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恋骨!~恋するスケルトン~田中要はVRMMOゲームでスケルトンになって恋をする事にした。  作者: 熊谷わらお
第1章 スケルトンは恋の夢を見るのか? 1話~25話【完結】
7/83

7.田中要は感心をする事にした。

一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ

「あーダメだ。これは私の完敗(かんぱい)だわ」

 (おおかみ)の女の子「ヒヨコ」は言った。スケルトンに向かって。


 その言葉を受けて、スケルトン男子「カナメン」を操る女子「田中(たなか)(かなめ)」は首を(ひね)った。

「どうしたんですか?」


 ヒヨコと呼ばれた、狼女子を操る女子「小田(おだ)珠子(たまこ)」は(あき)れた顔をした。

「意地悪されてるの分かってるよね?」


 キャラクターになり切って仮想空間で遊べるゲーム、VRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)の中。スケルトンと狼娘は一緒に遊んでいた。遊んでいたというか、一方的に遊ばれていたというべきか。

 ヒヨコはモンスターを倒して出たアイテムで、珍しい物があると「欲しい」そう言って全部、独り占めしていた。それに対して全く不満を持たないカナメンに対し、とうとう完敗の白旗を上げたのだ。


「何で全部(ゆず)(わけ)?」

 その言葉にもカナメンは首を捻る。

「自分は欲しく無いので……」


「自分の居場所を確保しないと奪われるよ? 私やアンタみたいな(わく)から外れている人間はさ、押されたら押し返さなきゃ居場所から押し出されるんだよ。何で趣味に貪欲なのに他人に対して貪欲じゃないのさ」

 苛立(いらだ)った口調でヒヨコは言った。


 スケルトンのキャラクターを選ぶ人間はほぼ居ない。(かなめ)はスケルトンが大好きで、自ら選んで楽しんでいる。スケルトンを飾るためにこのゲームを遊び、不利な種族でもへこたれない。たしかに貪欲以外のナニモノでも無かった。しかし、他人に対しては少し奥手な所がある。


「自分はいつも迷惑をかけてしまうので……せめてアイテムで喜んでもらえれば良いと思って」

「背中に乗りな」

 カナメンの言葉を聞いたヒヨコは、獣に変身した。獣人という種族は、人化(じんか)獣化(じゅうか)を切り替える事が出来る。さっきまでは、女の子に狼の耳と尻尾(しっぽ)が付いた状態であったが、狼そのものの姿に変わった。

 カナメンは恐る恐る狼のヒヨコの背に正座して座ると、(ひざ)を抱えるような姿勢になりながら、腹に手を回して抱き付いた。その様子を確認すると、狼は小さく鳴いて走り出した。


 狼は草原を走る。風となって山を越える。こんなにも高速で移動できるのは、移動に特化した動物を選んだ獣人だけだ。ヒヨコ、そして、背に乗る事を許した人間だけが知り得る世界。いつもと同じ世界なのに、今のカナメンには別世界のように素敵だった。


 綺麗な海が見える崖の上でヒヨコは止まり、獣化を解いた。

「ここ。普通の人じゃ来れない場所。私のお気に入りなんだ」

 そう言ってヒヨコは尻尾をカナメンに向けた。

「ほら。触って良いよ。アンタ狩りの最中ずっと、しっぽ見てんだもん。おかしくって」

 静かに笑った。


 カナメンは嬉しそうにヒヨコのしっぽに触る。ふかふかしてとても気持ちが良い。その様子を見ながらヒヨコは言った。

「私は桜子もアンタも嫌いだ。だけど、私らは同じだ。個性があるのに強くない。ミズキや七味君みたいに上手く立ち回れない。そういう奴はいつか弾き出される」


 ヒヨコが言ったミズキとは、「赤色53号」という名前で「カラーリングヒストリー」のギルドリーダーを(つと)める、少年のキャラクターを操る男子だ。そして、「七味」とはカナメンと仲が良い、美少女キャラクターを操る男子だ。2人とも他人にとても良く好かれている。ヒヨコもカナメンも、勿論2人の事が大好きだった。


 そして、「桜子(さくらこ)」というのは、このゲームを遊ぶ多くの人間に愛されていた人だ。ヒヨコは桜子が嫌いだった。桜子は自分とは違い、皆に愛されていた。だけどそれが理由ではない。桜子は自分に似て、弱いのを知っていた。だから嫌いだった。弱いくせに無理をするから(つぶ)れる。他人を利用する事も出来ず、拒否する事も出来ず、(みずか)らが死んでいく弱い人間。ヒヨコは桜子のそれを知っていたからイライラした。沢山の人に愛されて、自分自身を失って、そして(つい)にはゲームを辞めた。


「自分に自信が無くて……」

 膝を抱きかかえて座りながら、カナメンは言った。


「他人を利用しろって言ってるんじゃないからね。アンタは、アンタを受け入れてくれる人を持っている。その人が受け入れてくれる時には甘えな。難しいのもわかる。自分だって、いつも躊躇(ちゅうちょ)するから。でもそれはね、自分で獲得したものだから、大丈夫」

 ヒヨコはそう言って手を出した。カナメンはその手をそっと握った。


「あんたが望めば、今まで知らなかったものだって知る事ができる。望まなければ、こんな綺麗な景色だって、知らないまま終わっちゃうんだぞ」


 ヒヨコの背に乗って村を目指す。この人の背は温かい。温かいな。


 友達の七味が村の近くで手を振っていた。美少女は今日も笑顔だ。

「七味君!」

 ヒヨコは獣化を解くと、背中のカナメンを振り落として七味に飛びついた。七味の手を取ると、巨乳に作り上げた自分の胸を揉ませる。

「ヒヨコさん止めてください!!!」

 七味は悲鳴をあげた。


 これは受け入れられていると判断して良いのだろうか……。


 獣の女の子と人間の美少女は、押し倒され転がりながら、複雑に交差して(から)まっている。

 美少女の胸をもむのではなく、()えて自分のを揉ませて反応をみるあたり、ヒヨコさんは上級者だなぁ。感心しながら、遠くから温かく見守るカナメンであった。


 感想ありがとうございます! あまりの嬉しさに1話追加いたしました! タキシードとシルクハットのカナメンは、カッコ良く決めるのに苦戦中ですのでもうしばらくお待ちいただけると幸いです。


 長編ラブストーリー「GGG(ジェネシス ガーディアンズ ゲーム)――終末世界で謎の生命体を狩っていてもラブコメは成立するだろうか」は2章を開始いたしました。よろしければ読んでみてください。

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