44.田中要は企画をする事にした。
一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ
朝。田中要が会社に行くと、知らない人がいた。
その男の人は派手なTシャツ姿。そして、両耳に沢山のピアスをつけている。
『MUみたいだ!』
要が思い出したのはVRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)において、エルフ村のガイドとして働くAIのミューの事だ。
ミューは清楚な見た目のエルフ少女だが、片耳に10個ずつ、合計20個ものピアスを付けている。ピアスの重さで垂れ耳エルフという貴重な存在となっている。しかし、可愛い姿を相殺する高圧的な態度と荒い気性が非常に残念な感じに仕上がっている。但し、カナメン以外のユーザーに対してはちゃんと丁寧な仕事をしているようではあるが。
「要ちゃん、紹介するね。火豪茂くん。今回の助っ人として呼んだの」
南桔梗に紹介された人物は頭を下げた。
「骨魂の火豪です」
ぶっきらぼうな感じも、ミューにそっくりだ。
ミミミの中身である三古屋三美はガイドAIであるPHIにそっくりだし、火豪茂はミューにそっくりだ。面識が無い訳だから似せて作っている訳では無いのに、仮想世界に作られたキャラクターに似た現実の人間がいる事がとても面白い。
「火豪くんはライブをやるし、グッズも自分で作っているのよ」
要は三美に嵌められ、ビジュアル系アーティスト「ルシフェル」のライブグッズを作る事になったのだ。
Zsが静のスケルトンとするならば、骨魂は動のスケルトンと言えるだろう。
スケルトンと言うと白と黒をイメージしやすいが、骨魂はメインカラーが赤だ。炎とスケルトンがほとばしるイメージは常に躍動的で心が躍る。
狭いダンジョンにいる事が多いスケルトンは、動きが鈍いのをイメージしやすいが、骨魂のスケルトンは激しくポーズを決める。そして、血生臭く無い所が要も大好きなスケルトンブランドだ。
死者を思い浮かべる時は血を想像しやすい。しかし、普段からスケルトンと一緒にいたい要としては、爽やかなスケルトンが好ましいのだ。
「骨魂さんの方がライブグッズ、向いている気がします」
作業をしながら、つい不安から弱音が出てしまう。
ゼスは普段使えるアイテムを目指していて控えめなのに対して、骨魂は主張が強いのでライブグッズに向いている。作る物まで地味な要は自信が持てなかった。
「ゼスに頼む意味が何かあるんじゃないの?」
気に留めた様子も無く自分の作業をしながら火豪は答えた。
『ゼスが引き受ける意味か……』
考えたグッズのプレゼンテーションの日。
ルシフェルとマネージャーの三美がゼスにやってきた。
「お待ちしておりました。ブラックアウトの皆様。こちらへどうぞ」
二人を出迎えたのは火豪であった。見た目のいかつさと違い、とても丁寧な対応をしている。
『火豪さんって営業の時はきちんとしているんだな。こんな所までミューさんと似なくても良いのに。笑ったら緊張が少しとけた。よし、頑張ろう』
「ゼスとルシフェルだから出来る事を考えました」
要はプレゼンテーションを始めた。
「ライブは仮想世界でも行けるのに、あえて人間がそこに行く意味がある。だから、そこに一緒に行けるグッズを、一緒にライブを見たグッズをずっと持ち続けられたら素敵だと思うんです」
要は黒い布を何種類か取り出し並べた。
「手触りは最高だけど長持ちしないので商品化出来なかった生地があります。桔梗さんのスピラル9技術でしか作れません」
どんな物質も作り出すことが可能な可変素粒子「spiral9」は、設計データを基に装置で加工をすると、どんな物でも作る事が可能だ。更に腐敗劣化が著しく起こりにくいものであり、服も建物も作った物は、よほどの悪条件でなければ朽ちることはない。
桔梗はスピラル9設計士の資格を持っている。資格があれば設計図を機械に組み込む事が可能だ。ゼスのグッズの多くも桔梗が設計した物を出力し、加工して作っている。
世の中に多く広まっている生地は、丈夫さが主流となっている。丈夫であっても手触りにまで拘った物は少ない。手触りに拘ると腐敗劣化が起こり品質が悪いと思われがちだからだ。
「スピラル9により人間は物を持ち続ける事の意味が薄くなっています。必要になったら作れば良いからすぐに捨ててしまいます。だけど同じ見た目でも、心が感じるモノは違うような気がするんです。世界に1つしか無い物は、認識でしか区別を得られない。いつでも手に入れられる事は良い事です。それと同時に、同じ物に認識で意味を付加しても良いと思うのです」
要は一息置いて言った。
「使用する事の快適さと、邪魔にならず手元に置いておけるグッズの融合を提案いたします」
様々な形をしている、ピアスに使用するようなシルバーのスケルトンモチーフをテーブルに並べた。
「モチーフは一生残りますので、消えてしまう布も気兼ね無く使えます。モチーフを毎回変えれば、集める事そして並べる事にも意味を持たせられると思います。ナインナイトにモチーフを展示する場所を作って、ルシフェルの世界観の表現をするのも良いのではと思っています。星は1つでも綺麗ですが、沢山集まったら新しい意味も持ち始めます。新たな思い出になります」
要は言った。
「グッズなのですが……ブラックアウト、ゼス、骨魂の三社合同にする事は出来ませんでしょうか」
要は桔梗の生地に骨魂の熱いデザイン。そして、要の作ったモチーフが付いたグッズを取り出した。
「私が考えたルシフェルはこの形でした。ルシさんのイメージです」
一緒にいると心地よくて、だけどいっぱいドキドキさせられて、沢山の思い出をくれる。それが要が感じたものだった。そして、ルシフェルと三美の同意が得られ、三社合同でグッズ製作は行われる事になった。
「ありがとうね、田中さん」
三美は要に近づくと言った。その声は戦略を含んではいなかった。
「ルシはわがままを言ったりする方じゃないんだけど……直感でどうしてもって時があるのよ。最初の曲も変えて成功したし、執事喫茶もルシの魅力を伝えるのに最適だし、常識じゃ無くて、その時本当に必要なものがわかるんだと思うのよ。だからルシの直感は信じる事にしているの。ルシがどうしてもあなただって言うから、少し無理強いしてしまったけれど良かった」
三美は珍しく可愛らしい笑顔で、嬉しそうに笑った。
「別に……可愛くて我がままをきいてあげている訳じゃないわよ?」
小話:スピラル9技術はGGG第2章に登場する架空の技術です。商品製作における3人の違いは、要は布や糸を使って刺繍をして商品サンプルを作り、桔梗にSP9データにして貰って商品完成になりますが、桔梗の場合はいきなりデータのみで商品を完成させる事が出来ます。
火豪はTシャツなどにデザインをプリントして商品を作っているので、SP9知識が無くても商品が作れますが、型から作る時は桔梗に依頼していた関係で知り合いなのでした。
AIが商品分野を制していないのは、体を持つ事を禁止されているため使用感などが分からずクオリティが低くなりやすいためです。
次話3/26更新予定「45.田中要は決断をする事にした。」で3章が終了になります。その後1週間お休みをいただいて、4/1から4章を開始しようと思います。




