60.田中要は飼主をする事にした。
一話完結短編シリーズ 恋する着せ替えスケルトン
皆川七見の朝は早い。
腹の上の重みに目を覚ました七見は目を開けた。が、顔に付けたヘッドマウントディスプレイが邪魔で何も見えない。またゲーム中に寝落ちしたらしい。
ヘッドマウントディスプレイを外し、寝ぼけ眼で体を起こす。ベッドの上でしばし呆然と虚空を見つめるが、体はどうにも言う事を聞いてくれない。このまま目を瞑ったら眠ってしまいそうだ。
「ニャー、ニャー」
膝の上が鳴いた。膝には2匹の猫が乗っている。1匹は白色に黒色の模様が入ったハチワレのソックス。もう1匹は白色に茶色の模様が入ったブチの猫だ。ゴロゴロと喉を鳴らしながら擦り寄ったり、ゴロゴロと転がったりのモフモフのフカフカである。
「マリ、モリ、ありがと」
七見は猫型ロボットを撫でた。これはインダストリアルペット「キャリコ」リアルな猫の姿をしたオモチャである。本物そっくりの見た目と手触りだが生きてはいない。七見が勤める会社「クロムガーデン トイズカンパニー」が作っている主力商品である。
ちなみに名前は、七見が子供の頃に飼っていた「マリモ」が由来である。緑色のまあるい、水中植物のあれである。どんな子供だったかは……察していただきたい。
クロムガーデンは機械玩具を作っている会社だ。オモチャと言うにはかなり巧妙な作りであるキャリコは独自開発の制御知能を搭載している。人工知能AIでは無いので進化や増殖をしたりはしないが、育て方により個性を持つ。
黒猫で人懐っこい性格の「ミルル」茶猫でヤンチャな性格の「ムルル」白猫で気品高い性格の「メルル」の3種類がベースになっていて、ベースを選んだ後に毛の模様などを自分好みに選ぶ。そして、与えるエサで性格が変わるようになっている。
七見はお皿にカラフルな色のエサを入れ、マリとモリの前に置いた。ハートや魚の形をしていて、ピンクや水色で可愛らしい。それを嬉しそうにマリとモリはカリカリと食べ始めた。
このエサは一見、人間でも食べられそうに見えるが、無機質で出来ているので食べる事は出来ない。あくまでオモチャのエサである。このエサの開発が七見の主な仕事の担当となっている。会社ではパソコンの代わりに眼鏡型の機械をかけて、何も無い空間で手を動かす事で三次元プログラム入力をしている。ヘッドマウントディスプレイにも似た機械なので、七見は1日の大半を仮想世界で過ごしているような感じだ。
エサは形と色で区別するようになっていて、食べさせた時に伸びる性格のデータが違うように成分がプログラムされている。工夫しながら毎日育てていく感じは育成ゲームを想像すると分かりやすいかもしれない。
「行って来ます」
身支度を整えた七見はマリとモリに声をかけると外へと出た。今日もスーツ姿が決まっている。
道を歩いていると目の前の路地から猫が顔を覗かせた。この猫もキャリコだ。外にいる猫は落とし物を拾ったり、街の警備をしている。猫のおまわりさんである。七見が近付いて撫でると、頭を擦り付け首輪に付いた鈴を軽やかに鳴らした。
「見回りお疲れ様です」
警備用の性格にするため白い骨型のエサを与えている。のであるが、違うエサを与えている人がいるようで、一日の大半を寝っ転がってサボっている者も多くなってしまっているのは、ご愛敬という所だろう。
「僕も今日一日頑張ろうっと!」
感想ありがとうございましたの感謝の更新です! 前回は要の生活風景だったので、今回は七見の生活風景にしてみました。そう言えば七見のお仕事を書いて無かったなぁと思って考えたのですが、要は創造する人で、七見は工夫して運用する人のイメージだったのでこんな感じに落ち着きました。
他のキャラも考えておこうと想像して、ヒヨコがメイド喫茶かミリタリーショップ店員と出て来てしまい、慌てて雑貨ショップ店員ぐらいに落ちつけようと却下しました。したのですが……むしろミリタリーメイド喫茶が面白そう過ぎて妄想が止まらなくなるドツボに。そんなメイド喫茶があったらメイドさんと撮る写真は、スリーパーホールドチェキとか銃殺チェキとかだよね……行きてぇ!!!




