51.田中要は空想をする事にした。
一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ
カナメンの目の前に広がるのは、海の底。魚の群れが1つの塊のように回遊している。
「凄いなぁ」
大きな水槽にくっついて、少年のように目を輝かせているのは人間の美少女七味。
「これ全部食べられたんですかね?」
色気より食い気なのはスケルトン男子カナメン。
「どう倒すんだろうな?」
食い気よりも殺る気なのは人間の少年赤色53号。
「グゥ」
殺る気より寝る気なのは獣人の狼イヌカイ。
VRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)のゲーム内で水族館を体験するイベントが始まったのだ。
仮想空間に今は絶滅して居なくなった魚たちが再現されている。
薄暗い空間の中に並ぶ水槽は、たっぷりの水と元気に泳ぎ回る魚たちを活き活きと見せてくれている。
大量のクラゲがいる水槽を挟んで見ると、手下を従えているように見えてしまっているカナメン。本人はご満悦だがライトアップにより、一緒に薄っすら光っているのが何だか怖い。スケルトンとムーディーな雰囲気はどうにも相性が悪いらしい。
クラゲの揺れに目を回す赤色。
「酔った……」
イルカに水をかけられる七味。毛が濡れて細くなっているイヌカイ。
「僕が何したっていうの?」「クーン!」
スケルトンの後ろを歩くペンギン。親ペンギン状態で逃げ回るカナメン。
「助けて!!! 追われてる!!!」
水族館を楽しむ4人。
「あっちに触れる場所があるらしいよ!」
少年の心を忘れない七味は走り出す。
眠るイヌカイを背負って後を追う赤色。その後ろをのんびりと歩きながら、みんなの姿を温かい眼差しで見守るスケルトン。
普段はカッコ良く戦うプレイヤー達がはしゃいでいる様子は、中々見る機会が無いので珍しい。魚も面白いが人間も面白いなと思うカナメンであった。
ふれあいコーナーには浅くて大きな楕円形の水槽が何重にも囲むように置いてあった。その中には大量の魚。水槽の縁に沿って、ぐるぐると回るように泳ぐ魚の群れは圧巻だ。
中心にある小さな水槽。ここにはヒトデやウニなど動きの遅い生物がいる。空いているので、のんびりと触れ合う七味とカナメン。
浅瀬の生物がいる水槽を囲むように置かれたドーナツ型の中型水槽は、エイの群れが回遊している。勢い良く通り抜けるエイが来る度、伸ばした手で触れて全身の毛を逆立てているのはイヌカイ。
ヌメッとした表面と肉厚な弾力が鳥肌モノである。でもちょっと癖になる感じなんですよ!
エイの水槽の外側にある一番大きな水槽は鮭のつかみ取りが出来る場所だ。この水槽が一番人気である。獣人で熊を選んだプレイヤーなどは興奮のあまり獣化してしまうほどだ。
人間のキャラクターながら、楽しそうに鮭と戯れるのは赤色。両腕に鮭を何匹も抱えて嬉しそうな顔をしている。
4人は一通り遊んだ後、上も横もガラスになっている水中トンネルに並ぶイスに座って休憩をとる事にした。
座った途端、眠ってしまった赤色とイヌカイをよそに、のんびりと水槽を眺めるカナメンと七味。
「全部本当にいたらしいよ。人間の記憶を紡いで作られているんだって」
「これは昔の人の見た景色と一緒なんだね」
「何だかジンときちゃうね」
『私が知らない事。まだまだ沢山あるんだな』
カナメンが水槽を見上げると、ゆらゆらと水は揺れて光を放った。
「それではお待ちかねのー、最後のショウターイム!」
アナウンスを聞いて急いで起き上がる赤色とイヌカイ。そして、慌てて走り出した。
「思う存分、破壊してねーっ!」
このゲームのイベント。その最後のお楽しみは会場の破壊となっている。参加者に配られる特別なハンマー。これを振るうと手軽に建物が壊せるのだ。
ハンマーを配る場所には、大勢のプレイヤーが列をなしていた。
「このゲームのイベントって変だよね」
しょんぼり顔のスケルトンと美少女。の横でハンマーを入手して、やる気満々の少年と狼。
綺麗な物を破壊する人工知能AIの感覚はよくわからないが、参加者の受けはすこぶる良いのだった。
普段できない事ができるのがゲームだしね!
次々と壊されていく水槽。水浸しの床。そして、一番大きな水槽にヒビが入った瞬間、悲劇は起こった。
大量の水と共にサメの集団が飛び出し、次々とプレイヤーを襲い始めたのだ。水に飲み込まれ流されながら逃げ惑う人々。
水の中を高速で泳ぐアザラシの姿も見えた。
「あれは……アザラシじゃないぞ!」
それは水の中を泳ぐイヌカイであった。犬かきではなくウォータースライダーに乗っているかのように水流と一体化し、弾丸となって水の中を進む。
流された赤色を咥えると水面へと飛び上がった。その姿は正に獲物を捕らえたアザラシ! その後は水面に叩きつけられる訳だけど省略。
「カナメンさん!!!」
カメの背に掴まって波に乗る七見が現れた。カナメンを助けるべく手を伸ばすが、あともう少しという所で掴む事が出来ない。
「戻ってーーーーー!」
七味の要望に困り顔のカメ。カメは急には戻れない。七味はカメの上で立ち上がると、対面から流されて来たジンベイザメに跳び移った。
ジンベイザメにより戻って来る七味。その手はカナメンを捉えた。カナメンを後ろから抱きかかえたその姿はまるでタイタニック号のあのカップルのようだったが、可愛い顔に派手な斑模様の平たいジンベイ号では少し間が抜けている。そして、その格好のまま二人は背に乗りランデブーに出かけたのであった。まぁ、外まで押し流されただけだけどね。
こうして水族館イベントは幕を閉じたのである。水族館って楽しいよね!
イベントの様子いかがだったでしょうか! 水族館のふれあいコーナーでエイには是非触って欲しい所です。背中がザワザワするのにもう1回となる魅力がありますよ!
プロパイの気持ちになってイベントを考えてみたのですが、なかなか大変ですね。本当のゲームの運営さんも頭を抱えて悩んでいるんだろうなぁ。




