6.田中要は思案をする事にした。
一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ
モフモフとした物体が骨を噛んでいる。
仮想空間で遊べるゲーム、VRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)の中で田中要は、スケルトンのキャラクターで遊んでいる。その要のキャラクター「カナメン」の脚に噛みついているのは、狼のキャラクターだ。
どうやら要は、この狼に嫌われている。正確には狼の女の子に嫌われている。もっと言えば、狼の女の子の中の女子に嫌われているみたいなのです。
「ヒヨコやめなさい」
友人の赤色53号が声をあげた。赤色53号は少年のような見た目のキャラクターだ。
ヒヨコと呼ばれた狼は、「グルグル」と不機嫌そうな鳴き声で不満を表している。
VRゲームGGLでプレイヤーが選んで遊べる種族は「人間」「獣人」「スケルトン」の3種類だ。何でこんなラインナップなのかはゲームを作った人の趣味としか言いようがない。何にしてもロクな趣味では無い事は覆しようが無い。
人間は平均的な特徴を持つ種族で、多くの人がこの種族を選ぶ。その他の種族が戦闘において不利である為であるのが大きい。
次に多いのが獣人。獣人は人間と獣を合わせた見た目をしており、獣化と人化を切り替える事が出来る。獣化中は言葉を発する事が出来ないため、ヒヨコと呼ばれる狼が唸り声をあげているのは自然な事だった。
獣人はベースになる動物を何にするかによって、特徴が違ってくる。ヒヨコの場合は狼がベースとなっているため、移動スピードが速いという特徴があり、背に騎乗する事もできる。熊などの動物を選べば、一撃の攻撃力を上げる事も可能だ。
獣人は人化の状態でも人間より防御力が低いが、獣化中は更に防御力が下がる。変身による特別な力を得るが、防御を捨てる事になるので捨て身の必殺技と言えるだろう。しかし、変身の特徴とタイミングを上手く使う事で、戦場での流れを変えて勝機をもたらす効果がある。自分の身を呈して、仲間に勝利をもたらすという意味では補助職に近い。
要が選んだスケルトンは、一番選ぶ人間が少ない。というか、ほぼ居ない。骨という特徴的な見た目のせいでもあるが、体力回復のペナルティがある上、聖なる攻撃に弱いという弱点があるのだ。じゃぁ、スケルトンの利点は何なのかという事になるが、特別なスキルが使える。のだが……それというのが、光る玉を作れる事と、冥府の門が使えるというものなのだ。どちらも正直、使えないものであった。
光る玉、スケルトンフラッシュは文字通り、ただ光るだけの玉だ。洞窟などの暗い場所で持っていると便利だが、店でも売っている。
冥府の門に至っては、99%混沌を生むという、いわく付きだ。異界とつながった門を召喚し、そこから何かの骨が出てくる。その骨は肉体を持ち、攻撃をするというものなのだが、「99%の混沌」が示すように何が生まれるかもわからない上に、大抵ハズレなので使うだけ周囲に迷惑をかけてしまう事が多い。
要にとってはスケルトンの見た目が全ての利点であり、このゲームを遊んでいる理由になっているので、スキルが使えなかろうが何の問題も無い。
「タマコ……やめなさい」
赤色53号の呆れた声を受けて、狼は女の子に変わった。
「タマコじゃないよ! ヒヨコだよ! 可愛いワーウルフのメスだよ!」
狼の耳にしっぽ、そして垂れ目に巨乳という、欲望をこれでもかと詰め込んだキャラクター「ヒヨコ」は頬を膨らませて、ついでに胸も弾ませた。
「悪いな、カナメン。こいつ俺の友達でブロッサムの奴」
「ブロッサム」はゲームで一番有名なギルドである。そして、田中要を恋に落とそうと、メールを毎晩送ってくる「御船健吾」こと、ミフネがリーダーを務めているギルドだ。雌鶏だの鶏胸肉だのと赤色に言われているヒヨコだが、一応ギルド内ではサブリーダーとして信用を得ている。
赤色は現在、男子限定ギルド「カラーリングヒストリー」のギルドリーダーであるが、ブロッサムは彼が昔所属していたギルドでもあった。
「私はミズキの嫁なんで! そこの所きちんと理解して行動してよね」
ヒヨコの言葉に、赤色は容赦なく乙女の首を絞める。
「タマコ。ミズキって呼ぶの止めろ」
ミズキは赤色53号の本名「橘瑞稀」のミズキである。そして、タマコはヒヨコの本名「小田珠子」のタマコである。本名を知っている者同士、つまり仲良しなのだが、とてもそうは見えないほど、仲良しすぎるという事らしい。
赤色の見た目が小さな少年なのも、ヒヨコの趣味である。一緒に遊んでいた別のゲームからGGLに移動して来た時に、ヒヨコが赤色の見た目アバターを指定したのだ。適当な名前からもわかるように、拘りの無い赤色は言われるままに作ってこうなったという訳である。
「フネ君が探してたよ。こんなのと遊んでないで私と遊んでよね」
ヒヨコは骨のカナメンを横目で睨みながら言う。
「胸揉ませてやらないぞ!」
「普段、揉んでいるみたいな誤解受けるだろうが!」
赤色は笑いながら、ヒヨコの頭を小突いた。
「ヒヨコ、カナメンのクエスト手伝ってやれ」
赤色はそう言うと、駆け足で去って行った。
「よろしくお願いします」
頭を下げたスケルトンを、腕組みしながら見下す狼娘。
「言っておくけど私はあなたみたいなの嫌いなんで。困っていれば誰かが助けてくれるなんて思わないでね」
ヒヨコは敵意を隠そうともしない。
「ミズキは忙しいのに……仕事増やしやがって。七味君はいないの?」
思いっきり嫌われてはいるが、仲良くなりたいと思ってしまう、長いまつ毛が可愛らしい女の子。とても好みなのだ。自分はスケルトンを選んでいるが、可愛いものが嫌いな訳じゃない。自分を可愛らしくするのが苦手なのだ。要にとっては、スケルトンの自分を着飾る方が心躍るのだから仕方がない。
要といつも一緒に遊んでいる「七味」も美少女キャラクターだ。今日は仕事が長引いて遊べないとメールが来ていた。
「今日は仕事で遅くなるそうです」
カナメンの言葉に、ヒヨコは残念そうにため息をついた。
GGLというゲームは、仮想空間を使ったVRMMORPGだ。レベルの概念が無く、スキルポイントを消費して特性を付ける。
あらゆる行動でスキルポイントは発現する。狩りでも製作でも散歩でも、この世界で生きる事が成長につながるゲームなのだ。しかし、クエストというお題を達成すると、効率良くスキルポイントが稼げる。
カナメンはスケルトンという事で、ゲームでの知り合いは少ない。1人では達成出来ないクエストも多い。それで、赤色に手伝ってもらっていたのだ。
「可愛いな」
ヒヨコの揺れるしっぽを見ていた要は、うっかり本音が出てしまう。
「美少女だもん! やっぱり可愛い子を毎日見たいじゃない」
にんまりと自慢げにヒヨコは笑った。
『七味さんも美少女にしたのは、可愛い子を毎日見たいからなのかな?』
そう思ったら、少し凹んでしまった。キャラクターはスケルトン、本体は普通。そんな要の恋心は、今日も前進しそうにありません。
スケルトン女子「カナメン」と美少女男子「七味」の恋物語です。1話完結でサクサク読める短編にしています。感想ブックマーク評価ありがとうございました! とても嬉しいです! かっこいい洋服のカナメンを考え中ですので、また読みに来てくだされば嬉しいです。
長編ラブストーリー「GGG(ジェネシス ガーディアンズ ゲーム)――終末世界で謎の生命体を狩っていてもラブコメは成立するだろうか」は1章が完結いたしました。よろしければ読んでみてください。