45.田中要は決断をする事にした。
「俺と付き合うなら、お前を変えてやるぞ」
現実世界のMUは仕事の手を止めず、目線を向ける事も無く言った。
今、Zsの社内には火豪茂と田中要の二人っきりである。
こんな時の選択肢は聞き直すために質問する、もしくは無視である訳だが、聞き間違えの可能性が高い場合の選択はもちろん無視である。恥ずかしい思いをするぐらいなら無視である。恋の花が咲く可能性があろうとも無視させていただきます。
「口説いているのに無視すんな!」
「いきなりそんな事言われても困ります!」
どうやら恋の蕾の方であったようである。甘さの無い二人に恋は可能なのだろうか……多分無理だな。
「俺、女の人変えるの得意なんすよ」
言っている内容とは裏腹に、火豪はまるで気が無いかのように飄々《ひょうひょう》と言ってのけた。というか、中身と相手どっちの意味だろうか計りかねるぞ。
「出会ってから1ヶ月も経っていないですよね?」
困惑顔の要。
「時間って関係あります?」
不思議顔の火豪。関係は無いが一目惚れは信じない主義なのです。
火豪は両耳に沢山のピアスをつけている男子だ。ゲーム世界のガイドAIミューにそっくりなのだ。つまりは……カナメンがミューになるって事? 耳が無いスケルトンにピアスってどうやって付けるのやら? まさかの鼻ピアスか!?
「要さんは自分の変え方が分かんないから動けないだけなんですよ。俺、要さんの世界を変えられますよ。ただし、付き合ってる人にしかやらない事にしてるんで。どうっすか? きっと楽しいっすよ」
火豪は少し照れくさそうに頬を赤らめた。
「自分を変える……かぁ」
一応ちゃんとは口説かれている様子に要は考え込んでしまう。
ルシフェルのグッズを作る時、やりたい事は何だろうって思ったら、自分自身だけでやり遂げる事じゃなかった。それに、自分だけでは他の人を満足させる事は出来ないと思った。ならば「他の人の手を借りよう」そう思った。私はルシさんとは違う。他の人に夢を見てもらう事は出来ない。だから「一緒に楽しみたい」と思ったんだ。1人でじゃなくて、誰かにじゃなくて、一緒に。
本当はもっとしっかりしなきゃダメなんだろうな。でも焦らないようにして頑張ろうと思う。走るのは苦手だから、のんびりでも歩き続けていつか高い坂の上へ立つ。遠くまで景色が見える場所に自分の足で辿り着いた時、とても気持ちが良いだろう。
「まだ、自分自身で大丈夫!」
慣れないので少し引き攣った作り笑顔をする。これが今の精一杯。
「それは残念。いつでもどうぞー」
要と火豪は顔を見合わせて笑ってしまった。残念だけど、この恋は進まないらしい。
仕事が終わり、要が会社の鍵をかけて歩き始めようとすると、御船健吾の姿が目に入った。
御船さんは何のキャラに似ているんだっけ。御船さんはミフネさんで合ってるのか。最近、現実と仮想世界がごちゃ混ぜになる! そんな独り言を頭の中で呟きながら歩く。
「こんばんは御船さん。桔梗さん今日は出張で来ていないんですよ」
御船は桔梗の幼馴染だ。おそらく桔梗待ちなのだろうと声をかけた。
「今日は要ちゃんに用事があって来たんだ。これから食事どうかな? 前と同じレストランでどう?」
珍しく要が本命である。
「今日パーカーなんで拒否されちゃいますよ」
要はパーカーで会社に行く事が多い。自分が着たいから作る。自給自足? 自作自演? 何か違うな。
「大丈夫だよ。経営者が良いって言っているんだし。気になるようなら、個室を用意させるね」
電話をかけ始める御船。
「御船です。個室を用意して貰えるかな。今から向かう……ありがとうよろしく頼む」
「あの……もしかして」
「あれ? 合コンの時、言わなかったっけ?」
スミマセン、キョウミガナクテ、キイテイマセンデシタ。
ビルの最上階の素敵なレストランは、またもや転ばせようとしてくる。しかし! 2回目だから足にまとわりつく深い絨毯も怖くないぞ。
落ち着いた個室の席に着くと、スケルトンを沢山売らないと食べられない値段の料理が運ばれてきた。あなたは何スケルトン分? 嵩だかに盛られたパスタと心の中で会話をしながら口へと運ぶ。
そうこうしている内に御船が会話を試みてくる。
「要ちゃん。俺の会社に来ないか?」
「へっ?」
「桔梗から話を聞いたよ。大きなクライアントの仕事を成功させたんだってね。今うちの会社は、これまでに無い視点で仕事が出来る人材を探しているんだ」
「たまたまですし、それに……」
「桔梗は他人の邪魔をする人間じゃない。それにあいつがその気になってくれるなら、俺はいつでも手助けするつもりだよ。寧ろ二人とも欲しいと思っているんだよ」
押しの強さも相変わらず元気そうである。
「御船さんの会社に行く。それは幅広く仕事が出来るようになる……忙しくなるって事ですか?」
「そうだね、要ちゃんにはチームリーダーをお願いする事になるかな」
その言葉を受けて、要は決心をした。
「分かりました。お断りします」
「よかっ、えっ何で?! 来てくれるよね?!」
「行きませんよ? ゲームをする時間が無くなりますもん」
ゲームがあるから仕事が頑張れる。仕事があるからゲームが楽しめる。ほどほどにご飯が食べられて、ゲームが沢山できる今が最高なんです!
ゲームはいつか無くなる。それは、解っている。無くなってしまったら無意味になる。解っているよ。無意味に向かう事は無意味だ。それも解る。何もしない事は無意味だ。そうだね、だけど無意味に向かって自ら選択して進む事には意味がある。そう思う。
無意味な事に意味を与えるのは自分自身だと思うから。
毎日会いたくて心満たされる。一緒にいると成長できる。ゲームに対するこの想いって……まるで恋みたいだなぁ。そっか! 私はゲームに恋をしていたのかもしれない。
私はこれからもゲームと恋をしたい。あなたの事が大好きなんです。そうあなたに伝えたい。
だから、田中要はスケルトンになって恋をする事にした! さぁ、家に帰って恋をしよう!
このお話で3章は終了になります。お読みいただきありがとうございました! 感想や評価をお寄せいただけると嬉しいです。
4/1から4章を始めようと思います。4章はゲーム内のお話を沢山書きます。今度のカナメンは獣王だ! 新キャラも出るので、お楽しみに!




