67.田中要は労働をする事にした。
「要さん、今日も豆乳だけっすか?」
作業の手を休めず火豪茂は言った。ここはZsの社内。お昼ご飯として豆乳ドリンクをチビチビとすすって腹を満たそうとする田中要の姿が貧しく光る。ストローで吸うと残量が分かりにくくて幸せな気持ちが持続するよね。
「ここの所、お金使い過ぎちゃって」
少し恥ずかしそうに要は言葉を返す。
「男にでも貢いでいるんすか?」
執事喫茶には落ち込んだ時にしか行って無いから大丈夫! そんな事を口に出したら、目の前の男子の険しい目は更に険しくなるのであろうか? 試してみたいけど、呆れ顔と溜息にゾクゾクを感じる素質は要には無いみたい。心をどうにも惹かれないので止めておこう。
「そういうのじゃないですよ」
ついヘラヘラとした閉まらない笑顔をしてしまう。言葉の説得力0だ。
「桔梗さん、結構な額を執事に貢いでいるらしいんで、要さんは気を付けてくださいね」
火豪から桔梗への溜息が漏れた。今もその執事に会いに行っているんですよーと、とてもじゃないが言えない。『忙しい取引先のために、こちらが赴く』との主張から、現在桔梗は執事喫茶内で仕事をしている。仕事だから問題は無いはずだが、会社から出て行く時の朝の気合の入った服装とご機嫌な様子を見るには、既に手遅れだ。仕事が終わっても通いそうな勢いなのである。元気になるために使うお金は無駄では無いから良いと思うんだけどね。
「私はスケルトンにしか財布の紐は緩くありませんから!」
自信満々に要は言ったが、お金を使っている相手のマリリンもスケルトンである。スケルトンにお金を使っているにもかかわらず、要の笑顔では無くマリリンの笑顔に変わっていっている訳なので、スケルトンも奥が深い。
「あれ? これも貢いでいるって言うのかな……」
要の声はどんどん小さくなって、独り言のように机と会話をし始めた。要のお金を毟り取っていく相手、マリリンはメイドである。主従関係は逆転しているような気もしないでも無いが、一応要の方が主人である。メイドに会いに行ってお金が減っていくという状態は執事に貢ぐのと一緒のような気もする。
「ゲームに課金しすぎちゃったんです!」
言い訳のように火豪に宣言する。どっちにしてもダメな理由の気もするが。今回の金欠はマリリンにというよりも事件解決に使ったのだ。乙女肉を買ったのでお金が無いのだ。誤解して欲しくないが肉塊では無く肉衣の方の乙女肉だ。正義の味方をやるにもお金がかかるのが現実だ。
「バイトするしかないかなぁ」
「じゃぁ俺の所でバイトします?」
「えっ?」
「ライブ見に来て欲しかったんすよ」
火豪は嬉しそうに少し口元が緩んでいる。イカツイ見た目の男子にしては珍しい姿である。
「良いんですか?」
「手伝ってくれると嬉しいっす。チケットの回収終わったらライブも見れるんで」
「お願いします!」
火豪の服にプリントされたスケルトンも嬉しそうに笑っている。
ライブ当日。ライブハウスには沢山の人が集まっていた。初めての場所に最初はドキドキだったが、お客さんの笑顔につられて緊張もほぐれてくる。好きなものに触れている人々の顔は格別である。要がライブグッズを売っていると、可愛らしい女子に声をかけられた。
「要先輩! 茂先輩のお手伝いですか?」
そこに居たのはユキノであった。性別を訂正しておこう、可愛らしい見た目とスカート姿であるが女子では無い。男子の方だ。GGLのゲーム内では「ユキノジョウ」というキャラで、赤色53号のギルド「カラーリングヒストリー」に所属している男子だ。
「ユキノさんじゃないですか! 来てたんですね」
スケルトン好きを語れる良き理解者との再会に、疲れも吹き飛ぶ。
「あの、ところで先輩って何でしょう?」
要は首を傾げた。
「僕、自分のアンデッドブランドを持ちたいんです。だから、要さんも茂さんも先輩です!」
「おおおー! どんなブランドにするの?」
「僕はみんなが着れるアンデッドファッションを目指してます! ブランド名もう決めているんですよ! 『Task Kill』です!」
「本名から取っているんですね」
ユキノの本名は雪乃丞である。「たすく」からの「タスクキル」である。タスクが殺されそうだが大丈夫なのであろうかと心配になるが、アンデッドだから死んでからが本番か。
「はい! 楽しみにしていてくださいね、絶対に有名になってみせますから!」
そう言ってユキノは手を振って会場へと入って行った。
「自分のブランドかぁ」
将来のライバルの登場に嬉しさが抑えきれなくなって、顔がにやけてしまう。世界にスケルトンが溢れたら良いと思う。世界中がスケルトンだったら最高だ! 会場から歓声が聞こえて来た。そして演奏が始まり、ステージの上のスケルトンも雄叫びを上げた。
アルバイトを終えた要は盛り上がる会場に足を踏み入れた。ステージで歌う火豪は別人のようである。同じ人間というのが嘘みたいに輝いていた。火豪さんもユキノさんもやりたい事に向かって頑張っている。私はスケルトンになる願いも叶ってしまったから、今は目標が何も無いな。ゲームをやっていると、自分の不甲斐無さが分からなくなる事がある。凄い職業の人や有名な人と普通に話せたりするからだ。現実世界の自分なんかが話しかけても言葉を返して貰えない相手が、自分と同じ目線でいてくれる。ゲームのそんな所がとても好きだ。そして、ゲームは痛みが調整されているのが最高に良いと思います。
「痛いっ痛い、お願いっ押さないでー!」
要は人の流れに飲み込まれてステージへと近づいて最前列まで行ったかと思うと、今度は横に流されステージからどんどんと離れて行った。会場中を洗濯機に放り込まれた服のようにグルグルと彷徨う。
「動けないっ!!! 助けてー!」
現実でも耐久性や俊敏性にポイントを振り分けたい! そんな事を願う要であった。
しばらくお休みをいただいておりました。期間が開いてしまいすみません。少しずつ続きを書いていけたらと思っております。予定していた5章の残りのお話を後ろにまわして、次回から6章を始める予定です。
「第6章 田中要はスケルトン救世主になって恋をする事にした。」はメモリーリトライバルという以前書いたお話の主人公をカナメンに書き換える形で作ってみています。全体的な手直しが思っていたより必要で時間がかかっておりますが頑張って書いている所です。頑張るぞー!




