【もっと恋骨!】旧第1話 短編版「田中要は恋をする事にした。」【おまけ企画】
田中要は恋をする事にした。
恋なんていう物は必要か必要で無いかと言われれば必要は無い。無くてもお腹は減らないし、減っても食べられる訳では無いからだ。
それなのに恋をする事にした。恋は落ちるもので、するものではないと友人は言ったが、落ちているものを拾っても恋は出来るというのが要の信条だ。
恋が落ちていたので拾ってみる事にした。それで幸せになれるかどうかは分からないが、拾ったからには世話をきちんとするべきだとは思っている。
落ちていた恋の相手、皆川七見は文字通り落ちていた。仮想世界に。
要がはまっているVRMMORPG「GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)」というゲームは、ファンタジーの世界を疑似体験出来るという仮想空間で、可愛い女の子から、かっこいい男の子まで、なりたい自分になれてしまうものだった。
その世界で要が選んだのは、スケルトンだ。つまり、骨だ。理科室にある骨格標本にそっくりな骨だ。23歳女子が選ぶには渋すぎる選択であるが、なりたいものがスケルトンだったのだから仕方がない。
なりたいものになりきった結果、誰とも遊んでもらえないという結果を招いたが、スケルトンを辞めるぐらいならゲームを辞める方を選ぶ。
七見は仮想空間の空間に落ちていた。つまり、変な場所に入り込んでしまい、動けなくなっていた。もがいていた姿は可愛い女の子だった。男子であるが、女子である。見目麗しい美少女に作られたアバターは、もがき苦しみながら骨に助けを求めた。そして言った。「助けてくれたら何でもします」と。
言ってしまったからには、何でもされてしまう訳で、その日から七見は要のシモベとなった。
シモベの仕事が何なのかと言うと、骨と一緒に骨を倒すという、残虐極まりない行いであった。操作するプレイヤーキャラクターの選択肢に骨があるのに、倒す相手のモンスターにも骨がいるという、作った人出てこいと言いたくなるような仕様ではあるが、それがウケている。要にだけ。
毎月少しずつではあるが、現実世界で必死に働いたお給料の一部を仮想世界の骨に貢いでいる。かっこいい帽子、かっこいいマント、どれも確かにかっこいいが、骨に似合うかは話が別である。着れるのだから、もちろん着る。欲しいのだから、もちろん買う。そうやって集めた洋服たちは、倉庫を圧迫しているのだが、女子たるもの、着せ替えを楽しみたいのだ。
着飾った骨と一緒にいるのは、これまたとても変な配色の服を着た美少女だった。何でそんなちぐはぐな組合せの服を選ぶのだと説教をしたくなるのだが、不思議とその辺が男子に受けている。あの子はきっと、貧困にも耐えられるほど心が綺麗なのだと。
七見のキャラクター「七味」は男子に受けがいい。中身が男だと分かっていても、それで良いらしい。男心はさっぱりわからん。
要のキャラクターは「カナメン」もちろんオス……男子である。要の男キャラなのでカナメン。そんな安易な理由で付けられた名前だが、要はとても気に入っている。
七味とカナメンが並ぶと、囚われた人間と魔王のようであり、他人の目を引くわけだが、その仲睦まじい様子は何故か和みというものを生むらしい。 乙女が魔王の呪いを解いて、ハッピーエンドという訳だ。要の意向でその呪いは解かれる事は無いが。
「カナメンさん。今日はどこに行きますか?」
七味は上は銀の鎧、下は黄色のミニスカート、頭にはカエルを乗せた格好でカナメンに話しかけた。
「そうですね。今日はネオスケルトンでも狩りますか」
カナメンは黄金の鎧、赤のマント、大きなつばの付いた赤いシルクハットを被った格好で答えた。
ネオスケルトン、それはネオなスケルトンである。つまり、骨だ。どの辺がネオなのかというと、死んでいるのに動いていて、倒しても1回起き上がって来る、ネオな感じなのだ。1回で2度美味しいスケルトン。とてもネオ。
「ネオは良いですね。レアドロップは確か……鎧のエクゾスケルトンですね」
七味の言葉にカナメンはニヤニヤと不気味な笑みをこぼしながら答えた。
「新しい服が買えるな」
「服だけじゃなくて、装備の強化もしてくださいね」
七味は頬を膨らませて不満そうにカナメンを睨んだ。
七味が何故ちぐはぐな格好をしているかと言うと、もちろん先程の説明のように貧困を醸し出しているのでは無い。それは見た目の色合いよりも、装備の効果を重視した結果であった。装備にはオプションと呼ばれる特殊な効果が付いているものがある。何のオプションが付いているかは、モンスターからアイテムが落ちた時に決まるため、オプション効果を重視すると、見た目は二の次になってしまうのだ。
それをカナメンは理解しがたいといつも思っている。見た目が良い上で強い。かっこいい上で強い。それがカナメン美学であり、着飾ることは至上である。だから趣味スケルトンは止められないのだ。
ゲームを遊ぶスタイルには、効率重視と楽しさ重視がある。七味は効率重視派で、カナメンは楽しさ重視派である。
そんな合わなそうな2人が一緒に毎日を過ごせるのは、七味がシモベである他に、お互いがこのゲームを大好きだという共通点があるからだ。
狩場に到着し、ネオスケルトンと戦い始めると七味は言った。
「僕と会ってくれませんか?」
「毎日会ってるじゃん」
カナメンは不思議そうに返事をした。その言葉に七味は少し遠慮がちに言った。
「来月のGGLのイベントに一緒に行きたいんです」
「んー? 本体同士ってこと?」
カナメンは驚きの声をあげてしまった。ゲーム内ではなくて、ゲーム外で七味が会いたがっている。その事がとても不自然に感じたからだ。
カナメンこと要は一応、女子である。そして、七味こと七見は男子である。そうなるとつまりは、異性が出会うという事になってしまう訳で、デートとも取れなくもない。そんなつもりがあるとは思えなかったため、何か買わされるのではと不安になってしまった。
いつも狩りに付き合ってくれて、感謝はしている。だけれども、感謝以上は無い。面倒事も避けたい。
返事に困っていると、倒したネオスケルトンが何かを落とした。
「出た!!!」 七味が歓喜の声を上げる。
地面には透明な鎧、エクゾスケルトンが本当に落ちていた。そして、喜んだ2人の前でレアドロップ「エクゾスケルトン」は消えた。消えたというか拾われた。横取りというものである。
このゲームには、稀に出現する「鳥」と呼ばれるノンプレイヤーキャラクターがいる。このキャラクターは、床にあるアイテムを食べるという性質がある。
モンスターと同じで、操作しているプレイヤーはいない。突然現れて、アイテムを横取りする鳥である。横取りの鳥……骨をキャラクターにするだけある運営の類まれなるセンス。そして、横取りされた後に鳥を倒すと、横取りされたアイテムが2個に増えるという、嬉しいのか面倒なのか分からないセンス。行き過ぎたセンスによって生まれた迷惑キャラという訳だ。
しかしながら、2人にとってはチャンスとも言える。滅多に出ないアイテムが2倍に増える。それはすなわち、一獲千金のチャンスである。倒せればだけど。
この鳥は非常に移動速度が速く、簡単に倒せる相手では無かった。制限時間は1時間。1時間以内に倒せなければ、飲み込まれたアイテムが消化されて消えてしまう。
「1時間か……間に合うかな」
カナメンが不安そうに声をあげた。
現在の時刻は0時30分。七味は深夜1時を過ぎてしまうと、自動的に動かなくなる。いわゆる寝落ちというやつである。毎日の仕事で疲れていても、ゲームにログインしてくれる。そういう優しさのある七味の事が、カナメンはとても好きなのだが、突然眠って動かなくなるのには本当に困ってしまう。そのため、絶対に1時は過ぎないように気を付けているのだ。だが今回は、レアドロップが相手だ。それを手に入れられるかによって、今後の遊び方も変わってくるため、どうしても手に入れたい。
人をバカにしたような鳴き声の鳥は、長い足と丸い胴体で、羽をはばたかせながら逃げ回る。鳥は鬼ごっこと言わんばかりに楽しそうだが、こっちは必死な形相だ。
時間は刻々と過ぎていき、あっという間に1時をまわってしまった。すると、七味は右に左にとフラフラおぼつかない足取りになった。おそらく頭がガクンガクンと落ちるのに合わせて、操作が狂っているのであろう。
「無理しないで寝な?」
「イベント行ってくれますか?」
こんな状態で何を言っているのかと思ったが、眠ってくれるならとりあえず後で断れば良いと、思い切った。
「わかった、わかった、OKだから、寝て」
その言葉を聞いた七味はとうとう動かなくなった。
「ただいま」
眠ってしまったと思っていた七味が声を出した。
「あれ?寝落ちしたんじゃないの?」
「水被ってきました」
「はぁ?」
いったい今、どのような状態なのだろうか。
「絶対に手に入れます」
気合の入った声で七味は言った。
「いやいや、寝ようよ」
「諦めませんから。あれを手に入れて、笑顔であなたと会います」
そこまでか、そこまでなのか。嬉しいような、怖いような、申し訳ないような。自分に価値が無いのは分かっている。がっかりされるのも分かっている。わざわざ傷つくのは嫌だ。今の関係が壊れるのも嫌だ。嫌だ嫌だ。行きたくない。嫌な事ばかりだ。でもきっと、頑張る人が報われない方がもっと嫌だ。
大人しそうに振舞って、女らしく着飾って、嫌われないように偽って。それをやるだけの価値が相手にあるのかって考えたら、すぐ答えが出てしまった。
ジェネシスガーディアンライフ、イベント当日。普段は絶対に見られないスカート姿の田中要がいた。
約束の時間。約束の場所。緊張で引きつってしまう頬を指で引っ張る。ちゃんと笑顔を出せるだろうか。
『到着しました』
メールが届いた。
周りを見回してみる。そこには冴えない感じの、だけれども、とても嬉しそうに目を輝かせている男性がいた。
深呼吸をして、思い切って声をかける。
「初めまして」
下げた頭を照れくさいながらも覚悟を決めて上げると、男性は目を丸くして驚いた様子で言った。
「え? カナメンさんって女の方だったのですか?」
「え? 気付いて無かったの?」
大誤算というか、とてつもなく恥ずかしい。悩んだ私の2週間を返せ。
開き直った。普段着ないスカートでの大人しい足取り、借りて来た猫の性格を止めた。女で無くて良いのなら、必要無いのだ。この人には。
とても楽しかった。初めて会ったのに、沢山の会話が出来た。
とても楽しかったんだ。
だから、田中要は恋をする事にした。たまにはそんな冒険も良いのではと思ったからだ。未知に挑む事は楽しい。それが君と私の二人なら、きっとどこに居ても楽しめるはず。
私はまだ恋に落ちてはいない。恋に落ちるために、恋をする事にした。そんな恋があっても良いのだ。そう思えた事がきっと大切なんだと思う。
さぁ新しい冒険に出かけよう! 恋の世界ではどんな魔法が覚えられるのだろうか!
恋骨は、この1話だけで終わるはずのお話でした。文体やキャラクターの性格なども、ここから広がって変わっていきました。その迷走も含めてお楽しみ頂ければ嬉しいです。
※追記2020年1月
一番最初に書いた短編版の恋骨です。改稿によって第1話から消す事になったのですが、思い入れが強いので番外おまけとして残しておこうと思います。読むと懐かしさに笑ってしまって何だか元気が出てきます。よし、がんばろう。




