻していく。街の音は段々と大きくなり、白い世界が色を取り戻した。

 人々が目の前を行き交う。声、扉が開く音。静かだった世界は活気を取り戻し、冒険へと誘う。


 VRMMO RPG GGL ジェネシスガーディアンズライフ。このゲームはプレイヤーが異世界から召喚される事から始まる。

 魔法陣の中で種族や性別などキャラクターの特徴を選んで好みの見た目を作る。選べる種族は「人間」「獣人」「スケルトン」の3種類。そしてキャラクターを作り終えると、魔法陣を囲む炎に尋ねられる。

「異世界から来た者よ。そなたの名前を教えてくれないか」

 それで登録は終了。

 そして始まるのがチュートリアル。最初の街で前世の記憶を取り戻しながら、ゲームの遊び方をナビゲーターに教えてもらうのだ。


 カナメンはいつもより低めの視点に違和感を感じて自分の体を見回した。

 肩上だけど少し長めの髪。肌色の肉体。スケルトンのスの字も無い、どこからどう見ても人間の体。人間の16歳男子が前世の人物である。田中要は女子であるが背が高い。カナメンもスケルトン男子なので高く設定している。だから目線が低い事が何だか不思議な感覚なのだ。

「みんなの視点ってこんな感じなのかな?」

 七味は現実世界では男子なので背が高いが、ゲーム世界では背が低い女子のキャラクターを使っている。赤色53号も現実世界では背が高いが、キャラクターは男子でも背を低く設定している。イヌカイに至ってはゲーム内では狼でいる事が多いので、更に地面に近い視点という事になる。

 いつも遊んでいる世界がキャラの違いだけで違う世界に見えてくるのが面白い。だから現実の自分とは離れたキャラクターを作る人も多いのだろう。納得だ。

 人間とスケルトンも大分差があるが、要にとっては有って無いようなものなのだ。普段からスケルトン気分だからである。

 静かで誰も居なかった街には沢山の人が集まっている。目の前の人は全てNPCと呼ばれるノンプレイヤーキャラクターである。人間が動かしているのでは無く、プログラムで動いている。チュートリアル中はプレイヤーと会う事は無い。自分のペースでゲームを学んでいく事が可能だ。

「少年、武器屋には行ってみたかい?」

 街の人が声をかけてきた。チュートリアルでは、こうやってNPCが声をかけて来てストーリーを誘導してくれる。

「冒険を始めるなら武器屋に行ってごらんよ」

 前回はこの武器屋行け行け攻撃により撤退しクエストの中断をしたが、今回は大人しく武器屋へ行かねばならない。

「リーベルタースは気に入ったかい? 武器も見て行ってくれな」

 リーベルタースとはこの世界の名前である。剣と魔法のファンタジー世界リーベルタース。平和だったリーベルタースは「魔王」と呼ばれる魔法使いにより、精霊やモンスターが溢れる混沌の世界に変わった。モンスター達は魔法の力を使って倒しても復活する。そこで人々も魔法の復活技術を手に入れ、寿命を迎えない限り死ぬ事の無い対抗システムを作り出した。それが「冒険」である。


 武器屋の扉をゆっくりと開ける。木と革と鉄の匂い。店内に店員の姿は見えない。初期に作れる装備たちが並んでいるのが目に入った。

「懐かしいな。これ一番最初に作った剣だ」

 装備を見ていると、ローブのフードを深く被った人物が店に入って来た。大きな箱を抱えている。箱の中には大量の武器。重そうにフラフラと足元が覚束ない。

 ローブの人物が体で押すように扉を閉めると、箱から短剣が落ちた。短剣は床とぶつかり音を立て滑り、カナメンの方に柄を向ける。

「すっ、すみません。拾っていただけますか?」

 女子の可愛らしい声が聞こえた。

「思い出した」

 これはフラグである。原作ではアイテムを拾うと暴れ出して殺される事になっている。

「最近あんまり死んでないから怖いなぁ」

 狩りは安全第一で行っている。スケルトンは好きだが死ぬのは好きでは無い。しかしながら死んでおかないと先に進めなさそうである。どう回避しようとしても、ローブ姿の人物はフラフラと行く手に先回りしてくる。

「怖いよーっ、優しくしてねー!!!」

 カナメンは思い切って床の短剣を拾った。


 眩しい光がカナメンに降り注ぐ。目を開けると大理石のベッドに寝そべっていた。体を起こして周りを眺める。高い天井、澄んだ空気、綺麗な建物。そして、周りには沢山の人間。神々しい衣を纏った人達が膝をついて頭を下げている。

「救世主殿! いつ世界を救ってくださいますか!」

 ここは復活の神殿。種族が人間の場合は神殿で復活する。獣人は精霊の村。ちなみにスケルトンの復活場所は墓地である。室内で復活出来る人間っていいなー。

「あなた様の体には高出力の魔力を受けた証が現れています」

 カナメンの首を指差した。そして鏡を差し出す。首の周りには黒い色をした波のような紋様が付いているのが見える。

「英雄が魔王を倒してから1000年間。現れる事が無かった紋様が発見されたということは魔王が復活した証である。かつての英雄は魔王と戦い、復活出来ずに命を落とした。それなのにあなた様はこうして復活した。まさしく神の加護を受けた救世主!」

 神官は声高らかに叫んだ。

 詳しく話を聞いた所によると「ジェネシスガーディアン」と呼ばれる4人の英雄が魔王を倒してから1000年。これまでに見られなかった新種のモンスターが現れ、人々を恐怖に陥れているらしい。そして、とある予言者は言ったという。「異世界から来た者が、世界を救う」と。そして現れたのが証を持つ者。だからあなたが救世主に違いないというわけだ。

「では行ってきますねー」

「カナメン殿、がんばってー!」

 神官たちに見送られ神殿を後にする。目指すは武器屋。魔王の所である。


「こんにちはー!」

 元気に武器屋の扉を開けると、中には2人の人物が待っていた。

「初めまして、魔王です」

 腰まである長い銀髪の小柄な女子は丁寧に頭を下げた。随分可愛らしい雰囲気の魔王である。

「お前がさっき殺した奴だから、初めましてってのも変だぞ」

 魔王と親しそうに話す武器屋の店長は、荒々しい雰囲気のある長身の男だ。

「さっきの人だったのですね! よろしくお願いします、救世主さん。それにしてもあの技、凄かったですね! どうやったんですか? 初めてでびっくりして……思わず首を絞めてしまいましたよ」

 申し訳なさそうにする姿も愛らしい魔王。

「こんな狭い所で炎の獣を呼び出すとか殺されて当然だ。馬鹿だろ」

 それとは反対に辛辣な店長。こっちの方が魔王と言われた方が納得できそうだ。

「倒すのはお願いしたいのですが、加減とかはできないのですか? 街の人を巻き込んでしまうので、魔獣召喚とやらを使わずに戦っていただけると助かります」

 そう言うと剣を差し出した。倒されても良いんだ……まぁゲームって最終的には魔王を倒すのが目的だしなぁ。

「避けないので斬りかかって来てください。思いっきりどうぞ」

 言われるがままに魔王に斬りかかる。

『ダメージ0』

 残念ながら全くもって歯が立たない。

「魔法を使わなきゃ雑魚かよ、こっち使ってみろ」

 店長が炎の獣を出した時に使用した短剣を投げ渡す。

「あのですねー『我が名に答えてその姿を現せ、内なる獣イフリート。魔獣召喚!』とかって叫びながら、こうですねポーズを決めて、そしたら炎がゴーっと出て来たんですよ」

 少し興奮気味に説明をしてくれる魔王。

「我が名に答えてその姿を現せ……内なる獣イフリート。まっ魔獣召喚」

 ちょっと恥ずかしさに声が小さくなるカナメン。NPCしか見ていないとはいえ、普段は大声出したりポーズを決めたりとかしないし。ファンタジーらしい呪文とかってVRMMOにとってはちょっと難易度高いよね。

 恥を忍んで詠唱し、武器を魔王に向けて構えた。が、何の変化も起こらない。チート能力終了のようである。

「うーん。これでは倒せないので、少し鍛えた方が良さそうですね。お店もすぐには使えそうに無いですし、冒険に出かけますか」

 困った顔をして、魔王が言った。

「しっかりと働いてもらうからな」

 店長がそう言いながら上を指差した。

 見上げると、室内のはずなのに真っ青な空。天井であったはずの場所は屋根まで突き抜けてぽっかりと穴が開いてしまっていた。

 冒険の始まりは借金の始まりなのでした。


「もうちょっとでレベルアップだ! がんばれー!」

 魔王を倒す救世主のはずが、現在カナメンは魔王が引き付けたモンスターを倒すという、魔王の力に頼り切った狩りをしている。初心者を安全に高速で育成する時に良く使う手法なのだが、それをゲーム側が推奨しているのが何とも人工知能運営らしい所ではある。

 店の天井の修理が終わるまで3人は冒険に出掛ける事になった。とは言っても、弱すぎる者が約1名いる訳で、とりあえずはカナメンのレベルアップを目指して特訓中なのだ。

 本来のスケルトンの体ならば、カナメンはかなり狩りが上手な方に入る。しかし今は前世の体である。これまで積み重ねて来たステータスアップはこの体には乗らない。初期ステータスの人間男子からのやり直しである。


 チュートリアルとはクエストを進めながら、武器や魔法の使い方を学ぶ仕組みとなっている。今は魔法の使い方の練習という所か。

 魔法はコントロールが難しく、狙った場所になかなか向かってくれない上に、集中力が必要なので疲労感が凄い。

 スケルトンも一応魔法が使えるが、冥府の門を召喚したり、スケルトンフラッシュなどのアイテムを作るという補助的な魔法なため、本格的な魔法は今回が初めてだ。

 魔王は息を切らす事無くモンスターの攻撃を交わしている。多くの修羅場を潜り抜けてきた手練れの動きだ。しかもパーティー慣れしている。どの位置が相手にとって戦いやすいかを把握している様子だ。

 攻撃を全て受けつつ、急所を狙いやすいように誘導してくれる魔王は本当に優しい。

「すみません! マジックポイントが尽きました」

「店長から回復薬もらっておいでー」

 魔王は笑顔で答える。

「マジックポイントの使い方下手すぎるだろ。これで最後の回復薬だから使い切ったらエリーと戻ってこい。食事にするぞ」

 武器屋の店長の所に行くと、しかめっ面で家計簿を見たままこちらを見る事無く回復薬を渡された。優しい魔王に対して、こちらの塩対応が半端ない。

「今月はどう計算しても厳しいな……飯は釣るか」

 家計簿を閉じ、店長はため息をついた。


 狩りが終わった後、しばらく歩いて着いたのは湖。

「エリー、一番大きいの採ってこい」

 店長が言った。

「いってきまーす」

 元気いっぱいにエリーは湖の中に飛び込む。そして、魚に腕を食われながら戻ってきた。超巨大な怪物魚。

「店長! 大きいの釣れたよ! 新鮮なうちに売ってくるね」

「帰りに塩買って来いよー」

「はーい」

 エリーはビチビチと暴れる魚を担いで街へと走って行った。

「お前は食う分を釣れ」

 無表情で釣り竿を渡された。


『クエスト発生:魚を1匹手に入れよう』


「釣りかぁ、あんまりやった事ないんだよな」

 GGLは装備の製作や料理、釣りからキャンプまで何でも出来るのが売りのゲームである。何でも出来るからこそ、やった事が無いものも多くなる。やらずとも困らないのもGGLの良い所ではあったりする。

「少しでもお役に立たねば!」

 意気込んで釣り竿を振り、釣り針を湖に落とす。

 水面に浮かんだウキは軽い引きの動きを見せた後、高速で走り出した。

「い、糸が切れるっ!」

 カナメンも全力で湖の周りを走り出した。

「借金が増えちゃうーっ」

 竿を壊したら店長に何を言われるか分かったもんじゃない。魚を釣り上げるためには竿を引かなくちゃいけないけれど、少しの力加減の間違いで糸が切れてしまいそうだ。

 いつも使っている武器の鞭だと思えば何とかなるかな? 構造としては似ている所があるから、何とか上手く力を伝えてと。

「釣れそうか?」

 隣に店長がやって来た。

「もうちょっと待ってください。時間をかけて魚を弱らせれば何とか釣れそうな感じです」

「弱らせれば良いんだろ?」

 店長はそう言うとオプション付きの剣を取り出した。

「ライトニングボルト」

 バチバチと湖に電撃が走る。糸と釣り竿を通してカナメンにも電撃が走る。プカプカと腹を向けて浮かび上がる魚たち。感電して痺れるカナメン。


『クエスト達成:初心者用釣り竿を手に入れました』


「食べる分だけ持って来い。気絶してるだけだから、後はキャッチアンドリリースだ」

「キャッチし過ぎですよっ! もっとこう、優しく出来ないんですか!」

「釣るのが遅いからだろうが」

「大体にして魚の大きさがおかしいんですよ、ヌシだらけの湖で初心者が釣り上げられる訳無いですよ!」

「文句言うなら飯抜きにするぞ」

 パーティープレイにおける人間関係の難しさまでチュートリアルで教えてくれなくて良いのに……。

「ただいまー! 美味しいお塩手に入ったよ」

 エリーが満面の笑みで帰って来た。

「ご飯にしよっ!」

 巨大魚を丸焼きにして、暖かな焚き火を囲んで食事をする。焼き魚に塩が染みて最高に美味い。醤油も捨てがたいが塩も良いものだ。

「エリーさんは魔王なんですよね?」

 恐る恐る聞いてみた。

「うん! でも、魔王は副業なの。今は鍛冶屋が本業だよ。装備を作ってー、オプション付けてー、高値で売るの!」

「あ、あの……魔王の方の活動とかはどうなっているんですかね?」

「魔王の方はね、ミノ君に任せてあるの。ミノタウロスっていうモンスターで、大きくてとっても強いんだよー!」

「おい、食い終わったなら寝るぞ。明日は早朝から移動を始めるからな。エリー火の番頼む」

 そう言って店長は横になってしまった。

「エリーさん、交代の時間になったら起こしてくださいね」

 カナメンはニッコリと笑った。

「私、魔王だから7日ぐらい寝なくても大丈夫なんだ。だから遠慮なく寝てね」

 エリーは足元の石を拾い上げると、ほほ笑み返しながら投げた。

「ギャンッ!」

 悲鳴が上がって近づいてきていたモンスターが逃げ出す。

「おやすみっ」

 エリーはそう言うと本を取り出し読み始めた。

 全くモンスターの方を見ずに追い払ったエリーとカナメンの力の差は歴然。今のカナメンには回復をして足を引っ張らないようにするしか、やれる事がないのであった。


【チュートリアルクエスト1終了】


次話「70.田中要は行列をする事にした。」お楽しみに!

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