56.田中要は探索をする事にした。
一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ
「パーティー組むぞ」
ミムロの声が石の壁に響く。
ここはVRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)内、ラウズゼア城の地下。鉱石を採りに行きたいというミムロの要望で、カナメン、七味、ミムロの3人でダンジョン探索に来たのだ。
「設定どうする?」
獣人女子キャラのミムロが首を傾げた。ライオンの尻尾がクネクネと悩んでいる様子を体現している。
二人なら相談で何とでもなるが、三人以上で探索をする場合はパーティーを組む時に設定をしておくと後で揉めにくいのだ。
GGLは個人の経験から成長をするゲームなので経験値配分というものは無い。何かを倒したから均等に成長するという訳では無いのだ。何かを倒した時に、その人がどう動いたかで成長するからだ。
そのため、主にドロップアイテムの配分を設定する事になる。
「一般的にはパーティーポケットの均等配分と端数ランダムが多いですね」
人間女子キャラの七味が言った。
パーティーポケットとはパーティーを組んだ時に出現する倉庫のような物で、これを利用するとモンスターを倒した時に取得したアイテムが一旦格納されるのだ。均等配分の場合パーティー解散時にポケット内のアイテムは個人のフィールド倉庫に配分される。
「んじゃ、それにしとくわ。変更したい時は言えよ」
三人の目の前にあるのはプライベートダンジョン「可変洞窟」の入り口。その名の通り、入る度に形が変わる狩場である。入場時に一緒にいた人達だけが一定時間占有出来るものだ。
王都「ラウズゼア」には多数のワープポイントがある。その一つが地下に設けられたダンジョンへの入り口である。
「お前、杖じゃないんだな」
ミムロは七味の装備を見ながら不思議そうに言った。
「杖が一般的ですが、僕は指輪にしているんです」
そう言って七味は指にはめた指輪をミムロに見せた。
「物理武器は鎌を使っているので、魔法武器は指輪の方が扱いやすいんです」
七味の手の中に真っ黒な鎌が出現する。七味がデスナイト化した時に使う物だ。正確にはその目的で持っている訳では無いのだが、この鎌が一番活躍するのがその時なので困ってしまう。
「スケルトンフラッシュをセットしますね」
スケルトン男子カナメンが三連ランタンを三つ取り出した。ランタンの中にスケルトンフラッシュを入れていく。
三連ランタンとはスケルトンフラッシュをセットして使う灯りで、3個まで入れる事が出来るアイテムだ。一番下を照射開始させた時の設定が引き継がれて、次のスケルトンフラッシュが自動で発動するようになっている便利な物となっている。
スケルトンフラッシュは上下左右前後2メートルを照らす事ができる、ダンジョンなど視界の悪い場所では必須のアイテムだ。範囲内に他のスケルトンフラッシュがあると共鳴の相乗効果で更に広い範囲を照らし出す事が可能だ。
店で売っているスケルトンフラッシュは20分で切れてしまうが、スケルトン種族のスキルで作る物はもっと長い時間の照射が可能となっている。カナメンは現在1時間のスケルトンフラッシュを作る事が可能だ。スキルで作った物は時間毎に点滅させたりも出来るようになっている。時間を忘れがちな探索において、スケルトンフラッシュは時計やタイマーの代わりにも使えて便利なのだ。
いつもは投げつけたり口に突っ込んだりして使っているが、本来の使い方はこっちである。
配った三連ランタンをそれぞれの腰に下げると、3人をつなげた中心点から上下左右前後8メートルが球状に照らし出された。
「入るぞー」
ミムロが扉を開けると、扉の向こうは真っ暗な空間が広がっていた。
「ダンジョンって何だと思う? 俺は腹の中だと思う。口から入るってのもそうだが、心理的な腹という意味も含めてな。パーティーを組んだ人間の腹の中も見れる」
ミムロはそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。
ゆっくりと扉が閉まる。ここからが探索の始まりだ。
静かな空間は心なしか圧迫感を感じる。少しジメっとした空気。時折微かに聞こえてくる何者かの鳴き声。灯りに照らされて十分に視界は取れているが、どこまで続いているか分からない天井や道の先からは何が出て来てもおかしくない。
逃げ場の無い未知は「ただ前へ進め」と促す。それがどうにも歓迎と感じられない。さぁ遊ぼうと誘う悪魔のように、いやらしい笑みを向けながら一方的な遊びを堪能しようとしているようだ。
ミムロは太ももに固定しているフィールド倉庫に手を突っ込んだ。そこから取り出したのは。真っ黒なモフモフ。
「ブラックモフリンじゃないですか!!! イベントNPCですよね?」
七味が目を丸くした。
それもそのはず、イベント期間が終わったら消えるはずのノンプレイヤーキャラが目の前にというか、倉庫から出て来たのである。
ブラックモフリンは真っ黒な毛並。目の上の内側に白色の丸い模様。長丸な体にちょこんと付いている手足と肉球、長い垂れ耳を持つモコモコ生物だ。つまりは、マフランやヒートモフにそっくりな色違いモフモフ生物である。
「俺の助手、ニック」
ニックと呼ばれたモフリンは「ニャンッ」と短く鳴いた。
「不滅の石を付けているから消えないんだよ」
ミムロはそう言ってニックを持ち上げた。30センチぐらいの毛玉はミムロの腕の中で大人しく脱力している。
ニックの耳の根元にはイヤーカフ、耳の先に宝石の付いたイヤリングが左右それぞれに合計4個付いている。
「右耳の先にあるのが不滅の石で作ったイヤリング」
そう言って七味とカナメンに見せた。
「不滅の石って……ボスレイドでしか手に入らないですよね……というか、破損したくないアイテムに付与する物ですよ?」
七味は訳が分からないという様子だ。
「ブラックモフリンをティムするイベントあっただろ。倉庫内にある時はアイテム扱いだったんで不滅の石を付けておいたんだよ。石は第一回ボス討伐のオークションで落としたやつだから、かなり安かったよ。こいつ、アイテムとキャラの特性を両方持ってるから装備も付けられるんだぜ」
ミムロが言う通り、ニックの首にはバンダナまで巻いてある。黒地に白色の星がちりばめられたバンダナだ。
「便利なんでもう1匹欲しいんだが、AIの制御下に無いNPCでアイテム扱いじゃないとダメだから今は手に入れるの難しいかもな」
ミムロはニックを地面に降ろした。
「初めて見ましたよ! 初期のイベントのなんですね。可愛いなぁ」
すかさずカナメンがニックを撫でる。可愛がりながらも毛並のチェックは忘れないのである。所々毛先が跳ねているので、やっぱりマフやモフとはちょっと違うのである。
「ニック。サイレントムーブと疾風。それにマップリンク発動でダンジョン内を一周よろしく」
そう言うとミムロはニックの頭を撫でた。
「ニャンッ」とニックは鳴くと、暗闇の先を見た。そして、ミムロの方を振り返り、もう一度「ニャンッ」と鳴いて走り出した。
「何で! いや! 有りなの!?」
七味パニックである。
「スキルか? オプション付き装備なんだよ」
ミムロは面倒そうに答えた。
「あれだけの希少オプションがいくらかかるか分かってるんですか!? いや! それもそうなんですが! 走って行きましたよ!!!」
「うるさいな、出来るんだから良いだろ。装備は作ったんだよ。1000回も作れば出来るだろうが」
「1000回……を3回……」
七味涙目である。何年かかる事やらである。
現実に打ちのめされてグスグスと泣く七味をカナメンが慰めていると、トタトタと足音が近づいて来た。ニックのご帰還である。ミムロの前に得意気な顔で到着である。首のバンダナの下にある筒から紙を取り出すと、キラキラとした目で紙を差し出した。
「ありがとな、ニック」
頭を撫でられて嬉しそうなニック。ミムロが受け取った紙には地図が描かれていた。スキル「マップリンク」により、通った場所の配置やモンスターの数が記されていた。
ミムロは地図を服のポケットに入れると、フィールド倉庫から風呂敷の大きな布を取り出し地面に広げた。その上に乗るニック。布の端を結びハンモックのようにすると、ミムロはニックごと持ち上げ斜め掛けバッグのような感じで肩から下げた。そして、倉庫から取り出した体力回復ポーションや骨付き肉をニックに渡す。
「地図が出来たから行くぞ。カナメン先頭、俺が次、七味は後方から支援な」
「了解です」
「モンスター処理は私がやりますね」
一行はダンジョンを進み始めた。
ミムロの背中に回した袋の中で嬉しそうに肉を頬張るニック。とっても邪悪な顔で骨までバリバリと砕いて食べている。カナメンが後ろだったら噛み付かれそうな勢いだ。
「ブラックモフリンにアイテムをあげて太らせるイベントでしたね……懐かしいな」
その様子を見ながら七味が呟いた。
食べ終わったニックが寝返りをうっていると、長い耳が袋からはみ出した。動かなくなったかと思うとクルクルと寝息が聞こえてくる。ミムロの尾と同時にニックの耳も揺れる。その様子が何だか仲良さげで微笑ましい。
「ニック、眠っちゃいましたね」
「仕舞うか」
七味の言葉にミムロは太ももに固定しているポーチの蓋を開けた。ニックはゆっくりと透明になって消えていった。
探検は続く。そして、カナメンが驚きの声を上げた。
「凄い! 綺麗ですよ!」
目の前に澄んだ水を湛える湖が現れた。洞窟内に水が湧いて地底湖が出来ているのだ。その先は行き止まりになっている。
「こういうのは作った奴がどこまで入れ込んでるかによるんだよな」
そう言うと、ミムロは爆弾と紐の付いた槍を取り出した。
ミムロが水中に向けて槍を撃ち込むと壁に突き刺さる。そして、紐を素早く引いて槍を回収すると、水中で爆弾が爆発し壁を粉々に砕いた。入った亀裂から、みるみるうちに水は下へと抜けて湖底であった部分が露わになっていく。
「何しているんですか! 行き止まりなんだから戻るのがルールですよ」
七味が声を荒げた。
「お前、随分あたま固いな」
「いやいや、ゲームですよ? ゲームはルールに沿って遊ぶものじゃないですか」
「壁を壊してはいけないルールって誰が言ったんだ。運営が明言していないし、GGLは生活とか新規スキルを自分で取っていくゲームだろ。枠の中で遊ぶゲームとは違う物だと思うぞ。行動によって取れるスキルが変わるゲームなんだからさぁ」
「怒られたらどうするんですか」
「謝れば?」
「そんなんで許されると思ってるんですか!」
「お前さっきから煩いわ。帰っていいぞ」
ミムロの言葉に涙を浮かべて下を向く七味。
「七味さん、大丈夫ですか」
なだめるカナメン。カナメンに抱き付く七味。
「イチャつくなら帰れ」
「かえりません。カナメンさんを残して行ける訳無いじゃないですかっ」
「変な奴」
ミムロは頭をかいた。
「めんどくせーな。そういや普通のユーザーってこんなだったな。カナメンとだけ話しているから忘れちまうが」
カナメンを見た。
「お前は強いな」
「私はスケルトン好きを隠さないって決めた時から、何か言われるのが普通と思ってますからねぇ」
何とも頼もしい。
「お前は根性直せよ」
ミムロは七味を見た。
「真っ直ぐですよ?」
時々頑固な七味である。
「真っ直ぐすぎて折れやすいって言ってんだけどなぁ。ここから先は一人で行くわ」
ミムロはパーティーを解除した。
「また居なくなるんですか?」
カナメンの声が洞窟内に響く。
「師匠は急にいなくなっちゃうから」
思い出して泣きそうなカナメン。
「何で連れて行ってくれなかったんですか……今度は何処にも行かせませんよ」
「あのなぁ。お前、こいつの世話があるだろが」
頑固なのは七味だけでは無いらしい。
「全部やります! やれない時は相談します! だから、全部やります! あと、居なくなった理由も教えてもらいますからね!!!」
カナメンはそう言いながらパーティーを組み直した。カナメン強し!
拒否せずパーティーに参加するミムロ。
『理由ってもなぁ……俺の事をお前が好きになりそうだったから。なんて言える訳無いわな』
ミムロは腕を組んでカナメンを見た。
『お前には幸せになって欲しいからな』
「よし」
「何です? 師匠」
「何でもない。行くぞ」
ミムロは歩き始めた。
『カナメン、お前がもっと必死に追いかけてきてくれたら……俺だって変わったかもしれない……。違うな。最初に傷つけたのは俺だ。傷つけたのに追って来いなんてのは違うよな』
ミムロは立ち止まると、ジッとカナメンの顔を見た。
『俺だってちょっとは揺らいだのを、知っていて欲しいと思う時だってあるんだよ』
「バーカ」
「バカって言ったぁ」
ミムロの言葉に七味が更に泣く。
「七味にじゃねーよ。カナメンにだよ」
「私ですか?」
きょとんとした顔でカナメンは不思議そうにミムロを見た。
「何でもねーよ」
『ホント人間はめんどくせーな。ゲームでいちいち恋愛してられねーっつの』
ミムロは溜息をついた。
『こんな事になるなら、付き合っとけば良かったか? 分かんねぇ。分かんねぇー。だけど今、お前が楽しそうにしているなら、俺はそれでいいや』
ミムロは笑いながら、また溜息をついた。それは、ちょっとの後悔と、そんな自分を誇らしく思う意味もあったのかもしれない。
お待たせしました。本編更新です! 4章は後2話で終了になります。
次話は「57.田中要は返品をする事にした。」その次は「58.田中要は交換をする事にした。」になっております。カナメンはマリリンの返品交換に成功するのでしょうか。お楽しみに!




