57.田中要は返品をする事にした。
一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ
田中要は首を傾げた。というか、カナメンというスケルトン男子は首を傾げた。
マリリンが棚の上の物をホウキの柄で引っかけて取るようになったのだ。脚立に上るのが面倒らしい。いったい何処で覚えたのだろう。
マリリンはNPCである。倉庫の管理をするために配属されたスケルトンメイドである。プログラムされた行動をするはずで、創意工夫だとか、ずぼらだとかの機能は無いはずなのだが……細部にまで拘ってプログラムを作ってあるのだろうか?
覚えたといえばLAMBDAさんから借りた本をこっそりと読んでいるふしがある。たまに何かになりきっている時があるのだ。この前はオーク戦士のように荒ぶっていた。
「マリリン、本が欲しい?」
頷くスケルトン。
「ラムダさんに借りて来たら、倉庫に入れておくね」
ジェスチャーで喜びを表すスケルトン。
喜ぶスケルトンを背に、倉庫から出たスケルトン。
ここはVRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)というゲームの中だ。ゲームの中なので、田中要はスケルトンの中である。
「他の倉庫のメイドもこんな感じなのかな?」
他の人の倉庫に遊びに行った時は、どの倉庫ガイドも真面目に働いていたように見えたが、当たりハズレとかランダム要素までもが実装されているのだろうか。倉庫にはガチャ要素は求めていない。つまりは困っている訳です。
オーク村。村長の部屋のドアをノックした。
「いらっしゃい! ほねっこ」
ラムダが笑顔で迎えてくれた。
「本、ありがとうございました」
借りていた本を差し出す。
「今日のオススメはこれだぞ」
そう言ってラムダは新しい本を貸してくれた。
カナメンとラムダはこうやって時々オーク村を訪れる事で交流を続けている。最初はプレイヤーの全く居なかった村だったが、最近は村を気に入ってくれた人が定期的に訪れているらしい。プレイヤーが主体となってイベントなども開催されるようになってきた。その様子をこっそりと覗いて、ラムダは涙を流して喜んでる。
強いオーク村長のイメージが本の中では語られているが、人懐っこいオークの方が好きだな。と、カナメンは密かに思っていたりするのだが、もう少しだけ威厳を出せるように頑張るとラムダは言っていた。
カナメンが毎日通う、島流しドリームスケルトンランド。通称「監獄」はオーク村から遠くなってしまったが、散歩しながら時々向かうオーク村も、すれ違う人の笑顔が見れてお気に入りのコースだ。またラムダが泣いてしまうかもしれないから、その事を教えるのはもう少し後でにしようと思っている。
「ただいまー! 本借りて来たよ!」
街に着いて倉庫のドアを開けた。マリリンのカチューシャが曲がっている。また寝ていたようだ。
注意をするべきなのかな……。だがしかし、後輩に注意する時のような緊張感がある。上手く言わないと辞められてしまうかもしれないからだ。倉庫には新人教育要素は求めていない。とても困っている訳です。
満足気な顔なのかどうかは微妙に表情が読めないが、マリリンは本を受け取ると上に持ち上げ、くるっと回ってその場で横に一回転してみせた。ふわふわとスカートの裾が広がる。今度は何を読んだのやら?
そして……今日も二人のスケルトンは、倉庫の床に這いつくばってアイテムを探すのであった。
「マリリン何処にやったのー?」
その言葉にマリリンは大きく首を振った。そして、カナメンを指差す。そして、カナメンの足元を指差す。カナメンの尻の下には探していたアイテムがあった。
マリリンは腕組みをして後ろを向いた。拗ねてしまったらしい。
「ごめんね、マリリン」
カナメンの言葉に振り返ったかと思うと、おもむろにカタログを取り出し、ページをめくって指差す。そこには立派な椅子の写真が載っていた。
「課金のやつじゃん!」
それは課金アイテムのリストが載っているカタログであった。見てたのこれだったのか……。
「それは高いから、こっちのにしよう?」
せめてもの抵抗で安い椅子の方で妥協してくれるように交渉する。が、マリリンは装飾が煌びやかに付いたゴージャス椅子を指先で叩いて抗議する。
くるっと回って、ふわっとさせて、膝を少し曲げて乙女を演出するマリリン。つまりは、お姫様椅子が欲しいという事のようだ。カタログを両手で持ってカナメンの目の前に突き出した。どうしても欲しいらしい。
「今月もキャベツかなぁ」
しょんぼりと肩を落とすカナメン。
キャベツ二カ月続けてだときついなと思いつつ、やっと入ったお給料で倉庫人数の拡張をするカナメン。みんなは初日に拡張したというのに、カナメンは1ヶ月遅れでようやくの拡張である。椅子を買ってしまったので、来月は白菜にして凌ぐのである。
早速、ミムロを倉庫に招待した。
「師匠! どうぞお入りください!」
元気いっぱいに言ったカナメンの要望を拒否する非情なエラー音。
『定員オーバーです。人数の拡張をしてください』
「あれ? ちょっと待ってくださいね」
確認をするカナメン。入れる人数はちゃんと「2人」になっている。自分と師匠で2人のはず。
『定員オーバーです。人数の拡張をしてください』
「えーっと、ちょっと待っててくださいね」
まさかとは思うけれど……マリリンの手を引いて外に出してみる。そして、ミムロの手を引いて倉庫の中に入れた。エラー音が出ず閉まる扉。倉庫の中にはカナメンとミムロ。どういう事!!!
急いで扉を開けると、マリリンは既にスキップしながら歩き出していた。
「マリリン待ちなさい!!!」
暴れるマリリンを持ち上げて倉庫にぶち込む。シンデレラさながらに、床に跪いて悲劇のヒロインの真似をするマリリン。カナメンが舞踏会に行かせない意地悪な継母状態である。
マリリンを閉じ込め倉庫の外に出るカナメン。
「私の倉庫バグってます!」
「一応言っておくが……お前のメイド、中身入ってるぞ」
「中身、やっぱり入ってます?」
「おそらくAIだな」
「どうしましょうー。師匠」
「何処の所属かは知らんが、あんまり良い趣味じゃぁないよな。GMコールすれば処理はしてくれるんだろうが、自分で話してみた方が良いと思うぞ。それでダメなら俺が何とかするから言って来い」
ミムロに背中を押され、倉庫に入るカナメン。そこには、豪華な椅子に座る逆襲の下剋上シンデレラが待っていた。カナメンは正座させられて床に座らされる。
「あの……どちら様ですか?」
恐る恐る話しかけるカナメンに、腕組みしながらご立腹の様子で答えないマリリン。ご主人様の定義は何処に行ったのやら。
「出て行ってもらえますか?」
カナメンの言葉に首を振るマリリン。途方にくれたカナメンの目に、見覚えの無いアイテムが映った。それは「カエル」そう、あのカエル。ゲロゲーロのカエルである。
立ち上がったカナメンは、マリリンの横の棚にあるカエルを持ち上げた。それを急いで奪い返すマリリン。
「返してくださいっ!」
カエルがしゃべった。マリリンでは無くカエルが……。そのカエルは灰色に煤けている。この色何処かで見たな……。って!
「バグズモンスター!?」
バグズモンスターとは一時期大量発生した正体不明のゲーム内エラー要素である。見た目は通常のモンスターと近いが、色が違っているため見分けるのは容易い。攻撃力などは通常のモンスターと同じであるが、プレイヤーが感じる痛みの体感数値が高く、倒してもドロップが何も無い、迷惑モンスターである。
「何でバグズモンスターがこんな所に……骨子さんが倒したはずなのに……まさか、骨子さんなの?」
マリリンは人差し指を立てると、チッチッチッチッと舌を鳴らし指を左右に振った。こいつは絶対に骨子では無い。それはそれで面白そうではあるが、今回は無しでお願いする。
「じゃぁ、誰なの……」
「マリリンだよ?」
カエルは答えた。そして、マリリンはカエルを棚に戻した。あくまで中身はバグズモンスターでは無いとするつもりなのだろうか。
「何も解決してないんだけど!!!」
マリリンは椅子に座ると、両手の平を上に向け、さぁ? という風なジェスチャーをして返した。カナメンはカエルを掴み、マリリンの頭の上に乗せる。
「マリリンだって言ってるじゃないですかー」
カエルは不満げに言った。どうやらカエルに触っていると喋れるようになるらしい。腹話術かよ!
ここから取っ組み合いの喧嘩が始まる訳です。マリリンはカエルを棚に置き、カナメンはカエルを取り出しマリリンの頭に置き、マリリンは自分の頭からカエルをカナメンの頭に乗せようとした所を、両腕をカナメンに掴まれて阻止された!
『もぅー止めてくださいねー』
心の声が聞こえた。接していると会話ができるらしい。という事は?
『手でもいけるんじゃない?』
カナメンは人差し指を出す。マリリンも人差し指を出す。指先が触れた。
『ボクハ……マリリン……』
『指先で会話は何かダメ! 何かに抵触しそうな気がする!』
マリリンがカナメンの肩に手をかける。
『その時はその時だよ』
『肩で語り掛けるな! バグズスケルトンってどうやって飼ったら良いの? どうしよう』
涙目になるカナメン。
『仕方が無いなぁ。私に長靴と布袋をくださいな』
『やめなさいマリリン!!!』
長靴をはいたスケルトンは、いったい誰の倉庫のメイドを食べるつもりなんだ……。
『カナメン侯爵やってよー』
『やりません!』
こうして何も解決しなかった。
膝を抱えて落ち込むスケルトンの隣に座るのは獣娘。
「バグズスケルトンの飼い方? 知らないな……ゾンビなら三枚におろせるけど」
ミムロがさらっと問題発言をした。
「どうしましょう。口が達者で勝てないんですよ」
カナメンの悩みは尽きない。
「AIについて知り合いに聞いてみたんだが、野良AIとか、ほぼあり得ないらしいぞ。本人が記憶喪失なのか、本当に新規の系統なのかもしれないな」
ミムロの言葉にカナメンは更に肩を落とした。拾った手前、自分が飼う事になるのだろうか。
マリリンはバグズモンスター、つまりはゲームに不法侵入した者という事になる。ゲームマスターに通報したならば、不良AIとしてパンドラと呼ばれる全てのAIの歴史が保存されている箱に格納され、議会の承認が下りるまで眠る事になる可能性があるらしいのだ。
優秀なAIであった骨子が復活出来ないでいるのに、マリリンが復活出来るとは到底思えない。通報したならマリリンはパンドラへ格納されて、処分されてしまう。
「勝手に入って来たなら、勝手に出しても良さそうだけどな」
ミムロが悩んだ様子で言った。
「バレませんかね?」
「その時はその時だよ」
ミムロの言葉、どこかで聞いたセリフである。
「最悪なのは俺達がゲームを禁止されてしまう事だから、足が付かないようにはするよ」
そう言ってミムロは立ち上がった。
3日後、山奥にカナメン、ミムロ、そしてカエルが人目を避けて集まっていた。
「マリリン、俺がログアウトする時のデータの流れに乗って外部に出ろ。ヘッドマウントディスプレイに外部記憶装置を繋いでおいたから、そこに一旦入ってくれ。その後は、議会に申請を出す。上手くいけば新規AIとして登録されて、色々な恩恵が受けられるようになるから。それで良いか?」
カエルは頷いた。
「じゃぁ、転送用のキャラを持ってくるから、しばらく待っていてくれ」
そう言ってミムロはログアウトした。そして、しばらくの後、そこに見慣れない獣人のキャラクターが現れた。
「待たせたな」
別アカウントで作った、ミムロのキャラクターであった。
「マリリン、色々あったけど、今までありがとう。元気でね」
「ゲコッ」
「マリリン行くぞ」
そう言ってミムロは獣化した。ヘビに。
逃げるマリリン。負うミムロ。カナメンにしがみ付くカエル。カエルをつまむスケルトン。口を開けるヘビ。足を突っ張って抵抗するカエル。ヘビの口にカエルを押し込むスケルトン。修羅場。そして、ヘビは体を渦巻きにすると、少し頭を持ち上げて挨拶をして光になりログアウトした。
マリリンはミムロの腹の中で思い出していた。自分が生まれた時の事。土の中から出て来た時の事を。眩い光と同時に、青空が見えた。そこには誰も居なかった。と、思ったら居た。スケルトンが。
スケルトンの後をつけた。スケルトンを遠くから見つめた。スケルトンの倉庫に入った。そして、名前が付いた。私はマリリンになった。私はマリリンだ! 私は必要とされている! 沢山の知識を得た! 豪華な椅子を得た! カナメンは変な奴だけど、私は楽しかった。スケルトンを追いかけて良かった。さようなら……カナメン。さようなら。
ミムロに食べられたマリリンは無事、外部記憶装置に収められ、新規AIとしての登録も上手く行った。ミムロが言うには、AIというのは著しい葛藤が起こった時に分岐増殖が起こるらしい。マリリンは葛藤するようなタイプでも無いし、数の少ない系統は協力が得られず絶滅しやすいのだという。データ世界で淘汰されてしまう。マリリンが生き残れるかどうかは、マリリン自身の頑張り次第って事なのだそうだ。
こうして何もかもが解決した。
「マリリン」
「はい。ご主人様」
スケルトンメイドは穏やかに返事をした。仕事もきちんとこなす、優秀な倉庫ガイドになった。
だけど……心にぽっかりと穴が開いたみたいだよ。メイドがちゃんと仕事をするようになったのに。寂しいよ。マリリン。
「マリリン」
「はい。ご主人様」
次回、マリリンを交換するためにカナメンが動く! そして、恋骨史上最強の敵との戦いが起こる。勝つのはカナメンか、それとも……。
「58.田中要は交換をする事にした。」次話で第4章が終わります。第5章も準備中。お楽しみに!
GGGの方に「VRMMORPG GGS」のちょい見せを載せました。要ちゃんのご先祖様「田中尋」くんのお話です。悪い子の方の田中「タナジン」が仮想世界で暴れます!




