43.田中要は逢瀬をする事にした。
一話完結 恋する着せ替えスケルトン 短編シリーズ
「こんにちは田中さん」
眼鏡の支配者は勝ち誇った顔で田中要を見た。
「よろしくね! 要ちゃん!」
その後ろから姿を現した堕天使は、嬉しそうな顔で田中要を見た。
田中要の方はというと……しかめっ面である。緊張で昨日から顔の引きつりが戻らないのだ。
「断る!」
その一言が中々難しい。それを要は良く知っている。御船健吾との逢瀬で学習済みなのだ。あと、ゲーム内でも学習済みだった。
「私は南さんとの打合せがあるので、ルシと田中さんは2時間ほど席を外してくれるかしら? 許可はもらっているので……よろしくね?」
この眼鏡、いや三古屋三美という怪物は、要の上司である南桔梗の心も既に掴んでいるらしい。
それもそのはず、VRMMORPG GGL (ジェネシスガーディアンズライフ)において戦略家の名をほしいままにする、ギルド「攻機結戦」の(影の)リーダー「ミミミ」の中身なのだから。
「行こー!」
要の手を掴んで、この世のものとは思えない美しさで微笑むのは、ビジュアル系アーティスト「ルシフェル」である。これまたゲーム内では無敵の突破力を誇る「超高神聖ルシファライト」の中身となっている。
ギルド「攻機結戦」はゲーム内で1位2位を争う強いギルドだ。突破力と戦略に長けている。そのギルドのリーダー超高神聖ルシファライトと、そのギルドの(影の)リーダーミミミが顔を揃えている。
ゲーム内では色々な意味でかなりの強さを誇るカナメンでも勝てないのに、中身である田中要が現実世界で勝てる訳が無い。
『執事姿の時も格好良いけど、私服も良いなぁ』
手を引かれながら、姿をまじまじと見てみた。後ろからなら目が合わないで済む。そのおかげで気が付いた。ルシフェルさんは仕草が綺麗なんだ。
そしてもう一つ気が付いた。さっきから何だか他人と目が合う。見られている? なるほど。この人、存在感が強いのだな。ってまずいじゃん! 見られていると思うと緊張感がすごいんだけど!!! 今までの人生で歩いている時に人目なんて気にした事が無かった。むしろ街に馴染む能力は全ての人を凌駕する最高性能を持つ要だ。
「ルシファラ……フェルさん」
「ルシで良いよ、要ちゃん」
「ルシさん、出来るだけ早く人目の無い所に行きましょう」
「ファミレスとか?」
「もっと誰も居ない所でお願いします。2人っきりになりたいんです!」
「それなら、良い所あるよー!」
で、着いた場所。そこはネットカフェだった。
「要ちゃんゲームやる?」
「やりません!」
カナメンでログインする訳にはいかない。
「要ちゃんは星嫌い? 天体観測ゲームなんだけど」
「やります!」
手慣れた感じにゲーム機械を起動してしまう。毎日ゲームやってるしね。設定とかすかさず調整しちゃうしね。
「ルシさんはゲーム好きなんですね」
「似合わないかな?」
「そうですね、人気者なのにとは思いますね」
「ミミちゃんがゲームが好きだから、ルシもやりたくなるんだ。何か世界を思い通りに動かせるのが楽しいんだって。動くもの全てを支配している気になるとかって言ってたかな」
なんか分かります。そんな感じですよねミミミさんって。人間だけでなく、AIまでも駒のように動かしちゃってるもの。カナメンも毎度振り回されっぱなしである。
ヘッドマウントディスプレイを装着してゲームにログインする。目の前に草原、そして星空が広がった。
隣には男の子のキャラクターが立っていた。要は女の子のキャラクターを選んだので、ルシフェルには今、要が16歳ぐらいの女の子に見えているのだろう。
『執事の時は近寄りがたかったけど、普段の人懐っこい感じはゲーム内の方に印象が近いな』
そんな事を思いながらルシフェルを見た。星を見るんだ要、星を!
空を見上げながら男の子は言った。
「他の人はプライベートも変えろって言うんだけど、ミミちゃんが変えるなって言うから変えない事にしているの」
「ミミさんを信頼しているんですね」
「うん! ミミちゃんの事、大好きだもの。あっ、でもキスする好きじゃないからね。キスは独占する者同士がするものだから、ルシはみんなが好きだからしないよ!」
ミミミさんはいったいどういう教育を……。
女の子はクスクスと笑った。現実世界でも突破力が高いなぁ。
星空の下を並んで歩く。ただそれだけなのに楽しい。偽物なのに楽しい。
「ルシね、笑って欲しくて毎日歌ってたの。目の前を通る会社帰りのミミちゃんは毎日辛そうだった。だから、笑ってって歌ったの。だけど気付いたの。泣かないと笑えないの。だからミミちゃんに泣いて欲しくて歌を歌ったの。泣きたいのに泣けないの。だから泣いて良いんだよって。そしたら、ミミちゃんは初めて足を止めてくれて、ルシの歌を最後まで聞いてくれたの。それで、ミミちゃんは会社を辞めて、マネージャーになって、執事喫茶を作ったの」
支離滅裂だが、それでも彼の声は夜空に心地よい。
「ミミちゃんは最後には全員を幸せにする人なんだよ。ルシはそれを知っているからミミちゃんの事を信じられる。だって、ルシは他の人のために自分を犠牲にして頑張ってた、陰のミミちゃんの事をずっと見てたんだもん。だからミミちゃんの進む道を一緒に歩いていくよ」
「私は……私のためにしか頑張っていないや」
「違うよ要ちゃん。要ちゃんは要ちゃんを元気にしたいからがんばっているんでしょ? それは人の為に頑張ってるって言えると思う。自分の為だけど、自分という他人のために頑張ってるんだよ。あれ? わかんなくなった、でも、そういう事だとルシは思う!」
男の子は笑った。
「ルシはミミちゃんっていう神様を手に入れたの。だから沢山の人の世界を変えるよ」
その願いが叶うようにと流れ星に願った。偽物でも効果ってあるのかな? 分からないけど願いたくなったんだ。
「おかえりなさい、ルシ」
「ただいま! ミミちゃん」
二人は会社に戻って来た。
「田中さん、ちょっと良いかしら?」
三美が要に近づくと、耳元で囁いた。
「ちょっと困った事になってね。仲の良い雑誌記者の方から連絡があったのだけど」
手に持った携帯電話には、ルシフェルと要が手をつないで歩いている姿が写っていた。
「今の状態だと『彼女は一般人なのでお答えできません』としか伝えられないのよねぇ。デザイナーという事なら仕事相手として、この記事無かった事に出来るんだけどなぁ。困った事になったわぁ。Zsの服を着た女子がルシフェルを誑かしていると思う人もいるかもしれないわねぇ」
もちろん眼鏡は光りますよね。
『ルシさん……手に入れたのは多分、悪魔だと思うよ……』
後2話で3章が終わります。
3/22更新予定「44.田中要は企画をする事にした。」
3/26更新予定「45.田中要は決断をする事にした。」
1週間ほどお休みをいただいて4/1から4章開始の予定です。4章はゲーム内のお話になります。恋骨はGGGと違って5話先ぐらいまでしか考えずに進めているので、自分でもどうなるのかが楽しみです。熊谷お気に入りの新キャラ3人を予定しているので、暴れてくれる事でしょう。お楽しみに!




