47.田中要は弟子をする事にした。
「カナメン久しぶり!」
声をかけてきたのは獣人の女子キャラクターであった。上はTシャツ姿、ズボンは上下つながった作業着。ツナギの上半身を脱いで、袖の部分を腰に巻きつけた、何とも女子からぬ格好である。しかも、首にはタオルまでかかっている。ストールでは無く、白いタオルだ。
「師匠じゃないですか! 買い物に来てたんですか?」
声をかけられた相手、スケルトン男子は嬉しそうな声を上げた。
ここはVRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)仮想世界ゲームの中なので、スケルトンがプレイヤーキャラクターでも問題は無い。そして、その中身が女子の「田中要」であっても、またもや問題は無い。
「材料が足りなくなったんでな、色々買った帰りなんだよ」
獣人女子の手にはパンパンに膨らんだ風呂敷包みが握られている。
「キャラクター倉庫は使わないのですか?」
カナメンの隣にいた人間の美少女キャラクター「七味」が不思議そうに声をかけた。ちなみに、この美少女の中身は「皆川七見」男子である。
「俺、街にはほとんど居ないからキャラクター倉庫使わないんだよ」
獣人女子はライオンの尻尾を振りながら答えた。この女子の中身も実は男子である。七味が女子らしい振舞いなのに対して、こちらは女子らしさとは縁遠い猛々しい振舞いだ。キャラクターの性別が女子だからといって、女子らしくする必要性は全く無い。キャラクターになりきるも、なりきらないも自由なのがゲームの良い所である。
ゲームの倉庫は3種類ある。個人で使える倉庫にはフィールド倉庫とキャラクター倉庫の2つがあり、残りの1つはギルドに割り当てられているギルド倉庫だ。
フィールド倉庫というのは、どこでも出し入れが可能な倉庫の事で、通常はポーチなどの形でキャラクターが身に着けている。ベルトでも太ももでも好きな場所に付けられる。基本的にはポーチやバッグだが、その人が指定した装備を倉庫に出来るため、やろうと思えば靴でもいける。いちいち脱いで靴の中を覗くのは変態的ではあるが。
キャラクター倉庫は街の中でしか開く事が出来ない倉庫となっている。フィールド倉庫とは違って入れる量を拡張で増やせるため、アイテムを沢山入れておく事が可能なのだ。
「こちら、私の友達の七味さんです。そして、こちら私の師匠のミムロさんです」
カナメンを挟んでお互いに挨拶をかわす。
「七味と申します。ミムロさんは何の師匠なのですか?」
「俺は鍛冶の師匠らしいんだが、師匠ってもなぁ、教えたの最初だけだし、カナメン最後の方は俺の動きを見て勝手に覚えてたからな」
七味の言葉にミムロは照れながら答えた。
「師匠の教え方が上手いから言葉は必要無かったんですよ!」
「相変わらず口も上手いなぁ」
スケルトンに骨抜きである。
「あれ? 鍛冶屋のミムロって……まさかねぇ、伝説の鍛冶職人ミムロだったりしないですよね? 引退したはずだし」
「おう。武器作りは引退して、最近は焼き物を作ってるよ。ロクロ回すやつ、なかなか奥が深くて面白いぞ」
「何でですか?! 勿体なさすぎるっ!!! 作れば作るほど大金持ちになれるのに……ん? カナメンさんの武器もミムロさんが作ってたりしないですよね?」
七味がカナメンを見た。
「タオルと交換で作ってもらったんですよ」
「タオルと同価値じゃないよ! 入手困難なんだよ?! お願いしますっ僕にも武器を作ってくださいっ!!!」
キラキラと目を輝かせる七味。
「お前だと1年はかかるぞ?」
ミムロの言葉に七味は肩を落とした。
「高い武器は手に入れるのも大変なんですね」
「あれ? 私には1ヶ月で作ってくれませんでしたっけ?」
不思議そうにミムロを見るカナメン。
「鍛冶の基礎が出来てる奴は早いだけだ。基礎が出来てから武器の性能ってのは必要になるんだよ。それに言っておくが、俺の作った武器に価値なんか無いぞ。誰が使っても強くなれる武器じゃないからな」
ミムロは溜息をついて言葉を続けた。
「体を鍛えた上でそいつの癖を見て補う武器を作る。正確に一点を狙えて、長時間戦闘をするには力加減の調整も必要になる。怪我をしない引き際の見極めもいる。鍛冶と戦闘の基礎は一緒だからな、まずは鍛冶技術を習得させてから武器は作る事にしているんだよ。カナメンの戦闘を見た事あるだろ? 正確でかつ動きに無駄が無いの分かるよな。あれは鍛冶の基礎が出来ているからなんだよ。俺の作った武器が評価されているのは使ってた奴が強かったからで、武器のおかげじゃない。やる気になったら山に来いよ、いつでも鍛えてやるぞ」
「師匠は今も山小屋住まいですか?」
「まぁな、誰も居ないから最高だぞ。んじゃ帰るわ。お前またタオル作ってくれよ」
「長めで薄めのやつですよね?」
「そうそれ、綿100%でよろしくな」
そう言いながら、ミムロはカナメンに風呂敷包みを手渡した。
2人から離れるとミムロは手を振って合図し、それを確認したカナメンは風呂敷包みを頭の上に乗せた。軽やかに駆け出したミムロの体は獣化して宙に浮く。その背には鳥の羽が生えていた。そして、カナメンの頭の上の風呂敷包みをカギヅメで引っかけるように持ち上げると、そのまま空を飛んで見えなくなっていった。
「飛んでる……」
七味は呆然として呟いた。そして、驚いていないカナメンの方を向くと叫んだ。
「普通は飛べないんだよっ!!!」
「そうなんですか。師匠は会った時から飛んでましたね。グリフォンの獣人なんですよ。さっと来て、ひゅーんな感じで飛べるらしいですよ」
「グリフォンって……ライオンと鷲を合わせた架空の獣ですよね?」
驚いて目を丸くしている七味。
「絶滅していなくなった動物も伝説の動物も、AI的には同類らしいですね。作れたんで作ったって言ってましたよ」
「何でだよ!!! あのね、カナメンさん。鳥に獣化しても普通は浮くだけなの。飛べたらね、前線に補給が出来るから最強ギルドになれるんだよ。って事は3人でギルドを作ったら……ナンバーワンの最強になれちゃうかもしれない……」
「師匠、ギルドは面倒だから入らないって言ってましたよ。無理ですね」
七味は顔を手で覆って泣き始めた。
「何でみんな最強を目指さないの。もう嫌だぁ。このゲーム変な人ばっかり」
「大丈夫ですよ、七味さんも十分変わり者ですから!」
にこやかに言い放つカナメンであった。
「えっ?」
次話「48.田中要は整頓をする事にした。」4/8更新予定です。
お待たせしました新キャラ「ミムロ」登場です! そして、気が付いたら名前のアルファベットがまた「M」でした。違うんです……Mが好きなんじゃ無いんですよ!




