63.田中要は食事をする事にした。
「パスタが美味しいお店があるんです」
嬉しそうな皆川七見の隣には、緊張の面持ちで歩く田中要。事件解決のお礼をという事で、マリリンの強い要望により食事会が設定されたのだ。
新調したスーツに気合が垣間見える七見。それに対してパーカー姿の要。別に気合が無い訳では無く、無いのはお金と色気。食い気は大丈夫、しっかりとお腹ペコペコである。
「ここは女子に大人気で、注目のお店なんですよ!」
七見に案内されてやって来た場所は、見た事があるお店の前。
「天体観測ゲームがあるんですよ!」
目の前には、以前ルシフェルに連れて来てもらったネットカフェがあった。
知っています。来た事あります。なんて事をワクワク顔でホクホク顔の七見に言える訳も無く……。
「すっ、すごぉーい」
ちょっと演技しちゃう要。キラキラの期待の眼差しは裏切れない。でも、やはり無理があった。思いっきり顔が引きつってしまっている。
「ご飯食べたらゲームしましょうねー!」
要の演技に気付く様子も無い七見。
ネットカフェ内にはお洒落なカフェスペースがあった。食事だけの利用も出来るようになっている。
「カフェラテに絵を描いて貰えるみたいです! カナメンさんは何が良いですか?」
メニューを見ながら目を輝かせ、どちらかというと七見の方がテンションが上がっている。可愛らしい物が好きな所があるかと思うと、服装などあまり気にしない所もあって、七見のこだわり箇所はいまいち掴み所が難しい。
カフェラテのメニューには可愛らしい絵柄が並んでいた。動物からお花まで色々選べるらしい。もちろん骨は無い。むしろホラー喫茶に行かなければ無いだろう。しかも要が好きなのは、髑髏では無くてスケルトンなのだ。全身描くのは大変だよね……。スケルトン以外は特に好きなものは無いので困ってしまう。
「僕はウサギにしますっ!」
この可愛い男子に、とっても似合っている。
「か、カエルでお願いします」
この不愛想女子に、とっても似合っている。
パスタを食べた後はお待ちかねのカフェラテタイムがやって来た。ふわりと香るコーヒーの香りに心が癒される。小さなカップに注がれたコーヒーの上にはモコモコの泡。泡の白色にコーヒーの茶色で描かれた絵は食べられる芸術。職人技である。
ウサギの絵柄が崩れないように避けながら、一生懸命にカフェラテを飲む男子と、カエルを問答無用で飲み込む女子。カエルの絵柄は苦悶の表情で喉に押し込まれていった。マリリンを思い出して途中で吹き出しそうになったのは内緒。
食事の後はゲームスペースの部屋に移動する。もちろん二人とも素早くヘッドマウントディスプレイの設定を済ます。こういう所でつい普段が出ちゃうよね!
「先にログインしますね」
七見はそう言って椅子にもたれかかった。
その様子を見ていると何だか不思議な気分になる。
ゲームの中では分からない事が現実ではある。七見が七味で、ルシフェルが超高神聖ルシファライトであるように、田中要はカナメンだ。
こうやって現実世界と仮想世界を行き来するように人と過ごすと、キャラクターの中身が人間であるのが現実味を増す。理解できていても実感出来ていなかった事に驚く。
体って何だろう? 心の入れ物。だけれども、体も自分のひとつなんだよな。
体もヘッドマウントディスプレイみたいに世界を渡るためのツール。体を使って現実世界に降り立てる。
体を手放すから仮想の世界のAI達と出会えて、体を手放さないから現実の人達と出会える。そんな当たり前な事に少し感動してしまう。
じゃぁ次は何を手に入れたら、もっと新しい世界に行けるのかな?
ゲームに接続すると、要の目の前には女の子が居た。満点の星空の下。向かい会う2人の女の子。
「すみません! すぐログインし直します!」
慌てる七見。
「私がいつもは男子ですもんねっ」
要は笑いをこらえながら言った。
「大丈夫ですよ、今日は女子会にしましょう!」
「はいっ! 何かこういうのも良いですね」
世界は変わる。ほんの少し見え方が変えるだけで変わる。それを受け入れたら、世界は新しい。
新しい世界はいつも手の中だ。だから少し持ち上げてみよう。普段見ない角度を目に映したら、きっと知らなかった世界が見えてくる。光の当たり方でだって世界は変わる。
傾けた世界は与えられた光を反射して変則的に輝くから。
七見のデートプランはいかがだったでしょうか。ネットカフェはそれぞれのお店で雰囲気が違っていて面白いですよね! 夕方から朝までのコースが秘密基地に潜むみたいでワクワクします。子供が夜更かしする感覚に近いのかもです。




